ドクガ(読み)どくが

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクガ」の意味・わかりやすい解説

ドクガ
どくが / 毒蛾

昆虫綱鱗翅(りんし)目ドクガ科Lymantriidaeの総称。この科の種類は中形から大形触角は短く櫛歯(くしば)状、雄では枝が長く羽毛状のことが多い。口吻(こうふん)は退化し、成虫養分を摂取しない。世界中に分布するが、熱帯に種の数が多く、日本産は52種登録されている。幼虫は食葉性のケムシで、二次刺毛がよく発達している。ほかの科と違って、第6、第7腹節に背腺(はいせん)をもつ。腹脚は4対、尾脚もよく発達している。繭は、葉の間、枝あるいは樹皮に、体毛を混ぜてつくるが、一般に薄く、一部の種ではほとんど繭をつくらない。土中に入って蛹化(ようか)する種はいない。森林、果樹、庭園樹などの害虫が少なくない。

 種のドクガEuproctis subflavaは、はねの開張30~40ミリメートル。体翅とも橙黄(とうこう)色。前翅は後翅より濃色、はねの中央部に黄白の細い帯が2本あり、その間はやや黒みを帯び、外縁の翅頂下に1、2個の黒紋または黒点をもつことが多い。一般に雌は雄より大きい。北海道から九州、対馬(つしま)、朝鮮半島、シベリア南東部から中国に分布する。幼虫は体長約40ミリメートル。体は黒色、背線と側部は橙(だいだい)色。黒色毛を歯ブラシ状に密生し、黄褐色毛を混ぜる。毛の束のなかに毒針毛が混ざり、これが皮膚に刺さると、かゆみとともに炎症をおこす。年1回の発生で、若齢幼虫で群集して越冬し、春に休眠から覚めて新芽を食害する。若齢のうちは群生し、頭部をそろえて食葉を食べるが、のちに分散する。初夏のころ、葉間などに体毛を混ぜた薄い繭をつくって蛹化(ようか)する。この繭には無数の毒針毛が混ぜられ、夏に成虫が羽化すると、その体には鱗粉に混ざって、多数の毒針毛がついている。したがって、繭に触れても、また成虫が灯火に飛来して壁などにぶつかったときも、人の皮膚に毒針毛が刺さって炎症をおこす。雌は産卵する際、卵塊を毒針毛の混ざった尾毛で覆うので、孵化(ふか)した幼虫は母ガからもらった毒針毛で体を覆うことになる。幼虫はきわめて雑食性で、サクラ、バラ、キイチゴクヌギ、クリ、カキなど多種類の樹木や低木の葉を食べる害虫である。Euproctis属は日本に12種いて、いずれも幼虫の体に毒針毛が生え、これが繭を経て成虫に受け継がれる衛生害虫である。ドクガが大発生すると、人畜に大きな害を与える。

[井上 寛]


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改訂新版 世界大百科事典 「ドクガ」の意味・わかりやすい解説

ドクガ (毒蛾)
Euproctis subflava

鱗翅目ドクガ科の昆虫。翅の開張は雄3cm内外,雌4cm内外。橙黄色で,前翅には2本の淡色線があり,その間は多少黒みを帯びる。外線部に1~2個の黒紋をもつことが多い。触角は櫛歯(くしば)状だが,雌では櫛歯が短い。北海道から九州,対馬,朝鮮半島,シベリア南東部,中国に分布する。成虫は夏に出現し,よく灯火に飛来する。雌が壁や電灯の笠などにぶつかって,尾端の鱗毛が飛び散ると,そこに付着していた幼虫時の毒針毛がいっしょに散り,皮膚に刺さると,かゆみや炎症が起こる。このかゆみは,抗ヒスタミン薬やステロイド剤を含んだ軟膏によっておさえることはできるが,皮膚炎は1週間くらい続くことがある。幼虫はきわめて雑食性で,サクラ,リンゴ,バラ,キイチゴ,クリ,カキなど多数の広葉樹や灌木の葉を食べる。年1回発生する。若齢幼虫で群がって越冬し,春に新芽を食べ始める。若齢のうちは群生し,頭部をそろえて葉を食べるが,のちに分散する。6月下旬ころに葉間に体毛をまぜた薄い繭をつくって蛹化(ようか)する。老熟幼虫は体長4cmくらいの黒色の毛虫で,胸部背面や腹部側面には橙色斑がある。幼虫時に生えた無数の毒針毛は,繭に着けられ,雌が羽化すると体,ことに尾毛に付着する。卵はかためて産みつけられ,母ガの黄色の尾毛に覆われるため,ここにも多数の毒針毛が着いている。ときに大発生をして人畜に大きな害を与えることがある。ドクガ科にはほかにマイマイガチャドクガモンシロドクガなどが知られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドクガ」の意味・わかりやすい解説

