ファウスト(ロック・バンド)(読み)ふぁうすと(英語表記)Faust

翻訳|Faust

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ファウスト(ロック・バンド)
ふぁうすと
Faust

ドイツのロック・バンド。バンド名のファウストはドイツ語で「拳骨」の意味。さまざまな実験が繰り返された1970年代ジャーマン・ロック・シーンのなかでも、表現がもっとも先鋭的であったバンド。彼らが行った通常の楽音以外の音(ノイズ)の積極的導入、複雑なエフェクト処理と卓抜したエンジニアリングによる新しい音響の創出、手法としてのサンプリング、カットアップ、コラージュ等々は、1980年代なかば以降ヒップ・ホップとエレクトロニクスを軸に更新を続け、ファウストの音楽は新しいスタイルの先例となった。

 1969年、二つの異なる実験音楽のバンドが合体してファウストは結成された。音楽・映画ジャーナリストであったウーベ・ネッテルベックUwe Nettelbeckが、「第二のビートルズをつくろう」とドイツ・ポリドール社を説得して巨額の資金を提供させ、1971年、ネッテルベックをプロデューサーにたてファウストのプロジェクトは具体的にスタートした。彼らは全員で、ブレーメンハンブルクの間にあるビュンメという小さな町の廃校を改築したスタジオ兼住居に合宿しながら、自由にリハーサルやテープづくりを開始する。結成時のメンバーはウェルナー・ディーアマイアーWerner Diermaier(ドラム)、ジャン・エルベ・ペロンJean-Hervé Peron(ギター、ベース)、ハンス・ヨアヒム・イルムラーHans-Joachim Irmler(キーボード)、ルドルフ・ゾスナRudolf Sosna(ギター)、グンター・ビュストフGunter Wüsthoff(サックス)、アルヌルフ・マイフェルトArnulf Meifert(ドラム)の6人。これに、ポリドールのエンジニアだったクルト・グラウプナーKurt Graupnerが専属サウンド・エンジニアとしていっしょに寝起きする形で、バンドが気ままに出すアイデアを丹念に記録し、編集していった。1971年にポリドールから『ファースト・アルバム』をリリースし、デビュー。無数のアイデアとフラグメントつぎはぎからなるニヒルな音響群は、エンジニアが実際の演奏者と同等に「演奏する=音を操作する」という1990年代以降の状況を予言していた。だが、そのサウンドはあまりにも斬新すぎたため、1972年のセカンド・アルバム『ソー・ファー』では、「あまりにも遠く(so far)に行きすぎるな」というネッテルベックの指示で、4ビートなどノーマルな音楽語法の曲が大半を占め、ポップ・ミュージックとしての体裁を表面上は整えることとなった。しかし、細部に注ぎこまれた毒気とアナーキックな情動は隠しようもなく、ファースト・アルバム同様、このバンドがほかのロック・バンドとはまったく別の世界を目ざしていることを表していた。

 結局この2枚の商業的失敗によってポリドールから契約を切られたファウストは、イギリスで立ち上げられたばかりのバージン・レコードと新たに契約を結び、1973年には『ザ・ファウスト・テープス』The Faust Tapesおよび『』を発表。前者は、それまでに録りためていた音源を編集して、プロモーションのために超廉価でリリースされたものだが、ファースト・アルバムと同様の破壊性に満ちていた。後者は、バージンのマナー・スタジオで録音されたものだが、メンバーのあずかり知らぬ形で適当にまとめられており、またバンド内のモチベーションそのものの低下もあり、かなり毒が薄まっていた。結局これを最後に、ネッテルベックとグラウプナーはファウストを離れ、その後まもなくバンドも解体する。

 しかし、1980年代末期に、ディーアマイアー、ペロン、イルムラーが活動を再開し、『リアン』Rien(1995)や『ユー・ノウ・ファウスト』(1996)、『ラッビバンド』(1999)などを発表し、ライブも頻繁に行った。『リアン』を、シカゴ音響派の頭目ジム・オルークJim O'Rourke(1969― )がプロデュースしていることにも、ファウストの今日性、あるいは超時代性が示されている。

[松山晋也]

『明石政紀著『ドイツのロック音楽 またはカン、ファウスト、クラフトワーク』(1997・水声社)』

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