害虫(読み)がいちゅう(英語表記)injurious insect
insect pest

精選版 日本国語大辞典 「害虫」の意味・読み・例文・類語

がい‐ちゅう【害虫】

〘名〙 人間の生活に直接、間接に害を与える虫の総称。人体に寄生するカイチュウや、血を吸うノミ、ダニ、カ、衣類・食物などを食害するイガ、カツオブシムシ、ゴキブリ、農作物・果樹などを食害するアブラムシ、ケムシ、ウンカなどをいう。⇔益虫
風俗画報‐三二〇号(1905)歌謡門「農家稼穡(かしょく)の上に就き、最も注意を要するものは、害虫(ガイチウ)駆除の方法如何にあり」

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デジタル大辞泉 「害虫」の意味・読み・例文・類語

がい‐ちゅう【害虫】

人間の生活に直接または間接に害を与える昆虫。蚊・ノミ・ハエ・ウンカ・アブラムシなど。ダニや人体寄生虫など昆虫でないものも含めていうこともある。⇔益虫

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改訂新版 世界大百科事典 「害虫」の意味・わかりやすい解説

害虫 (がいちゅう)
injurious insect
insect pest

人畜などに直接的に害を与えたり,農作物やその生産物などに損傷加害をする昆虫の総称で,益虫に対することばでもある。昆虫を害虫か益虫かと明確には区別できないことが多く,まして生まれながらに害・益虫の別があるわけではなく,あくまで人間を中心とした利害関係をいうのである。例えば昆虫の成虫と幼虫では食性が異なるものもあるため,チョウなどのように幼虫は害虫であっても,成虫は花粉媒介をしたり美観を呈するので害虫とはされないことがある。また,高山植物などを食べ荒らす昆虫でも,成・幼虫とも天然記念物に指定され保護を受けている場合もある。また有用昆虫などで,その需要の変遷によってその評価が変わる例もある。例えばラックカイガラムシコチニールカイガラムシは,ラッカーや染材原料をとる有用虫として利用することがなくなったところでは,一般害虫とされるようになり,アイが染料用に栽培されたころは,その葉を食べるものは害虫であったが,栽培せず雑草化したときには雑草防除に役だつ益虫とされるようにもなった。要するに害虫とか益虫というのは,あくまでも人と虫との相対的な関係からの呼名である。

 一般に害虫というときは,昔,〈むし〉といえばカタツムリやミミズ,クモなどを含めていたように,現在でも便宜上ナメクジ,ダニ,センチュウなどを含めて呼ぶことが多い。昆虫が人類に与える利害得失は複雑多岐であって一概にはいえないが,昆虫がその生命を維持するにあたり,他の動植物を侵害する目的の一つは食物および住居の獲得にある。昆虫の食物は他の生物かその生産物であるし,巣づくりや蛹化(ようか),繭化にあたり,生物の体内や体外をおおいに利用している。また,卵は外敵にねらわれやすいので,産卵された多くの植物はその外敵により損傷を受ける。また,昆虫は自己防衛のため,かんだり,刺したり,かぶれさせたりする種々の器官の発達もあり,進んで敵を攻撃することもある。それらの多くは人畜に直接的な害を与える。また,これらに付随して間接的な害も多い。例えばカが媒介するマラリアその他の病原や,ヨコバイ,ウンカなどの伝播(でんぱ)する植物ウイルス病やマイコプラズマ,あるいはノミ,シラミなどによって伝わるペストや発疹(はつしん)チフスなどがこれであり,間接的でありながら単なる食害などよりいっそう激しい害となるものもある。

 害虫はその侵害の対象によって,農業害虫,林業害虫,衛生害虫,貯穀・食品害虫,衣料害虫,毛皮・皮革害虫,構造物害虫(貯穀以下を家屋害虫または室内害虫ともいう),水産・水路害虫などに分けられるが,複合的な加害も多いので,画一的にくぎることはできない。ふつう初めの農業と林業を合わせて農林害虫と称する。

 日本の主要農林害虫は,一般的には葉,茎,果実を食害するニカメイチュウ,ヨトウガ,コガネムシなど,あるいは吸汁をしまた病原を伝えるウンカ,ヨコバイ,アブラムシなどやカミキリ,ハバチ,ゾウムシ類による産卵の害,アリ,ハチによる営巣の害その他があり,その主要種は貯穀・食品害虫や衣料害虫その他を含めると次のようなかなりの数になる。直翅目66種,アザミウマ目37種,半翅目676種,鱗翅目534種,甲虫目457種,膜翅目87種,双翅目137種その他28種計2022種もあり,これに昆虫外のダニ類,軟体動物,センチュウ類を含めると2206種となる(《日本農林害虫名鑑》1980)。

