酸化
さんか
oxidation
oxidization
単体が酸素と化合する化学現象を酸化と定義したのはフランスのラボアジエであったが、原子の電子構造と化学的性質との関係が明らかになるにつれて意味が変わり、現在では、原子・分子・イオンなどが電子を放出することを酸化としている。放出された電子は、別の原子・分子・イオンに受け取られることになるが、電子を受け取る現象が還元であり、一般に酸化と還元はかならず相補的に随伴しておこり、その化学反応を酸化還元反応という。
酸化・還元は、酸・塩基とともに化学反応の理解にはきわめて重要な概念となっている。デンマークのブレンステッドの酸塩基理論が、共役する酸と塩基との間の水素イオンの移動を基本としているのに似て、酸化・還元では共役する酸化体oxidantと還元体reductantとの間の電子の移動が基本になる。
ナトリウムと塩素から塩化ナトリウムを生ずる反応を図Aに示す。反応式(3)は、ナトリウム原子が電子を放出する反応(1)と、塩素分子が電子を受け取る反応(2)の和の結果とみることができる。
ここで(1)と(2)は、酸化体と還元体との電子の移動を介した共役関係を示しており、一般に
酸化体+電子
還元体
の形の式で書かれる。この形の式を半反応式という。酸化還元反応式は、二つの半反応式を組み合わせた形になるが、水素イオン、水酸化物イオン、水などがこれに加わる場合もよくみられる。たとえば過マンガン酸イオンと鉄(Ⅱ)イオンとの酸化還元反応は図Bのように書かれる。
[岩本振武]
電子を受け取って還元体になりやすい酸化体を酸化剤、電子を放出して酸化体になりやすい還元体を還元剤というが、それらは絶対的に定まるのではなく、互いの組合せによって相対的に定まる。たとえば、過酸化水素は過マンガン酸イオンに対しては還元剤として、ヨウ化物イオンに対しては酸化剤として作用する。
5H2O2+2MnO4-+6H+
5O2+2Mn2++8H2O
H2O2+2I-+2H+
I2+2H2O
酸化剤あるいは還元剤の相対的強さは、それぞれの半反応における酸化還元電位の相対的差によって定まる。また、原子・分子・イオンなどにおける電子の出入りはそれらの酸化数に変化を生じ、酸化数が増大することを酸化、減少することを還元と定義することもできる。
[岩本振武]
酸化還元反応の例は多く、呼吸、燃焼、爆発などは、酸素が関与するものの典型例である。電池反応の多くは、自動的に進行する酸化還元反応を利用して、その反応による自由エネルギーの変化を電流として外部に取り出すものであり、電気分解反応では逆に電流を加えて自動的に進行する酸化還元反応を逆行させている。大気汚染公害で俗にオキシダントとよばれている物質は、窒素や硫黄(いおう)の酸化物(酸化体)あるいはそれによって生じた別の酸化体である。
[岩本振武]
『守永健一著『酸化と還元』(1972・裳華房)』▽『曽根興三著『酸化と還元』(1978・培風館)』
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知恵蔵
「酸化」の解説
酸化
A.ラボアジエ(仏)は酸化とは酸素と結合して酸化物になること、還元とは酸化物から酸素を引き抜くこと、と定義したが、酸化や還元の反応は酸素以外にも広く起こっている現象で、酸化とは電子を失うこと(相手に電子を与えること)、還元とは電子を取り込むこと(相手から電子を受け取ること)。通常、酸化と還元は同時に起こり、電子を与える物質(還元剤)から受け取る物質(酸化剤)へ電子の授受が行われ、反応全体では電子の増減はない。酸化還元反応はレドックス反応ともいう。酸化剤には酸素、過酸化水素、オゾン、ヨウ素など、還元剤にはコークス(炭素)、マグネシウムなどの金属、水素やビタミンC(アスコルビン酸)などがある。電池はイオン化傾向が異なる2種類の金属を電極にして、酸化と還元の反応を電解質溶液内で起こし、負極から正極への電子の流れ(電流)を発生させ、酸化還元反応の化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものといえる。天然産の金属酸化物から純金属を取り出すこと(金属の製錬)、光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からでんぷんと酸素を作り出すこと(光合成)は還元反応。物質が空気中で燃えること(燃焼)、金属が錆びて酸化物になること、水に溶けて陽イオンになることは酸化反応。
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酸化【さんか】
古くは酸素と化合すること(たとえば金属銅Cuと酸素O2とが反応して酸化銅CuOをつくる)をいったが,現在ではこれを拡張して,ある物質から水素を奪うこと,およびある元素に着目してその元素の酸化数を増大させることを酸化という。たとえば重クロム酸カリウムの作用でエチルアルコールからアセトアルデヒドが生じるのは(図)の反応であるから酸化であり,塩化鉄(II)と塩素との反応で塩化鉄(III)を生じるのは2FeCl2+Cl2→2FeCl3の式で示されるように,鉄の酸化数が+2から+3へと増大しているので酸化である。酸化と反対の現象を還元という。
→関連項目還元剤|酸化剤|全層施肥|脱色剤
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酸化
さんか
oxidation
物質が酸素と反応して酸化物となること。さらに広い意味から無機水素化物,有機化合物から水素の除去される脱水素反応も酸化として定義される。また電子の移動に基づく定義として,反応にあずかる元素が正の酸化数を増すか,負の酸化数を減じる場合,その元素は酸化されたという。また原子,分子,イオンから電子を取出すことも酸化である。 (→還元 )
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
さん‐か ‥クヮ【酸化】
〘名〙 ある物質が酸素と化合すること、または、ある物質から水素を取り去ること。
広義には、物質を構成する原子またはイオンが電子を放出することをいう。⇔
還元。〔
植学啓原(1833)〕
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デジタル大辞泉
「酸化」の意味・読み・例文・類語
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酸化
(1) 物質を酸素と化合させること,(2) 物質から水素を取り去ること,(3) 物質から電子を奪うこと.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
世界大百科事典内の酸化の言及
【酸化・還元】より
…狭義の定義として,物質が酸素と結合することを酸化oxidationといい,酸化物が酸素を失うことを還元reductionという。たとえば,銅Cuを空気中で加熱すると, 2Cu+O2―→2CuOの反応をして酸化銅CuOとなる。…
※「酸化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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