頭骨(読み)かしらぼね(英語表記)skull

翻訳|skull

精選版 日本国語大辞典 「頭骨」の意味・読み・例文・類語

かしら‐ぼね【頭骨】

〘名〙
① 頭の骨。頭蓋骨(ずがいこつ)
② 魚の頭にあるJの字の形をした骨。

とう‐こつ【頭骨】

〘名〙 頭蓋と内臓骨との総称。特に、頭蓋骨のこと。〔生物学語彙(1884)〕

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デジタル大辞泉 「頭骨」の意味・読み・例文・類語

とう‐こつ【頭骨】

脊椎動物の頭部を形成する骨。人間などでは頭蓋骨とうがいこつと同義。顱骨ろこつ

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改訂新版 世界大百科事典 「頭骨」の意味・わかりやすい解説

頭骨 (とうこつ)
skull

脊椎動物の頭部の骨格のことであるが,このことばの使い方には多少の混乱がみられる。狭義には,頭骨は脊柱の前端(上端)に連結して,脳や目,耳,鼻など主要な感覚器および呼吸器,消化器の入口を保護または支持する,骨性または軟骨性の複合的構造だけを指し,下あごなどほかの骨格を含まない。広義にはこの構造と下あごの骨格との複合体を指し,さらに最も広義にはこれらのほか,舌骨やえらの骨格までも含めた全体的骨格を意味する。頭骨はまた頭蓋(ずがい)(cranium,解剖学では〈とうがい〉とよむ)ともいい,俗に頭蓋骨ともいうが,頭蓋は狭義の頭骨で,ふつうは下顎(かがく)骨格を含まない。比較解剖学的には本来最も広い意味に解すべきだが,ここでは広義にとり,頭骨は頭と下顎骨格とからなるものとしておく。

 頭骨はふつう左右相称で,円口類,軟骨魚類以外の動物では多数の無対または有対の構成要素,つまり頭蓋骨からできている。その発生過程では最初,旁索(ぼうさく)軟骨,梁(りよう)軟骨など数個の軟骨塊が現れ,やがてこれらがつながり合って軟骨頭蓋(原頭蓋)と呼ばれる頭蓋の母体ができる。これは脳と感覚器の容器となる基本的な構造で,それを中心として形成される頭蓋の中心部分を〈神経頭蓋〉(または脳頭蓋)と呼ぶ。骨性骨格をもたない円口類や軟骨魚類の頭蓋は終生この状態にとどまる。他方,上下の顎骨,舌骨,およびえらの骨格は前後に並ぶ一連の軟骨性骨格(内臓弓)として発生し,その最前位のもの(顎弓)の上半部の要素(口蓋方形軟骨)が上あごの骨格の母体となる。内臓弓に起源をもつこれらの頭骨要素を,神経頭蓋に対して〈内臓頭蓋〉(または顔面頭蓋)と呼ぶ。軟骨魚類では上下のあごの骨格は終生この状態で,その上に歯が生える。この仲間の動物では頭骨は軟骨頭蓋,口蓋方形軟骨がつくる上顎骨格,および下顎軟骨がつくる下顎骨格からなり,その後方に第2内臓弓である舌弓および数対のえらの骨格をなす内臓弓すなわち鰓弓(さいきゆう)からなる内臓骨格が連なるのである。骨が退化している肺魚類を除く硬骨魚類とそれ以上の脊椎動物では,胚期にのみこのような軟骨性骨格があり,成長とともにそれらのほとんどが完全に骨化する(ただし,両生類では下顎軟骨の前部はいわゆるメッケル軟骨として残存する)。硬骨魚類,両生類,爬虫類および鳥類では,下顎軟骨の後端部は骨化し,顎関節をつくる関節骨となる。またこれらの動物では,口蓋方形軟骨の前部は退化消失,後部は骨化して方形骨という上あごの要素になり,それと関節骨とが顎関節を構成する。さらに両生類以上の動物では,舌顎軟骨も変形,骨化し,耳小骨のあぶみ骨(耳小柱)となる。円口類と軟骨魚類以外の動物では,胚期の軟骨性骨格がこのように骨化し,いわゆる軟骨性骨(一次骨)になるほか,軟骨段階を経ずに新たに直接形成される硬骨,すなわち皮骨(二次骨)の要素が多数発生して頭骨の大きな部分を占め,それらが可動または不動性の関節でつながり合って骨性頭蓋を形成することになる。軟骨頭蓋に由来する一次骨は脳腔の側面,底部および後部の付近に局在し,四つの領域に区分することができる。すなわち,眼窩(がんか)側頭部には4種6個の骨(哺乳類では合一して蝶形骨と篩骨(しこつ)の一部になる),耳の迷路部には5種,両側で10個の骨(哺乳類では岩骨になり,ヒトではこれが皮骨の鱗状骨と合して側頭骨になる),篩骨部には2種3個の骨(哺乳類では篩骨の大半になる),後頭部では脊髄の出口(大後頭孔)を取り囲む3種4個の骨(哺乳類では後頭骨になる)のほか,耳小骨が1種2個(哺乳類では3種6個),以上合計15種25個(哺乳類では7種11個)の軟骨性骨が分化する。軟骨魚類では脳は軟骨頭蓋で完全に覆われているのに対し,硬骨魚類以上では脳の天井,つまり頭頂部は前頭骨,頭頂骨,後頭頂骨など(哺乳類では3種5~6個)の皮骨に覆われる。皮骨性の骨格要素は古生代に生存した甲皮類(絶滅した無顎類)以来,二次的にそれを失ったとみられる円口類と軟骨魚類を除くすべての脊椎動物が豊富に備えており,頭蓋骨の大半は皮骨性である。

