ケース・スタディ(読み)けーすすたでぃ(英語表記)case study

翻訳|case study

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケース・スタディ」の意味・わかりやすい解説

ケース・スタディ
けーすすたでぃ
case study

事例研究法ともいう。これに対する統計的方法statistical methodと並んで、社会調査の二つの主要な接近方法の一つである。

 一つの社会的単位、たとえば個人、家族、社会集団社会制度コミュニティあるいは国民などをとってきて、その生活過程を、さまざまな社会関係や文化的背景と関連させながら、詳細に、資料を集め、記述する。そして、そこに働いている諸要因の相互関係を明らかにしていくのである。この研究では、主として、研究者自身の参与観察participant observation、聴き取りhearing、面接interview、手紙や日記などのパーソナル・ドキュメントpersonal document(個人記録)、あるいは古文書ancient manuscriptsなどを用いる。そこで、研究者の主観的要素が入ってくる問題や、事例の代表性の問題がおこってくる。農村調査法のなかでもっとも優れた方法の一つであるとされている、一つの社会的単位となる事例について、そこに生起している社会現象のすべてを忠実に記述するdescribe、モノグラフmonographを作成する方法は、この方法の代表的なものの一つである。

 統計的方法は、対象の全体と部分が異質性をもち、したがって部分を全部みていかなければ全体が明らかにされないという場合に使われる。国勢調査や世界農林漁業センサスの調査はその例である。これに対して、全体と部分が同質性をもち、一つあるいは少数の部分をみれば全体が明らかになるといった対象の場合に、事例研究法が使われる。日本の農村全体をつかむために、一つあるいは少数の村落を調査するという場合は、その例である。

 ところで、統計的方法が大量観察には適しているが、少数の単純な基準に限ってしか対象を明らかにすることができないのに対して、事例研究法は、質的に深く、諸要因間の複雑な関係をつかむことができるという長所がある。また、対象を時間の流れに沿って継続的に観察できるという長所もある。しかしながら、この方法にも短所はあるから、それを補うために、調査をするときには統計的方法を併用することが望ましい。

[二宮哲雄]

『安田三郎・海野道郎著『社会統計学』改訂2版(1977・丸善)』『西田春彦・新睦人編著『社会調査の理論と技法Ⅰ・Ⅱ』(1976・川島書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケース・スタディ」の意味・わかりやすい解説

ケース・スタディ
case study

事例研究あるいは事例研究法。個々の事柄について多角的,精細なデータを収集,分析し,その諸因子間の複雑な相互関係を明らかにして,帰納的に類似した事例の原則や法則性の発見を目指す研究法。社会科学分野のほか医学などの自然科学分野でも利用されるが,特に法律学において具体的な個々の判例から帰納的に法原則を発見させる法学教育の一方法として行われており,法的技術の修得に有効であるとされている。また経営学の分野では教育訓練技法の一つとして利用されており,経営管理の諸問題に関する知識や技能を体験的に修得させ,判断力を養成することをねらいとして,事例をもとに集団討議の方式によって行われる。

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