カー(Edward Hallett Carr)(読み)かー(英語表記)Edward Hallett Carr

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

カー(Edward Hallett Carr)
かー
Edward Hallett Carr
(1892―1982)

イギリス歴史家、国際政治学者。ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジを卒業、1916年外務省に入る。1936年まで外交官として勤務。ウェールズ大学の国際政治学教授(1936~1947)。この間『タイムズ』紙の論説委員(1941~1945)を兼ねた。1948年国連の世界人権宣言の起草委員長を務めた。その後オックスフォード大学教鞭(きょうべん)をとり、1955年以降は母校トリニティ・カレッジの高級研究員として晩年を過ごした。その数多い著書はほとんどが邦訳され、日本の読者に多大の影響を与えている。外交官時代の著作は『ドストエフスキー』、『浪漫(ろうまん)的亡命者たち』、『カール・マルクス』など社会、革命思想に関するものが多い。『危機の二十年』(1939)は国際政治の研究に学問的基礎を与えたもので、国際政治における「力」の要素を重視し、ユートピア主義と現実主義とを総合する必要を説いた。ほかに国際政治に関する著作には『平和の条件』『ナショナリズム発展』『西欧世界に対するソビエト衝撃』『両大戦間における国際関係史』などがあり、また『新しい社会』や『歴史とは何か』は彼のプラグマティックな歴史観をよく示している。早くからロシア史に深い関心を払っていたが、1950年に第1巻を出した『ボリシェビキ革命』に始まる『ソビエト連邦の歴史』全8巻は、彼のライフワークとみるに足る壮大な労作である。

[斉藤 孝]

『井上茂訳『危機の二十年――国際関係研究序説』(1952・岩波書店)』『衛藤瀋吉・斉藤孝訳『両大戦間における国際関係史』(1968・清水弘文堂)』『原田三郎他訳『ソヴェト・ロシア史 ボリシェヴィキ革命 1917―1923 第1~3巻』(1967~1971・みすず書房)』『南塚信吾訳『ソヴェト・ロシア史 一国社会主義 1924―1926 Ⅰ政治・Ⅱ経済』(1974、1977・みすず書房)』『清水幾太郎訳『歴史とは何か』(岩波新書)』

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