乏・羨(読み)ともしい

精選版 日本国語大辞典 「乏・羨」の意味・読み・例文・類語

ともし・い【乏・羨】

〘形口〙 ともし 〘形シク
物事が不足している。不十分である。少ない。とぼしい
万葉(8C後)一八・四一二五「思ほしき ことも語らひ 慰むる 心はあらむを 何しかも 秋にあらねば 言問の 等毛之伎(トモシキ)子ら」
仮名草子浮世物語(1665頃)一「馬にはわづかに草の糜(かゆ)ともしき程に与へて」
② 財物が少ない。貧しい。貧乏である。とぼしい。
書紀(720)推古一二年四月(図書寮本訓)「乏(トモシキ)(ひと)の訴は水をもて石に投ぐるに似たり」
③ 珍しくて心がひかれる。めったに見られないくらい、すばらしい。まれなので、新鮮な感じがする。
※万葉(8C後)九・一七二四「見まく欲り来(こ)しくも著(し)るく吉野川音のさやけさ見るに友敷(ともしく)
④ 自分にはないものを持っている人などをうらやましく思う。
古事記(712)下・歌謡「日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 登母志岐(トモシキ)ろかも」
浮世草子・新可笑記(1688)五「主人大分の祿をくだし給はれば何か金銀の小柄なればとて乏(トモ)しくは存ぜざる所なり」
[補注]オソル(恐)とオソロシとの関係と同じく、トム(求)から派生した語であろう。
ともし‐げ
〘形動〙
ともし‐さ
〘名〙

ともし‐・む【乏・羨】

〘他マ下二〙 もの足りなく思わせる。飽き足りない思いをさせる。
※万葉(8C後)一〇・二〇一七「恋ひしくはけ長きものを今だにも乏之牟(ともシム)べしや逢ふべき夜だに」
[補注]トモシブと同じく形容詞トモシを動詞化したもの。上代にしか用例を見ない。トモシブ(上二段活用)は「ともしいと思う」意の自動詞であり、トモシム(下二段活用)は「ともしいと思わせる」意の使役動詞であるが、トモシブは挙例の歌一例しかない。

ともし‐・ぶ【乏・羨】

〘自バ上二〙 ともしいと思う。うらやましく思う。めずらしいと思って心が引かれる。
※万葉(8C後)一七・四〇〇〇「万代の 語らひ草と いまだ見ぬ 人にも告げむ 音のみも 名のみも聞きて 登母之夫流(トモシブル)がね」
[補注]→「ともしむ(乏)」の補注

ともし【乏・羨】

〘形シク〙 ⇒ともしい(乏)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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