ドクガ
Euproctis subflava

鱗翅目ドクガ科。前翅長 12~22mm。翅は丸みが強く,体はやや太い。全体黄色。前翅表は濃黄色で,淡色の2横線が翅の中央を横切り,その間に黒褐色鱗が散在する。後翅表は淡色。触角は櫛状で,雌では櫛の歯が短い。成虫は夏季に出現し,灯火に集る。幼虫は体に毒針毛をもち,皮膚に刺さると炎症を起すが,この毒針毛は幼虫が蛹となり羽化するときも成虫の体についてゆくので,成虫に触れても同様の結果となる。食草はクヌギ,サクラ,バラなど。衛生害虫として有名で,多数発生した場合被害が大きい。北海道,本州,四国,九州,シベリア南東部,中国に分布する。近縁のチャドクガ E. pseudoconspersaは淡黄ないし濃黄色で,前翅には黒褐色鱗を散布する。毒針毛を有し,茶,ツバキ,クワなどにつく普通種で,本州,四国,九州,台湾,朝鮮,中国に分布する。なお,ドクガ科 Lymantriidaeは世界に約 2500種,日本に約 50種を産し,上記2種のように毒針毛をもつものや,マイマイガのような重要森林害虫などを含む。

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百科事典マイペディア 「ドクガ」の意味・わかりやすい解説

ドクガ

鱗翅(りんし)目ドクガ科の1種。開張35mm内外,黄色で前翅の中央に褐色の帯がある。北海道中北部を除く日本各地,朝鮮,中国,シベリアに分布。幼虫はナラ,クヌギ,サクラなどの葉を食べ,若齢幼虫で群生して越冬,成虫は多く7月ごろ発生する。幼虫だけでなく蛹(さなぎ)や成虫(特に雌)も毒針毛をもち,人体に付着すると発疹を起こす。ドクガ科は日本には約50種,前種のほかにチャドクガマイマイガなどが知られる。

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世界大百科事典(旧版)内のドクガの言及

【ガ(蛾)】より

…そして次のような科が日本に分布している。ボクトウガ科(7種),ハマキガ科(556種),ホソハマキガ科(40種),ミノガ科(21種),ヒロズコガ科(33種),チビガ科(2種),ハモグリガ科(19種),ホソガ科(136種),コハモグリガ科(5種),アトヒゲコガ科(12種),ヒカリバコガ科(2種),スガ科(81種),メムシガ科(26種),ナガヒゲガ科(2種),ホソハマキモドキガ科(19種),ササベリガ科(2種),マイコガ科(2種),ホソマイコガ科(1種),ヒロハマキモドキガ科(2種),スカシバガ科(25種),ハマキモドキガ科(32種),ニセハマキガ科(1種),マルハキバガ科(57種),スヒロキバガ科(9種),ニセマイコガ科(10種),ヒロバキバガ科(1種),クサモグリガ科(4種),ツツミノガ科(26種),ネマルハキバガ科(2種),キヌバコガ科(2種),カザリバガ科(24種),ヒゲナガキバガ科(13種),キバガ科(75種),ニセキバガ科(1種),ニジュウシトリバガ科(3種),シンクイガ科(10種),マダラガ科(28種),セミヤドリガ科(2種),イラガ科(26種),セセリモドキガ科(3種),マドガ科(24種),メイガ科(600種),トリバガ科(56種),カギバガ科(30種),オオカギバガ科(2種),トガリバガ科(38種),シャクガ科(790種),ツバメガ科(4種),フタオガ科(18種),アゲハモドキガ科(1種),イカリモンガ科(2種),カレハガ科(20種),オビガ科(1種),カイコガ科(5種),イボタガ科(1種),ヤママユガ科(12種),スズメガ科(70種),シャチホコガ科(120種),ドクガ科(52種),ヒトリガ科(107種),ヒトリモドキガ科(5種),コブガ科(39種),カノコガ科(3種),ヤガ科(1200種),トラガ科(6種)。以上のように,日本産のガは4500種にも達しているが,チョウの種数はその1/20くらいしかない。…

※「ドクガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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