 下あごでは上記のように下顎軟骨が系統発生上の本来の母体であるが,下あごを備えた最古のものである古生代の棘(きよく)魚類以来多くの皮骨性要素が現れて下顎軟骨に交代した。個体発生上もまず下顎軟骨が発生し,次いでその周辺に多くの皮骨が現れて縫合suture(不動性関節)でつながり合い,下あごの骨格になる(その上に歯が生える)。そしてもとの下顎軟骨は,前記のように終生メッケル軟骨として残存する両生類を除いて,変形,退化していく。下あごの骨格は爬虫類までの脊椎動物では数種類の骨の複合体であるが,哺乳類様爬虫類と呼ばれる絶滅した高等爬虫類が哺乳類へ進化する過程で,関節骨が中耳に移ってつち骨に変形した(同時に上あごでは方形骨がきぬた骨に変形)。それとともに,皮骨性の歯骨がしだいに拡大し,哺乳類ではこれだけが下顎骨格をなし,それが上あごの皮骨である鱗状骨(側頭骨)と顎関節をつくる結果となった。そしてその他の皮骨はすべて退化消失したと考えられている。この状態は全脊椎動物のなかで哺乳類だけの特色であり,この歯骨のことを哺乳類では改めて〈下顎骨〉とよぶ。

 下あごも含めて,頭骨の構成要素の数は高等な動物ほど,また特殊化した動物ほど減少する傾向がある。左右両側を合わせた要素骨の数は,絶滅した種類も含めて硬骨魚類では180~100個,両生類では95~50個(現存のものでは少ない),爬虫類では80~50個といわれ,哺乳類ではその約半数,ヒトなど高等霊長類では二十数個となっている。軟骨性でも骨性でも無顎類の頭骨の機能は脳や感覚器の容器にすぎないのに対し,顎口類(下あごをもつ脊椎動物)のそれは,外敵や食物にかみつき,かみ切り,咀嚼(そしやく)するなど食物を積極的に取りこむ装置としての機械的機能をも備えている。それに適応して,上あご,下あごのさまざまな皮骨性要素(哺乳類では上あごの前顎骨すなわち切歯骨と上顎骨,下あごの歯骨すなわち下顎骨)がさまざまに分化した歯を備えている。また上下顎が顎関節で連結し,とくに哺乳類では下あごが上あごに対して回転するのみならず,それぞれの動物の食性に対応して,滑動そのほかいろいろな運動ができる構造になっている。また硬骨魚類,ヘビ類,多くの鳥類のように,頭蓋の諸骨が互いに可動性関節でつながり,下あごの開閉につれて自動的に動くしくみ(キネシス)をもつものが少なくない。こうした運動をおこすには,顎筋または咀嚼筋と総称される上下顎を結ぶ種々の筋肉(哺乳類には4対ある)が協力している。

