改訂新版 世界大百科事典 「ササ」の意味・わかりやすい解説
ササ (笹)
イネ科の多年生植物。タケ科に分けることもある。タケもササも地下茎によって無性繁殖し,まれに花が咲くが花弁はなくよく似ているので,大型のものをタケ,小型のものをササと一般に呼ぶならわしとなっている。タケはたけのこの皮が脱落するが,ササはいつまでも残る。稈(かん)は低く多くは2m以下,節から出る枝も少数で,それに比較的大型の葉をつける。植物学的にはササ属Sasaのほかに,カンチク属Chimonobambusa,メダケ属Pleioblastus,ヤダケ属Pseudosasa,スズダケ属Sasamorpha,アズマザサ属Arundinariaなどの数属を含み,常緑であるが,種によっては葉の周辺部が冬には白色となって隈の入るものや,大部分の葉を落とすものもある。
ササは熱帯にはほとんど見られず,東アジアの暖帯以北,むしろ温帯や亜寒帯に多く分布している。とくに日本列島では,関東以西の低地から低山地に多いネザサやヤダケから,ブナ帯のスズダケ類(太平洋側)やネマガリダケ類(日本海側),ミヤコザサ(内陸山地域)などが多くの種を分化させているだけでなく,林床の主要な構成種にもなり,ときには広大なササ原を形成する。このように日本はとびぬけてササの種類が多いが,開花が数十年に1度以下なので,分類の特徴形質がはっきりつかみにくく,そのため研究者によっては数百種を区別する人から数十種ほどしか認めない人まであり,分類はまだ完全ではない。ことに葉の形や稈の高さなどは立地によって,あるいは栽培の仕立て方によって著しく変わる。
ササは昔から葉は薬用,保健用に,稈はいろいろな用途に利用され,現在でも工芸品や建築,その他の素材として利用される。また,広く分布するネマガリダケなど大型のササは,パルプ資源として期待されている。ササのたけのこは小型であるが,ネガマリダケなどは食用として重要で,スズコの名で広く利用されている。ササの芯葉にはビタミンKが多く含まれ,青葉には抗菌防腐作用があるので,乾燥してササ茶をつくったり,チマキや富山の鱒ずしのように食品の包装にもよく利用される。地下茎は土中を密にひろがり,表土の流出や崖崩れを防ぐ。この地下茎の延長とササの稈の本数は種類,土質によって違うが,たとえば面積100m2あたり,大型のネマガリダケの密生地では800~900m,1200~2000本に,小型のクマザサの密生地では1100m前後,1500~5000本に及ぶ。ブナ林の林床に密生するササを牧草として利用する試みはなん度も行われたが,商業的な高密度の放牧を長年月続けるには生育量不足で,成功していない。しかし,高密度に生育するササは,樹木の幼樹の生長を阻害するだけでなく,他種の草本の侵入生育をほとんど許さない場合がある。ササ類は小型で刈込みにも耐え,常緑性で,クマザサのように冬にも美しく隈どる種類や,斑入り葉(ふいりば)の変りものもあり,庭園の地被(グランドカバー)植物として重要である。また垣根にも植込みにも広く利用されている。
移植のときは若ザサ数本を1株として掘りとる。移植の適期は暖帯では秋,寒地では春。生垣とするには,新梢の伸びきったころに,適当な高さに先端を切りそろえる。盆栽とするには,若ザサに地下茎をつけ,鉢の土はふつう腐葉土,赤土,小砂を4:4:2の割合に混ぜた培養土を用いる。ササが伸びすぎるときは,先を切らずに,先端の新梢を手でひきぬく。古いササを切ると若いササが生えやすい。
→タケ
執筆者:上田 弘一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報