クメール族(読み)クメールぞく(英語表記)Khmer

翻訳|Khmer

改訂新版 世界大百科事典 「クメール族」の意味・わかりやすい解説

クメール族 (クメールぞく)
Khmer

インドシナ半島のカンボジアを中心に住む民族で,アウストロアジア語系諸族に属し,クメール語を話す。アンコール朝を建設した人々の末裔である。カンプチア人,クマエ人と自称し,カンボジア以外ではベトナム南部のメコン川デルタ地帯に約100万人(カンプチア・クロムと自称),タイのコーラート高原からムーン川流域に約200万人居住している。揺籃の地はメコン川中流域といわれ,早くからインド文化を受容し,国家形成を行った。身体的特徴では,短頭が多く,平均身長が1.65m,皮膚は銅色を帯び,毛髪が波状,肩幅が広く,筋肉質で均整がとれている。眼の色は黒く,頰骨が出っぱり,口は小さいが,唇は概して厚い。大部分仏教徒であるクメール族は礼儀正しく,年長の者や僧侶に出会うと,合掌した手を顔前まで持ち上げ,挨拶をする。性質は温厚・篤実で感情の起伏が少ないが,爆発すると衝動的な行動に出ることがあるといわれる。ほとんどが農業に従事しているが,農繁期を除いてはあくせくと働くことがない。田植えをすれば稲穂が実り,果物も豊富であり,近くの水溜りには川魚がいるという生活環境にある。昔から村落は池水,中小河川の河岸,水縁地帯に立地してきた。高温多湿のため村人水浴を好み,1日数回身体を洗う。1296年来訪した中国人周達観は,その見聞記《真臘しんろう風土記》に〈この地炎熱に苦しむ。毎日数次澡洗するにあらざれば則ち不可〉と述べている。住居は高床式の杭上家屋で,自然環境を考えた合理的な構造をもっている。衣服はサロン(腰巻)にブラウス(女性)と簡素であるが,祭礼などには民族衣装サンポット(一種のスカートを両足の間からたくしあげ,後で結ぶ)を着る。腕輪,指輪,種々の貴金属などの装身具を好む。食事は米飯が主食であるが,自家製のプラホック(魚の塩辛)が好物である。婚姻は仲介者(女)が内諾をとりつけ,婚約,結婚式となるが,花婿,花嫁が手首を綿糸で結ぶ〈チャンダイ〉の儀式から始まる。葬式は近親者が剃髪し,僧侶が読経の後に荼毘(だび)に付す。骨灰は骨壺に入れ,石塔の下に埋める。
カンボジア
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クメール族」の意味・わかりやすい解説

クメール族
クメールぞく
Khmer

カンボジアの人口の大半を占める民族。先史時代からモン族と混血し,これに1~2世紀頃から南インド系植民者が混血したものとみられ,その他マレー人の血も混っているとみられている。言語はモン=クメール語族に属する。形質的特徴としては,長身,短頭,皮膚は黒色が勝ち,髪は波状である。杭上家屋に住み,水田耕作に従事している者が多いが,漁業や織物,金属細工なども行なっている。服装は男女ともサロンに似たサンポットというスカート様のものをまとう。宗教は大部分が部派仏教を信奉しており,結婚も仏式結婚で,僧侶の社会的,文化的影響力は強いといえる。精霊信仰や年中行事には伝統宗教の要素がみられる。

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世界大百科事典(旧版)内のクメール族の言及

【アウストロアジア語族】より

…G.Difflothによる分類によれば,そのおもなものは以下の通りである。(1)ムンダ諸語Munda(インド)(a)北ムンダ語派 サンターリー語Santali,ムンダーリー語Mundariなど(b)南ムンダ語派 カーリア語Kharia,ソーラ語Soraなど(c)西ムンダ語派 ナハーリー語Nahali(2)ニコバル諸島諸語Nicobarese(3)モン・クメール語族Mon‐Khmer(a)カーシー語派Khasi(アッサム地方) 標準カーシー語Standard Khasiなど(b)パラウン語派Palaungic(ビルマ) パラウン語Palaung,ワ語Wa,ダノ語Danaw,ラワ語Lawaなど(c)モン語派Monic(ビルマ,タイ) モン語Monなど(d)クム語派Khmuic(タイ,ラオス) クム語Khmu,ラメート語Lametなど(e)ベト・ムオン語派Viet‐Muong(ベトナム) ベトナム語Vietnamese(南・北等の方言がある),ムオン諸語Muong(正しくはMu’o’ng)など(f)カトゥ語派Katuic(ベトナム) カトゥ語Katu,ブル語Bru,クイ語Kuy,パコ語Pacohなど(g)バナル語派Bahnaric(ベトナム,カンボジア) スティエン語Stieng,チュラウ語Chrau,スレ語Sre,ムノン語Mnong,ロベン語Loven,ブラオ語Brao,バナル語Bahnar,セダン語Sedangなど(h)ペアル語派Pearic(カンボジア) ペアル語Pear,チョン語Chong,サムレ語Samreなど(i)クメール語Khmer(カンボジア,ベトナム,タイ。北・中・南等の諸方言がある)(j)ジャハイ語派Jahaic(マレーシア) ジャハイ語Jahaiなど(k)セノイ語派Senoic(マレーシア) テミアル語Temiar,セマイ語Semaiなど(1)セメライ語派Semelaic(マレーシア) セメライ語Semelaiなど この中で政治・文化的に重要なのは,モン・クメール語族に属するクメール語(カンボジア語),ベトナム語モン語で,前2者はいずれも国語であり,モン語は古く栄えたモン族の言語として,ビルマ(現,ミャンマー)とタイとに文化的に大きな影響を与えた。…

【クメール語】より

…カンボジアを中心に,タイとベトナムに分布するクメール族の言語。カンボジア語Cambodianとも呼ばれる。アウストロアジア語族中のモン・クメール語族に属し,使用人口は600万人くらいと推定される。南インド系の文字を使用,7世紀初頭以来の碑文が残っている。文法的にはいわゆる孤立語で,名詞・代名詞の格変化,動詞の人称・数・時制などによる活用などの語形変化はいっさいなく,語順と助辞が文法的に大きな役割を果たしている。…

【稲作文化】より

… このような原初的な技術段階を出発点として,その後どのようにして稲作文化が成熟していったかを跡づけるためには,古代以降の日本の文献記録を分析することができるし,今日の生活様式としては東南アジアの平地諸民族の生活とその文化が参考になる。ここでは主としてタイ族,クメール族の事例にしたがって稲作文化の骨組みをさぐってみよう。 その場合にまず考えられることは,稲作のリズムと生活暦との相似である。…

【カンボジア】より

…カンボジアの大地は高温多湿で蒸し暑く,年平均気温が27℃,乾季が12月から5月まで,雨季が6月から11月まで,年降水量は1400mmから2000mmであり,熱帯モンスーン気候である。
【住民】
 クメール族はメコン川中流域から南下して,現在の平地平野部に住むようになった。主として農業に従事し,就業者人口の約7割を占めている。…

※「クメール族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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