 以上のように,頭骨の各部分は比較解剖学的にきわめて豊かな内容をもつ領域であるが,同じ観点から頭骨そのものの起源も古くから興味の対象とされてきた。脊柱とそれに付随する筋肉系や神経系が,多くの無脊椎動物に見られるような体節的構造をもつのに対し,頭骨は一見そうした構造をもたない。このことに関して,頭蓋の一部と椎骨とのぼんやりした類似から,進化論確立に先立つ19世紀前半に動物の〈原型〉を求める立場から,L.オーケンゲーテ,R.オーエンらが,頭蓋は椎骨の変形によって生じたという説(頭蓋椎骨説)を立てたことがあった。この説はのちにT.H.ハクスリーにより進化論的立場から発生学的理由によって否定されたが,その後も頭蓋の前後方向の〈分節性〉を認めようとする学者が今日に至るまで少なくない。その考えはおもに体節の発生と脳神経の分節的配置に基づいて推論されるもので,軟骨魚類以上の動物の頭蓋は少なくとも九つの分節をもつといわれているが,十分な確証はまだ得られていない。頭部の構造の一部に分節性が見られるにもかかわらず,その起源が不明りょうであるのは,脊椎動物では中枢神経,感覚器,呼吸器,食物摂取装置という重要な構造がそこに集中し,頭部が極度に複雑化(これを〈頭化〉という)した結果である。
執筆者:

ヒトの頭骨も脳を入れる神経頭蓋と顔面をつくる内臓頭蓋とに区別される。神経頭蓋は頭骨上半を占め,中に脳をおさめる頭蓋腔があり,内臓頭蓋は下半の複雑な形を示す部分で,鼻腔と口腔の支えをなしている。神経頭蓋と内臓頭蓋との大きさの割合はおよそ動物の進化の程度を示す。それはこれら両部がそれぞれ神経機能と食物摂取能力とを表しているからである。外耳道の上縁と眼窩の下縁とを結ぶ直線は,自然の姿勢ではほぼ水平の方向をとるので,左右のこの直線の決定する平面をドイツ水平面,フランクフルト水平面または耳眼平面といい,頭蓋の位置や方向を決定する標準平面として用いられる。この平面はだいたい顔面頭蓋と神経頭蓋の境界に一致するが,眼窩だけは,ふつう顔面頭蓋に加えられる。頭蓋は15種23個の頭蓋骨の集りで,下顎骨と舌骨を除いたほかの骨は主として縫合によって固く結合されている。

神経頭蓋はその形が単純で,表面が円蓋状であるが,内臓頭蓋ははなはだ複雑である。まず頭蓋を前から見ると,中央に鼻腔があり,その入口を梨状口(りじようこう)という。鼻腔の上には左右1対の眼窩があって眼球を入れる。また鼻腔の下には骨口蓋があって,口蓋の支えをなしている。頭蓋の側面には外耳道が開き,そのすぐ前に顎関節がつくられている。外耳道の後下には乳様突起,前下には茎状突起が突出して,筋の付着部をなしている。また,前方に向かっては頰骨弓(きようこつきゆう)という橋(きよう)が張っている。頭蓋の後面正中線上には外後頭隆起という小さい突起がある。下あごをはずして,頭蓋を下のほうから観察したところは最も複雑で,前のほうには口蓋が台状に高まり,その後3には翼状突起が接している。また後部正中部には大きな大後頭孔があって,頭蓋腔と脊柱管との交通する場所になっている。大後頭孔の前外側には後頭顆(か)という1対の突起があり,脊柱と頭蓋とを結ぶ関節(環椎後頭関節)の関節頭をなしている。

 詩人ゲーテは,植物の花弁やしべが葉から変形したものであるとの理論の提唱者であるが,同じ発想から頭骨は脊椎の融合と変形によってできたものだと主張した(ゲーテの脊椎論,1820)。頭骨全体が6個の脊椎の融合したものだとするゲーテの考えは,その後否定されたが,頭蓋底の一部に脊椎の形態学的ななごりが見られることは事実で,くわしい発生学的研究の結果,今日では大後頭孔から下垂体窩のところまでは,本来脊椎となるべきものからできていることがわかっている。脊索を囲む骨格部分が脊索といっしょに頭骨に取りこまれるのである。ゲーテの脊椎論は部分的に正しかったといえる。