 衛生害虫は刺咬(しこう),吸血あるいは毒物分泌,内部寄生の直接加害のほか有害病原の媒介があり,それ以外にゴキブリ,ハエなどに見られる単なる有害菌の運搬などもある。また,近年都市などでは,室内に無害の昆虫が出ただけで,不快害虫nuisanceとしてきらわれる。貯穀・食品害虫は食用生物および生産物の種類が増えてもあまり多くはならない。また衣料・皮革害虫などでは近年人工繊維や人工皮革の増加につれて,毛織物のものを除き減っている。

 一般昆虫の発生は天敵その他の関係から他の動植物同様に,自然環境下で一種の均衡が保たれているが,均衡が破れると多発することがある。ことに人類は耕作,造植林によってみずから均衡を破り続けているので,それらにかかわる害虫も多発の機会が多い。したがって害虫は絶えずその発生動向を監視し,予防駆除(防除)を行い,益虫はその増殖を助ける必要がある。また陸海空の交通機関の発達に伴い,絶えず海外からの害虫の侵入を警戒しなくてはならない。
帰化生物

害虫の駆除法は古来世界中できわめて多くの試みがなされており,もっとも原始的な人の手による捕殺から捕虫具による殺虫を経て,しだいに効果的な防除法が開発されてきたのである。その代表的手法には次のものがある。(1)機械的・物理的防除 単純な捕殺に始まり,灯火・食餌利用による誘殺,果樹の袋かけ,園全体の網かけ,電灯照明などである。また構造物害虫などは超音波,減圧などの手法もとられる。(2)耕種的防除 これは作物栽培技術や農業経営上に害虫防除の考え方を織り込んで被害回避をしたり,軽減させる方法で,輪作法,誘致作物の栽培,間作・混作による法,抵抗性品種の導入による法,施肥・土性改良による法,耕耘による方法,灌漑水による法その他があり,晩化栽培法はメイチュウ類の被害をよく回避した歴史がある。(3)生態的防除 害虫の発生や行動を抑えるように環境を改善していく方法で,作物では耐虫性品種の選択などがある。(4)生物的防除 害虫に寄生したり,捕食したり,病菌その他で倒す天敵の利用による方法である。在来の有力天敵を保護増殖したり,海外から有力な種を導入したりする。ことに果樹害虫や近年増加しつつある施設栽培において効果が高い。寄生性の細菌,微生物やウイルス利用による生物防除はとくに微生物的防除とも呼ばれる。天敵の利用法も,永続的に利用する従来の方法のほかに,一時的定着法といって施設などに接種したり,発生期に生物農薬的に大量放飼する方法もある。また,環境を操作して在来天敵の有効性を高める環境改良法などがあるが,いずれにしても,あらゆる害虫に適用されるものではなく,目的の害虫以外にはまったく効果が望めない欠点もある。(5)遺伝的防除 雄のみ集める誘引剤に殺虫剤を混じて,雄のみを殺す雄除去法や,放射線照射によって雄を不妊化し,これを放飼して防除する不妊虫放飼法,あるいは細胞質不和合性をもつ他地域の雄を大量放飼し,卵を孵化(ふか)できなくする方法など,双翅目(ハエの仲間)害虫に多く利用される新しい方法で,日本でも沖縄などでウリミバエの根絶に不妊雄の大量放飼の成功例がある。(6)化学的防除 薬剤の化学的作用を利用して防除する方法。従来害虫防除といえば,この薬剤防除がもっとも重要な位置を占めていた。これらの化学的薬品を作用機構に基づいた使用法によって分けると,消化中毒剤,接触剤,浸透殺虫剤,薫蒸剤,薫煙剤,補助剤,侵到剤,忌避剤などに大別される。しかし同一薬剤でもいくつかの作用を兼ねているものもある。しかし,これらの農薬中には人畜,魚介類などに有害なものが多く,また残留毒性,残効性,抵抗性の発達などに問題があるため,1968年以降農薬安全使用基準が定められ,使用できる農薬が作物その他対象によってきびしく規制された。また,新農薬についてはその残効試験,慢性毒性試験に関する資料の提出が義務付けられている。

