便無(読み)びんなし

精選版 日本国語大辞典 「便無」の意味・読み・例文・類語

びん‐な・し【便無】

〘形ク〙
① 都合が悪い。具合が悪い。どうしようもない。びなし。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「ここはいとかくびんなきを、ひごろ侍る所に物のさとしなどせしかば」
古今著聞集(1254)一六「はれにてもえひかへ候はず。御所にてもつかうまつられ候へば、かつはびむなきかたも候」
② ふさわしくない。感心しない。また、厚かましい。ぶしつけである。びなし。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「びんなき事。年の初に一人はいかでか。今宵はや渡り給ね」
日葡辞書(1603‐04)「Binnai(ビンナイ) マウシ ゴト ナガラ
③ 気の毒だ。哀れだ。いたわしい。びなし。
※俳諧・本朝文選(1706)五・記類・落柿舎記〈去来〉「きのふの価(あたい)、かへしくれたびてむやと佗。いと便なければ、ゆるしやりぬ」
[語誌](1)名詞「便」(ついで・便宜・都合)と形容詞「なし」が複合した語で、①が本来の意。ほぼ同じ意味を表わす語に「不便(ふびん)」があるが、前者は対象を外側から観察し、分析的に把握した末に下す客観的・理性的な判断を表わすのに対して、後者は情意的な判断を表わす。
(2)中世以降、③の意味で使われるようになるが、その意味では「ふびん」が多用され、その勢力をしだいに弱めていく。
びんな‐げ
〘形動〙
びんな‐さ
〘名〙

び‐な・し【便無】

〘形ク〙 (「びんなし」の撥音「ん」の無表記) =びんなし(便無)
蜻蛉(974頃)下「告げ聞こゆべしとなん、思ひしかど、びなきところに、はたかたうおぼえしかばなん」
びな‐げ
〘形動〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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