メンツ(英語表記)miàn zi

改訂新版 世界大百科事典 「メンツ」の意味・わかりやすい解説

メンツ (面子)
miàn zi

顔・体面などを意味する中国語。面子の〈子〉は,中国語において名詞につく接尾字。中国語がそのまま転用され日本語としても同じ意味で使われている。〈面〉とは顔ということであるが,顔は外面容姿を象徴し,また別に〈面〉が向かうという意味をもつことから,〈面子を立てる〉などの表現にみられるごとく,個人および集団の外面的な対応形式・体裁という意味で使用される。ただそれは世間的評価を意識した外面的対応であり,内面的自覚に基づく名誉とは異なる。中国では古くから面子,面目がとりわけ重視された。その理由として,一つには儒教の影響がある。面子というものが外的評価であり,具体的には外面に現れた形で評価されるならば,それは儒教でいうそれぞれの地位・能力をもった者が対外的にとるべき形=と密接に関係する。この〈礼〉の外面的要素が強調されたものが面子の重視に結びつくのである。いま一つは,春秋戦国期から存在する文(あるべき理想形)と実(現実)の二元論的思考である。《春秋》の記事において現実には天子の軍が敗北したのに,それをあるべからざることとして表現方法を変えるのは,面子の重視であり実を認めつつ文に固執するものにほかならない。それは現実と理想が乖離(かいり)すればそれだけ文への傾斜が強くなる一種中華思想ともいえるが,かかる思考とそれを強めた異民族支配が逆に面子の重視を保ちつづけたのである。
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世界大百科事典(旧版)内のメンツの言及

【復讐】より

敵討(かたきうち)サンクション紛争【小田 亮】
[中国]
 一般的には,加害に対する自己防衛と怨憤をやわらげる心理的満足として行われるが,中国においては特有の復讐観が存する。名を重んずる中国民族は,現実肯定の精神とあいまって同時代人からの称賛と令聞を尊び,それゆえ外面的対応としての〈面子(メンツ)〉をことのほか重視する。したがって対人関係で受けた恥は一命にも値し,屈辱は等量以上の返報によって埋め合わさなければ体面が保てない。…

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