チオフェノール(読み)ちおふぇのーる(英語表記)thiophenol

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チオフェノール」の意味・わかりやすい解説

チオフェノール
ちおふぇのーる
thiophenol

芳香族チオールメルカプタン)を代表する化合物ベンゼンチオールフェニルメルカプタンともいう。フェノールの酸素原子のかわりに硫黄(いおう)原子の入った化合物。メルカプタン特有の悪臭がある。塩化ベンゼンスルホニルC6H5-SO2Clを硫酸中で粉末状亜鉛により還元して得られる。無色液体。水には溶けにくいが、エタノールエチルアルコール)、エーテルにはよく溶ける。酸性はフェノールよりも強い。一般のメルカプタンと同様、金属塩のメルカプチドC6H5SMを生じる。空気中で酸化されるとジフェニルジスルフィドC6H5SSC6H5示性式。構造をより詳しく示す式)を生じ、さらに激しい条件で酸化するとベンゼンスルホン酸になる。水素を放出してジフェニルジスルフィドC12H10S2分子式)になりやすいので還元剤としても用いられる。

[務台 潔]

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改訂新版 世界大百科事典 「チオフェノール」の意味・わかりやすい解説

チオフェノール
thiophenol


ベンゼン環メルカプト基-SHが置換した化合物で,ベンゼンチオールbenzenethiol,フェニルメルカプタンphenylmercaptanともいう。フェノールC6H5OHの硫黄類似体に相当する。また広義には,芳香族チオールの総称として用いる。融点-14.8℃,沸点168.7℃。悪臭を有する液体で水に溶けにくい。弱酸であるがフェノールより酸性が強く,多くの金属とチオラートthiolateと呼ばれる塩をつくる。温和な酸化剤や空気中の酸素で酸化されジフェニルジスルフィドC6H5SSC6H5を生成する。強い酸化条件ではベンゼンスルホン酸が得られる。合成法は,塩化ベンゼンスルホン酸を亜鉛末と硫酸で還元する方法が一般的である。チオフェノールのメルカプト基の水素はラジカルによって容易に引き抜かれチオフェノキシラジカルを生成する。これは二量化してジフェニルジスルフィドになる。このようなラジカル捕獲剤としての作用を示すため,重合禁止剤,酸化防止剤として使われることもある。ラジカル機構によるアルケンヘの付加反応も起こしやすい。
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化学辞典 第2版 「チオフェノール」の解説

チオフェノール
チオフェノール
thiophenol

benzenethiol.C6H6S(110.18).フェノールの硫黄類似体で,塩化ベンゼンスルホニルの亜鉛還元によって得られる.悪臭のある液体.沸点168 ℃,69.7 ℃(2.66 kPa).1.076.1.5893.pKa 6.43(25 ℃,水).λmax 240 nm(ε 7244).エタノール,エーテルに可溶,水に難溶.フェノールより強酸で,アルカリ金属や重金属とメルカプチドをつくる.容易に酸化されてジフェニルジスルフィドになる.芳香族チオールを総称してチオフェノールとよぶことがある.オレフィン類の異性化,その他の反応触媒に用いられる.[CAS 108-98-5]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チオフェノール」の意味・わかりやすい解説

チオフェノール
thiophenol

(1) -SH基を側鎖にもつ芳香族化合物の総称。フェノールと類似の性質をもつが,フェノールより酸性が強い。一般に悪臭をもつ液体。(2) フェニルメルカプタンのこと。化学式は C6H5SH。フェノールの酸素原子が硫黄原子で置き換わった構造をもつ化合物。刺激臭のある液体。沸点 168℃。水に不溶,アルコールに易溶,エーテルベンゼンと混じり合う。空気中では酸化されてジフェニルジスルフィド C6H5・SS・C6H5 になる。(→メルカプタン

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