 このほか害虫の防除法にはまだ種々のものが開発研究されつつあり実用化されつつある。例えば単に殺せばよいというひところの薬の概念から離れて,成育や生殖を抑制して害虫の密度を経済的許容水準以下に保つことを目的とする,表皮形成阻害剤,栄養代謝拮抗阻害剤,昆虫ホルモン類縁体や食誘引剤,フェロモンなどの利用開発が望まれている。また昆虫の行動に影響を与える化合物たる生態活性物質の利用と実用化が進められている。

イネ害虫のうち多発すると致命的被害となるのはメイチュウ類とウンカ・ヨコバイ類である。効果的防除法がなく,交通機関も発達していなかった時代には,これらの害虫の大発生があると,すぐ飢饉となった。有名な1732年(享保17)九州,四国,中国でおきた虫害は,おもにトビイロウンカニカメイガの大発生によるものであったらしく,きわめて多くの餓死者を出した大飢饉であった。病害虫の発生はできるだけ早期に発見してその対策を講ずる必要がある。作物の病気や害虫が出てから農薬を用意したのではまにあわない。常時害虫の発生を見守り,発生動向を予知し,適期に効果的な防除を実施するにはやはり天気予報と同じような国家的規模の発生予察事業が必要である。日本ではこれが次第に認識されるようになり,種々の試験研究や基礎調査を経た後,1941年から世界に先駆けて初めて全国的な組織としての予察事業が開始された。この事業は農作物生産の安定と向上をはかるために,病害虫の分布,繁殖ならびにそれに影響を与える気候や作物の生育状況などを厳密に調査し,病害虫の発生を予察して,適期に適切な防除を実施するのに必要な情報を広く関係者に提供することを目的としている。50年には植物防疫法が制定され,病害虫発生事業に確固たる法律的根拠を与えるとともに,農林大臣(現,農林水産大臣)が重要病害虫を指定し,指定病害虫の発生予察は国がこれを行い,都道府県をこれに協力せしむることにした。また農薬の備蓄や防除機具の整備についても法律的裏づけが出されたのである。本事業発足当時は各都道府県での担当者も少なかったが,しだいに増員拡充され,予察の精度もしだいに高まった。

 60年,農業基本法の制定を契機として,稲作中心の農業から,果樹,野菜,畜産などの選択的拡大を指向し,国も積極的な対策を打ち出した。そしてその振興対策の一環として,同年から果樹と茶の病害虫発生予察事業が開始され,5年間の実験事業の後,65年から本事業化された。また,同年から3年間野鼠(やそ)被害実態調査が実施され,その成績を基に68年から野鼠発生予察実験事業が開始され,7年後の75年から本事業化された。また野菜病害虫については,1969年から実験事業が開始され,80年度から本事業が実施され今日に至っている。

 以上の予察事業で指定されている有害動物(植物を除く)中の指定害虫はたびたびの改訂を経て,イネではウンカ・ヨコバイ類,メイチュウ類,イネクロカメムシイネハモグリバエイネドロオイムシ,果樹ではヤノネカイガラムシ,クワコナカイガラムシ,ミカンハダニ,リンゴハダニ,ナシヒメシンクイ,カクモンハマキ,カキノヘタムシが指定され,1972年,沖縄復帰後パイナップルコナカイガラムシおよびカンシヤコバネナガカメムシが追加された。野菜ではアブラムシ類,ハスモンヨトウ,ヨトウガ,コナガおよびモンシロチョウが追加された。

 都道府県側としては以上の害虫につき巡回観察や予察灯での調査を行う一方,防除適期決定圃(ほ)が設置され,防除所が置かれ定点観察を行う一方,ニカメイチュウの実験予察なども加わるほか,事業実施要綱に基づいて種々の調査が行われ毎月予察結果が報告された。このようにして作製された発生予察情報は,農林水産省農政局植物防疫課で各都道府県の情報通達を収集して解析し,気象予報などを考慮し,全国的に発生予察原案を作成するとともに,農業研究センターや専門試験機関の専門家と十分検討を加えた後,全国規模の発生予察報告として局長名で年6~7回発表される。

