トマス(Dylan Marlais Thomas)(読み)とます(英語表記)Dylan Marlais Thomas

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

トマス(Dylan Marlais Thomas)
とます
Dylan Marlais Thomas
(1914―1953)

イギリスの詩人。10月27日、ウェールズスウォンジーに生まれる。1934年『18編の詩』でイギリス文壇にデビュー、人間実存の赤裸々な姿を生々しい斬新(ざんしん)なイメージで歌い上げ、天才的な若手詩人としてE・シットウェルらに認められた。36年『25編の詩』を出版し、シカゴの『ポエトリ』誌から賞を得、詩人としての地位を確かなものとした。その後、過渡期詩集『愛の地図』(1939)を経て、最高傑作と目される『死と入口』(1946)に至る過程で、故郷ウェールズの美しい自然を再発見し、自然のなかに神をみる汎神(はんしん)的な傾向を強めていった。第二次世界大戦中はBBC放送で詩の朗読を行うかたわら、自伝的な物語『仔犬(こいぬ)のような芸術家の肖像』(1940)を出版した。『死と入口』以後、彼の人気は急速に高まり、数回にわたるアメリカ訪問を契機としてしだいに酒におぼれるようになり、奔放かつ自滅的な生活を送り始め、1953年11月9日、39歳の若さでアルコール中毒による急性脳障害のため旅先のニューヨークで死んだ。一貫して、ことばのもつ原初的で魔術的な力に憑(つ)かれ、生と死と性の根源真正面から迫った幻想詩人として、現代を代表するイギリス詩人の1人である。

富士川義之

『田中清太郎・羽矢謙一訳『ディラン・トマス全集1 詩』(1975・国文社)』

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