インフルエンザ脳症(読み)インフルエンザノウショウ(英語表記)Influenza-associated encephalopathy

デジタル大辞泉 「インフルエンザ脳症」の意味・読み・例文・類語

インフルエンザ‐のうしょう〔‐ナウシヤウ〕【インフルエンザ脳症】

インフルエンザをきっかけとして脳にむくみが生じる病気。6歳以下の幼児に多い。発熱に続き、痙攣けいれん意識障害・異常行動などの症状がみられる。致死性があり、治癒しても後遺症が残ることもある。インフルエンザ脳炎。

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六訂版 家庭医学大全科 「インフルエンザ脳症」の解説

インフルエンザ脳症
インフルエンザのうしょう
Influenza-associated encephalopathy
(感染症)

どんな感染症か

 インフルエンザ脳症は、インフルエンザ感染に伴い急激に発症し、神経細胞など脳に障害をもたらし、時には全身の諸臓器も障害を受ける(多臓器不全(たぞうきふぜん))、重い疾患です。インフルエンザの感染は引き金となりますが、脳の中ではウイルスは増えず、感染によって産生されたサイトカインなどによって、脳障害や多臓器不全が起きると考えられます。

 1995年ころから報告があり、2000年ころから一般に知られるようになりました。欧米では少なく、東アジアに多いと考えられています。日本の年間発症数は100~500例で、病因別では最も多い疾患です。好発年齢は1~5歳、ただし、2009~10年に流行した新型インフルエンザでは、5~10歳が中心でした。

症状の現れ方

 インフルエンザの発熱に伴い、数時間から1日以内に、①けいれん、②意味不明な言動、③意識障害などの神経症状が現れます(表1)。その後、次第に意識障害が進行していきます。この時、けいれんが繰り返し起こるタイプもあります。

症状が進行すると、多くの臓器の障害が出てきます。腎障害(血尿)、胃腸障害(ひどい下痢)、肝機能障害、凝固障害(ぎょうこしょうがい)出血傾向)などです。人工呼吸器が必要になることもあります。ただ、これらは重い例で、意味不明の言動やけいれんがあるだけで意識障害は軽いことも、かなりあります。

検査と診断

 まず、インフルエンザ感染の診断が重要です。その後、

1.意識障害があること。Japan coma scale(JCS)で20程度

2.頭部CT検査で、びまん性低吸収域(せいていきゅうしゅういき)局所性低吸収域(きょくしょせいていきゅうしゅういき)脳幹浮腫(のうかんふしゅ)皮髄境界(ひずいきょうかい)不鮮明など、脳障害を示す所見があること

が、確定診断となります。その他、

3.MRI検査や脳波検査など

によってさらに詳しく検査ができます。

 また、

4.尿・血液検査など

によって、脳症の重さを推定することも可能です。

治療の方法

 2005年、厚生労働省研究班により、「インフルエンザ脳症ガイドライン」ができました。さらに2009年その「改訂版」が出され、全国に広く普及しています。基本的には、このガイドラインに基づいて治療が開始されます。

 その概要は、

①まず全身状態を改善すること、とくに酸素投与や、脱水、ショック状態の改善、循環動態の管理などをしっかり行います。

②次に、けいれんを起こしている子が多いので、これをしっかり止めることが大事です。

 この①、②の段階で、必要ならば人工呼吸管理をします。

③脳症の治療としては、ⓐ抗インフルエンザ薬(タミフルリレンザなど)、ⓑステロイドパルス療法ステロイド大量療法)、ⓒガンマグロブリン大量療法などを行い、必要ならⓓ脳低温療法(34℃前後)、ⓔ脳圧を下げる治療、ⓕ血液浄化療法交換輸血)などを選択します。

 改訂版では、そのほか最新の治療が示されています。

 「インフルエンザ脳症の手引き」や「インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版」は、厚生労働省や岡山大学小児科のホームページでご覧いただけます。

予後について

 10年前(2000年ころ)は、約30%の子どもが死亡し、25%に後遺症が残りました。ガイドラインの普及後は、死亡は10%未満(8%)、後遺症は25%と改善しつつあります。神経後遺症を少しでも改善するためには、早期のリハビリテーションの開始が重要です。

森島 恒雄


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「インフルエンザ脳症」の解説

いんふるえんざのうしょう【インフルエンザ脳症】

 インフルエンザにともなう重篤(じゅうとく)な合併症急性脳症(コラム「急性脳症」)の一種です。
 インフルエンザ感染による発熱後、数時間から1日で発症、中枢神経(ちゅうすうしんけい)が急速に侵されます。発症初期の特徴的な症状として、異常言動、行動があげられます。いない人をいると言ったり、両親がわからなかったり、自分の手をかじろうとする、などの異常な行動が見られた場合は、できるだけ早く医師の診察を受けましょう。同時によく見られる症状には、手足のつっぱりやけいれん、意識がぼんやりして反応が鈍い、あるいは反応がない、などがあります。
 1歳をピークに乳幼児期の発症例が多く、5歳以下が全症例の80%を占めます。年間100~300人ほどが発症、10~30%が死亡、約25%に知能障害、身体障害などの重い後遺症が残ると言われています。
 原因はよくわかっていませんが、非ステロイド系解熱鎮痛薬の投与が発症に関与しているのではとの指摘があります。非ステロイド系解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)とはサリチル酸製剤(アスピリン、サリチルアミドなど)、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸、イブプロフェン、フルビプロフェン、インドメタシンなどですが、子どもがインフルエンザと医師の診断を受けた場合、解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)としては普通アセトアミノフェンが処方され、非ステロイド系解熱鎮痛薬は原則として使用されません。しかし市販薬を使う場合には注意が必要です。例えばサリチル酸製剤は、バファリンを始め多くの頭痛薬、鎮痛薬に配合されています(小児用バファリンはアセトアミノフェン)し、市販の総合感冒薬には、さまざまな症状に対応するよう多種類の成分が配合されています。
 インフルエンザが疑われる症状、特に子どもの場合は、安易に市販のかぜ薬を服用することは危険です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

知恵蔵mini 「インフルエンザ脳症」の解説

インフルエンザ脳症

インフルエンザウイルス感染に伴う合併症の一つで、脳に障害をもたらす疾患。主に5歳以下の幼児に発症する。インフルエンザによる発熱後、多くは数時間から1日以内に、けいれん、意識障害、異常行動などの神経症状が現れ、急速に進行する。致死率が高く、治癒しても知的障害やてんかんなどの後遺症が残ることもある。近年、非ステロイド系解熱鎮痛薬の投与がインフルエンザ脳症の発症や重症化に影響している可能性のあることが厚生労働省の調査によって明らかにされ、同省が脳症患者への治療に同剤を使わないよう医療機関などに指導を行っている。現時点で有効な治療法は確立されていないが、タミフル、リレンザなど抗インフルエンザ薬の服用のほか、脳低体温療法やステロイドの大量投与などが行われている。

(2015-1-22)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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