アカントステガ(読み)あかんとすてが(英語表記)acanthostegid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカントステガ」の意味・わかりやすい解説

アカントステガ
あかんとすてが
acanthostegid
[学] Acanthostega gunnari

両生綱イクチオステガ目アカントステガ科に属する、デボン紀後期の大形両生類全長約1メートル。属名は「角(つの)のある板」という意味である。1952年にスウェーデンのストックホルム自然史博物館の古生物学者エリク・ヤルビクErik Jarvik(1907―1998)が、ウプサラ大学の学生のときに参加したグリーンランド探検の結果の一つとして発表・命名した。これはウィーマン山での発見であったが、ずっと後になって、イギリスのケンブリッジ大学動物学博物館の古生物学者ジェニー・クラックJenny A. Clackは、セジウィック博物館(セジュウィック博物館)の標本のなかに、1970年代にステンシエ山の斜面から採集された頭骨後頭部に2本の突起があるほぼ完璧(かんぺき)な頭骨3個をみいだした。これがきっかけとなり、クラックは1987年のデンマーク地質博物館の探検隊に参加し、隊は同じステンシエ山からアカントステガの頭骨・肢骨・背骨・尾椎(びつい)を発見した。

 1989年クラックがイギリスのニューカッスル・アポン・タイン大学で博士号を得て数年たったマイケル・コーツMichael I. Coatesとケンブリッジ大学で共同研究を開始した結果、アカントステガの腕は、四肢類にしてはひどく曲がっており、橈骨(とうこつ)の長さが尺骨(しゃくこつ)の2倍もあることがわかった。肢(あし)は前後肢ともに8本指で、肉鰭(にくき)類と同じ特徴をもつ。舌骨(ぜっこつ)(舌顎骨(ぜつがくこつ))とアブミ骨を兼ねる骨が縮小し、頭骨の後方にはめ込まれていた。そこで空気中では音を聞けなかったが、測線器官により水圧を感知できたと考えられている。脳頭蓋(とうがい)はすきまなく閉じていて、鼻面は長く頑丈であった。

 アカントステガの鰓弓(さいきゅう)(えらの支柱となっていて、側面からみると弓状の骨の一片)の横断面は魚類のように三日月状であった。肩の骨も手首の部分も薄い骨で、肋骨(ろっこつ)も貧弱で脊椎骨(せきついこつ)は粗雑なつくりであった。ひれは長い尾の上面だけでなく下面にもついており、水中での前進や急停止ができたが、陸上では引きずるしかないので、下面の繊細な組織が損傷を受けやすい。結局、アカントステガが陸上で生き抜くための適応と解釈されていた特徴は、実は水中生活を送るために進化したものであったらしい。

 アカントステガは、ほとんどの時間を水中で過ごし、呼吸はほとんどえら呼吸ですませ、水底の丸太や岩にしがみついて獲物となる魚を待ち伏せることもあった。頭上についている目の視野に獲物が飛び込むと、尾を打ち振り上方へ突進し、大きな口でとらえようとしたであろう。浅瀬では、前肢で上体を起こし、水面上に頭を突き出し空気を吸い込むこともあったと思われる。2004年にはアメリカのペンシルベニア州からも左上腕骨化石が発掘され、前肢で体を支え、頭を持ち上げたり、浅瀬の移動に役だったと推定された。

[小畠郁生]

『カール・ジンマー著、渡辺政隆訳『水辺で起きた大進化』pp.394(2000・早川書房)』

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