 また,異常発生など特別な措置を必要とする場合には指導通達が出される。都道府県で発表する予察情報は発生予報,警報,注意報,特殊報,月報がある。〈発生予報〉は確立された予察方法や観察調査資料により発生動向の予察につき農作物の栽培期間,発生生態などを考慮して,防除に有効に利用できるよう時間,回数を定めて発表し,〈警報〉は重要な病害虫が大発生することが予想され,早急に防除措置を講ずる必要のある際に発表される。また,〈注意報〉は警報を発表するほどではないが,重要な病害虫の多発が予想され,かつ早めに防除措置を必要とする場合に発表される。〈特殊報〉は新奇な病害虫を発見した場合および重要な病害虫の発生消長に特異な現象が認められたときに発表される。〈月報〉は毎月の諸調査を取りまとめて報告するものである。これらの情報の提供先は病害虫防除所,同防除員,調査員,市町村防除協議会,農林事務所,県および市町村農業関係団体,農業改良普及所,隣接県庁および農業試験場,農林水産省農政局植物防疫課,農林水産省試験研究機関,気象官署,新聞社,放送局などに提供されている。なお,1954年から発生予察技術の基礎的問題を組織的に究明するための〈特殊調査〉が実施され,予察上の問題点を解決してきている。そのおもな課題には次のものがある。(1)水田センチュウ検診法,(2)ハダニ類の発生予察法の確立,(3)発生予察事業電子計算機利用方法の開発,(4)カメムシ類の発生予察方法の確立,(5)果樹カメムシ類の発生予察方法の確立などである。これらの研究は数年の継続研究完了後,逐次発生予察事業に取り込まれ寄与している。

 電算機の利用については,その後基礎的資料作成に一部ですでに実用化されているが,今後しだいに多く活用されることになろう。また,これらの発生予察情報を全面的に活用し,防除の面では,〈天敵と殺虫剤など,あらゆる適切な技術を相互に矛盾しない形で使用し,経済的被害を生ずるレベル以下に個体群密度を減少させ,かつその低いレベルを維持するための害虫個体群管理システム〉は初め単に総合防除の名で呼ばれたが,現在はこれに前記のような防除理論を組み入れた概念として〈害虫管理insect pest management〉と称されるようになった。これは作物栽培システム全体の管理の中に,個々の総合防除体系を矛盾なくはめ込んでいこうという考えである。害虫管理は今後おおいに検討され,発展活用されるべき新しい害虫防除理論であり技術であるといえよう。
益虫
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「害虫」の意味・わかりやすい解説

害虫
がいちゅう

人間の生活に対して直接または間接に害を与える昆虫の便宜上の呼称。益虫に対する語。この呼称は、人間と昆虫との関係のとらえ方によって、人間の都合でよばれるものであって、絶対的なものではない。同じ種類の昆虫でも人間が有用だと判断している植物を食する場合は害虫となり、雑草だと判断している植物を食する場合は益虫ともなる。昆虫以外にも、人、家畜、作物に被害を与えるダニ、ツツガムシ、回虫、サナダムシ、ナメクジなども一般に害虫に含められる場合がある。利害関係の明瞭(めいりょう)なものに直接人体を加害する衛生害虫がある。これらは自然環境や人間の生活環境下で人と好ましくない関係をもつもので、次の昆虫類があげられる。

 ノミ、ナンキンムシ(トコジラミ)、シラミ、ケジラミ、カ、ブユ、ヌカカ、ウシアブ、ツェツェバエなどは、人を刺し、ときに病気を伝染させる吸血昆虫である。スズメバチ、アシナガバチ、ドクガ、アリなどは、毒針や毒毛で人を刺し、アオバアリガタハネカクシ、カミキリモドキ類は、有毒な毒液を体から分泌する有毒昆虫である。

 農業生産環境は人間生活の基盤となる食糧生産の場であり、作物や家畜を加害する昆虫は古くから重要視されてきた。ニカメイガ、ヨトウムシ、ウンカ、ヨコバイ、アブラムシ、カイガラムシ、カメムシ、ハムシなど多くの昆虫が農業害虫として問題となる。また、収穫した大量の穀類やその加工品などにはコクガ、コクゾウ、ゴミムシダマシなどが発生し、貯穀害虫とよばれる。畜産の場では家畜を襲うサシバエ、ウシアブなどの家畜害虫が大量に発生し、家畜を加害したり、精神的ショックを与えたりする。酪農製品や魚貝類の乾物にはチーズバエやカツオブシムシなどが発生し、食品害虫とよばれる。これらの昆虫は、人間の生活が豊かになり、人間の生活環境内に昆虫が必要とする餌(えさ)が1か所に、しかも多量に一定期間存在する環境条件ができあがり、それにひかれて侵入し害虫化した。その際、機械的に伝染病や寄生虫卵などを媒介するハエやゴキブリは真の衛生害虫(ベクター)とは異なり、環境衛生害虫というべきもので、人間生活の発展に伴う環境の変化の結果生み出された害虫である。これと似たものに、住居の材料や家具などを加害する家屋害虫のシロアリ、アリ、キクイムシ、シバンムシなどがあり、人間の生活環境の害虫は増加している。