 頭蓋の下面には多数の穴があって,頭蓋腔に出入する神経や血管の通路をなしている。頭蓋腔は脳をいれる大きいまるい腔所で,その天蓋すなわち頭蓋冠は俗に〈あたまのはち〉といい,ほとんど同じ厚さの骨質でできていて,じょうぶである。これに反して,頭蓋腔の下底すなわち頭蓋底は,内部から見ても,外部から見たのと同様に,はなはだ複雑な形を呈し,そのうえ厚さが場所によって違うので,衝撃によって破裂を生じやすく,頭蓋底骨折をおこして致命傷となることがある。

頭蓋腔の大きさは脳の大きさにほぼ比例している。その値は個人的に大きな開きがあるが,平均すると成人で1300~1500㏄である。また人種によって差があり,男は女より100~150㏄ほど大きい。頭蓋の形は古くから人類学的研究の対象であり,大きさや形を数量的に表現するために頭蓋計測の手段が用いられ,そのために諸種の計測器が考案されるとともに,多数の計測点が規定された。そのようにして計測された数値とそれから計算された示数の種類ははなはだ多いが,とくに重要なものは頭長幅示数cephalic index of the living(頭示数)である。頭幅(いちばん長い左右幅)を頭長(いちばん長い前後径)で割って100を掛けた値である。この示数が74.9以下のものを長頭,75.0~79.9を中頭,80.0以上を短頭と分類する。たとえば日本人は中頭,朝鮮人や満州人は短頭とされる。そうすると,頭蓋の形は遺伝学的に固定しているように見えるが,古代や中世の人骨と比較研究してみると,同一人種の頭形も時代とともにかなり変化することが知られている。また最近70年ほどのあいだに,日本人の頭も急速に短頭化が進んだ。日本人は中頭と記したのはすでに古く,今日では大部分の日本人が短頭である。短頭化は文化が進むときにおこる変化で,一種の家畜化現象(オオカミからイヌへ,イノシシからブタへの家畜化に伴って頭骨が短くなった)であると説明される。しかし,短頭化の真のメカニズムはまったく不明である。頭蓋にはまた性差と年齢差が顕著である。性別は神経頭蓋の大きさ,眉隆起(びりゆうき)の発達度,下顎角部や乳様突起における筋付着部の強さなどに現れる。年齢判定は歯の存在数とその摩耗の状態,縫合の骨化の程度をよりどころとするものである。もちろん,両者とも絶対的のものではなく,性別はおよそ90%くらいの確率,年齢は若いところでは3~5年,成人では5~15年くらいの幅をもって鑑定できるようである。

