例ば(読み)たとえば

精選版 日本国語大辞典 「例ば」の意味・読み・例文・類語

たとえ‐ば たとへ‥【例ば】

〘副〙 (下二段動詞「たとふ」の未然形「たとへ」に「ば」を伴ったもの)
① (多く、「ごとし」と呼応して) 物にたとえていえば。例をあげていえば。
古今(905‐914)仮名序僧正遍昭は、哥のさまはえたれども、まことすくなし。たとへば、ゑにかけるをうなをみて、いたづらに心をうごかすがごとし」
仮定事柄例示するのに用いる。いってみれば。手っ取り早くいえば。
平家(13C前)六「義仲も東山・北陸両道をしたがへて、今一日も先に平家をせめおとし、たとへば、日本国ふたりの将軍といはればや」
③ 前の事柄を受けて、それをさらにくわしく述べたり、具体的な例を示したりするときに用いる。くわしくいえば。
※高野本平家(13C前)一「入道相国、一天四海をたなごころのうちににぎり給ひしあひだ、世のそしりをもはばからず、人の嘲をもかへり見ず、不思議の事をのみし給へり。たとへは、其比都に聞えたる白拍子の上手、祇王祇女とておとといあり」
④ 助詞「ば」を伴った条件句に先立って、順接の仮定条件を表わす。もし。仮に。
※大日経義釈延久承保点(1074)三「設(タトヘば)事相の中に〈略〉世間悉地を成さば、功唐捐ならじ」
⑤ 「とも」「ども」などを伴った条件句に先立って、逆説の仮定条件を表わす。仮に。たとい。よしんば。
※千載(1187)雑下・一一六〇「今行く末稲妻の 光の間にも 定めなし たとへば独り ながらへて 過ぎにしばかり 過ぐすとも 夢に夢見る 心ちして 隙行く駒に 異ならじ」
[語誌](1)漢文訓読語系の語で、中古の和文では用例は少ない。「その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたらんほどして」〔伊勢物語‐九〕のように、「ここに」のような修飾語を承けている点でも、「たとへ」に動詞性が感じられ、副詞化しきってはいない。
(2)中世に入ると、副詞化が進み、「比喩」表現を導く用法に加えて、「例示」「仮定」「くわしい説明」等の内容を導くような用法の広がりが見られる。近世に入ると、それらは「比喩」「例示」「仮定」にやがて整理され、「仮定」も「例示」の用法に吸収されていく。
(3)言文一致以降、殊に大正末期頃から、「例示」の用法が主流となる。

たとわ‐ば たとは‥【例ば】

〘副〙 =たとえば(例━)日葡辞書(1603‐04)〕
浄瑠璃・箱根山合戦(1660)四「此いぬめいよのきすい有、たとはばしのびゆくに、かのいぬをさきへ入、あんないをしる事有」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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