 最近は、単に多量に発生したムシというだけで不快害虫(ニューサンス)とよばれて問題となる。ユスリカ類、クロショウジョウバエ、ハヤトビバエ類などの大量発生は、人間生活の特殊環境から大量に発生している。害虫は、人体寄生虫、刺咬(しこう)昆虫、有毒昆虫などを除き、農業生産環境(農耕、牧畜、造林)、人類生活環境(工場、農村、都市)などの歴史的発展に伴って、自然の生態系が乱された結果、大量発生して問題となるものが多い。ひとたび人間の生活環境に侵入して適応した害虫は、世界中至る所の似たような環境に移って広がる性質をもっている。この分散移住に一役買っているのが、近代社会の交通、輸送機関の発達であり、マメコガネのように日本から北アメリカに侵入してダイズに大被害を与えたことや、逆にアメリカミズアブやアメリカシロヒトリのように外国から日本に侵入したりして国際的な問題となる。そのため、空港や港には、害虫の移動をチェックする植物防疫所や検疫所が設けられている。

[倉橋 弘]

防除

害虫防除には次のような各種の方法が有効とされている。(1)発見して手で捕殺する。(2)超音波、減圧、光線、温湿度などを利用して防虫したり、殺虫したりする物理的防除法。(3)殺虫剤、燻蒸(くんじょう)剤、忌避剤、誘引剤、不妊剤などによる防虫および殺虫を行う化学的防除法。(4)寄生昆虫、捕食昆虫、寄生菌、昆虫ウイルスなどを利用する生物学的防除法。(5)作物の耕作期の変更や作業方法の改善など、環境改善による防除法など、多くの方法がとられている。

 最近は単一の方法だけに頼るのでなく、効果のあるあらゆる方法を併用した総合防除法が研究され実施されるようになってきた。また、農林業関係では、あらかじめ害虫の発生動向を知り、それに速やかに対応して防除対策がたてられるように、全国規模で発生予察事業が組織されている。

[倉橋 弘]

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百科事典マイペディア 「害虫」の意味・わかりやすい解説

害虫【がいちゅう】

益虫に対する。人間にとって有害とみられる小動物,特に昆虫類をいい,その種類は侵害される対象により,農業害虫,林業害虫,衛生害虫,貯穀・食品害虫,衣料害虫,毛皮・皮革害虫,構造物害虫,水産・水路害虫などに分けられる。一般に知られるものは,シラミ,トコジラミ,ノミ,カ,ハエ等のように,人体に直接・間接(病原体の媒介など)の害を与える衛生害虫や,メイチュウ,ヨコバイ等のような,農作物に直接・間接の害を及ぼす農業害虫などであるが,害虫と益虫の明確な区別はないといってよく,人間との相対的関係によってこのように呼ばれる。害虫に対してはその発生をあらかじめ予知しようとする発生予察や,駆除・予防の対策がとられているが,天敵の利用による生物的防除や薬剤による化学的防除は生態系に与える影響も大きく,環境への配慮が求められる。
→関連項目害鳥昆虫

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「害虫」の意味・わかりやすい解説

害虫
がいちゅう
injurious insects

人間生活に直接または間接に損害を与える昆虫。加害の対象により,森林害虫,衛生害虫,農害虫,食品害虫などに分類される。害虫と称される昆虫でも,一生を通じて害を与える種はまれで,種類によっては幼虫は害虫でも,成虫は花粉の媒介などをし,益虫であることも少くない。害虫による被害は意外に大きく,イネを例にとると,ウンカ,ニカメイチュウなどにより収穫が減り,さらに貯蔵中にコクゾウムシなどに加害され,年平均約 10%が失われるといわれる。これらの防除には,各種の殺虫剤,誘蛾灯,天敵を利用する方法などが工夫され,不妊雄を放つなどの生物学的防除も研究されている。

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栄養・生化学辞典 「害虫」の解説

害虫

 昆虫が人間の目的にとって有害な作用をする場合,その昆虫.

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世界大百科事典(旧版)内の害虫の言及

【園芸】より

… 花を観賞する花卉は,珍しいもの,美しいものを目標にされているが,それらは環境条件のまるで異なる地域の植物であるため,温室やロックガーデンなど原産地の気候を再現するような特別な栽培条件を作って栽培することも多い。また,開花させるだけでなく繁殖も行うために,病気や害虫の被害を防ぐ方法など職人的な栽培の技術が追求されている。このように園芸植物は,人間に喜びを与えるものであり,これからもますます多くの,今まで利用されたこともない植物が栽培化されることであろう。…

※「害虫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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