イワヅタ(読み)いわづた

改訂新版 世界大百科事典 「イワヅタ」の意味・わかりやすい解説

イワヅタ (岩蔦)
Caulerpa

海中の岩上や砂上匍匐(ほふく)するつる性の,茎と根および葉の区別が外見上明瞭な緑藻イワヅタ科の属の名称。体はつる性で,円柱状の匍匐する茎の下部から多数の細い根が出て基物に固着する。茎の上部からは多数の枝と小枝および葉が出る。種類数が多く,日本沿岸だけでも20種以上生育する。種の区別は主に枝や葉の形状による。フサイワヅタC.okamurai W.v.Bosseは枝の周囲に長楕円形の小枝を密生するのに対し,スリコギヅタC.racemosa W.v.Bosse var.laete-virens W.v.Bosseはその名のようにすりこぎ棒に似た小枝を密生する。またヘライワヅタC.brachypus Harv.はササ葉状の葉を茎の上に並列して出す。葉の縁辺に規則正しい鋸歯をもつクロキヅタC.scalpelliformis Ag.var.denticulata W.v.Bosseは紅海と日本にのみ分布することから,海藻ではただ一つ天然記念物に指定されている。多くは暖海に分布し,とくにサンゴ礁海域には種類が多い。ポリネシアではサラダとして食用にする。しかし,最近カウレルピシンcaulerpicinという毒性物質を含むことが判明したので,一般に食用にすることは勧められない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イワヅタ」の意味・わかりやすい解説

イワヅタ
いわづた / 岩蔦
[学] Caulerpa

緑藻植物、イワヅタ科の海藻。陸生のつる性植物のツタに似るので、この名がある。体形は、岩上をはう匍匐(ほふく)茎部、そこから出る緑色の葉片部、そして岩内に侵入する根部の3部からなる。しかし、これら3部の間には隔壁がなく、体全体の原形質はつながっている非細胞体制をとる。緑色の葉片部の形状はいろいろに変化するので、それによって種、変種に分類されるが、変形が多くて分類はむずかしい。暖海性で、奄美(あまみ)諸島沿岸では種類も多く、1年を通じて生育する。本州の中南部沿岸ではフサイワヅタ、ヘライワヅタの2種だけが広く分布し、まれにクロキヅタ、フジノハヅタなどが産するが、生育期間も夏季に限られて一年生藻になる。これらのなかで、フサイワヅタは分布が広く津軽海峡周辺まで北上し、また200メートル内外の深海にも産する。このフサイワヅタを、九州南部ではキクノリとよんで古くから食用としている。形状がやや似たセンナリヅタ類はフィリピンやポリネシアでは食用として広く愛好される。食用イワヅタ類の葉片部の形状はブドウの房に似ているため、英語では普通sea grapeとよぶが、最近では、この語を訳してウミブドウという名も使われ始めている。なお採取葉片の保蔵には塩まぶしにすることが多く、保蔵中は、外部の高浸透圧のために葉片はくしゃくしゃに縮まっている。これを淡水に漬けると、塩抜きと葉片の膨潤がおこり、こりこりとした口当りのよい食品となり、二杯酢などにして食べる。

[新崎盛敏]


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