頭骨のコラム・用語解説

【ヒトの頭蓋を形成する骨】

前頭骨 frontal bone(os frontale[ラテン])
神経頭蓋のうち前頭部をつくる骨で,1個であるが,胎児では左右1対の骨として発生し,生後に合着する。成体でもまれに,前頭骨が正中部の縫合によって左右の両半に分かれていることがある。前頭骨は貝殻のような形をしており,前頭鱗という部分が頭蓋腔の前壁をなす。そのほぼ中央にたかまる前頭隆起は,この骨が最初にできはじめたときの骨核のなごりである。中央部の鼻部は鼻骨や篩骨と連絡し,その両側にある眼窩部は眼窩の上壁をなすとともに,頭蓋腔の前部の下底(前頭蓋窩)をつくっている。その中には1対の前頭洞があり,鼻腔と通じている。前頭骨がよく発達しているのは,脳の前頭葉が発達した,ヒトの特徴である。また男女を比べると,女のほうが前頭骨がまるく大きく突出して〈おでこ〉が出ていることが多い。
頭頂骨 parietal bone(os parietale[ラテン])
頭蓋の上壁をなす1対の骨。四角形の皿状で,前頭骨,蝶形骨,側頭骨,後頭骨と縫合で連なる。
側頭骨 temporal bone(os temporale[ラテン])
およそ耳の位置にある1対の骨で,外側面の下部に外耳孔がある。外耳孔の上方には側頭鱗と呼ばれる平たい部分があり,内側には錐体が突出する。外耳孔を中心にして前上方へは頬骨突起,下前方へは茎状突起,下後方には乳様突起が出る。側頭骨は内部に内耳と中耳を収めているので,はなはだ複雑である。
乳様突起 mastoid process
ヒトの側頭骨にあって,外耳道の後下方にある親指大の丸みをおびた突起。胸鎖乳突筋が付着するために発達したものと思われる。内部は多くの場合,〈乳突蜂巣(ほうそう)〉が発達し,空洞になっている。
後頭骨 occipital bone(os occipitale[ラテン])
頭蓋の後部を占める1個の大きな骨。木の葉のような形をなし,前下部には大後頭孔があって,ここに延髄が通っている。大後頭孔の前方の小部を底部,両側の狭い部分を外側部,後上方の大きなへこんだ板状の部分を後頭鱗という。後頭鱗の上半はまれに独立の骨をつくることがあり,これを頭頂間骨またはインカ骨という。
蝶形骨 sphenoid bone(os sphenoidale[ラテン])
楔状骨(けつじようこつ)ともいう。頭蓋の底を占める複雑な形をした1個の骨。全体にチョウが羽を広げたような形をしているのでこの名がある。古くは胡蝶骨ともいった。中央部の〈体〉とこれから左右に出るそれぞれ1対の〈大翼〉と〈小翼〉,下方に向かって出る1対の〈翼状突起〉がある。〈体〉の内部には1対の蝶形骨洞という空洞があり,副鼻腔の一つをなす。〈体〉の上面にはトルコ鞍(くら)というくぼみがあり,ここに脳下垂体が入っている。
篩骨 ethmoid bone(os ethmoidale[ラテン])
鼻腔の天井にある骨で,複雑な形をしており,篩板,正中板,篩骨迷路の3部に区別される。篩板は水平の部分で多数の小さな穴によって貫かれ,〈ふるい(篩)〉のように見える。篩骨,篩板の名はこれによる。篩板の小穴は嗅糸(嗅神経)が通る穴であるが,昔は脳から発する汁が,この小穴を通って鼻腔に達し鼻汁になると考えられていた。正中板は正中面に垂れ下がっている薄い板で,鋤骨(じよこつ)の上に続いて鼻中隔をつくっている。迷路は篩板から左右に垂れ下がった紙のように薄い骨板でできた部分で,その中に数個の篩骨洞または篩骨蜂窩という小室がある。
頬骨 malar bone(os zygomaticum[ラテン])
顔面の両側に突出している1対の骨。以前には顴骨(かんこつ)といった。蒙古系人種(モンゴロイド)では欧州系人種(コーカソイド)に比べてその突出が著しい。前のほうは前頭骨と上顎骨とに続き,後のほうは側頭骨の頬骨突起と連なって,弓形の橋〈頬骨弓〉をつくる。
上顎骨 maxilla
上あごの中にある1対の骨。中央部を〈体〉といい,その中には上顎洞という空間があって,うつろになっており,副鼻腔の一つをなしている。前面には眼窩下孔があり,同名の溝と管との開口部をなしている。また内側縁は鼻切痕となって切れ込み,左右の切痕が寄って梨状口をなす。〈体〉からは前頭突起,頬骨突起,歯槽突起,口蓋突起の4種の突起がのびる。歯槽突起の下面には歯槽があって,歯がはまりこんでいる。下顎骨とともに,歯をもっていることが,この骨の特徴である。ヒトやサル以外の大多数の哺乳類では,上顎骨の前のほうの部分が切歯骨または顎間骨となって独立している。上顎洞の大きさは個人差が大きいが,およそ1.5cc,内面は鼻腔の粘膜でおおわれる。上顎洞の粘膜と鼻腔の粘膜が連なるところが上顎洞の口で,この口の位置が少し高いところにあるため,たまった膿がぬけにくい。上顎洞は副鼻腔のうちで最もよく副鼻腔炎を起こすところであり,また歯根に近いため,歯の病気からも,よく炎症を起こす。
切歯骨 os incisivum[ラテン]
上顎骨の前部を占める1対の骨で,間顎骨または顎間骨ともいう。人間では発生の初期に狭義の上顎骨と合着してしまうが,一般に哺乳類ではよく発達し,終生,独立の骨として存在する。発生初期にはヒトにも存在することを発見し,ヒトと哺乳類の体制上の一貫性の証拠としたのはゲーテであった。この発見は解剖学史上,進化史上,重要な発見であった。
下顎骨 mandible(mandible[ラテン])
下あごの支柱をなす骨。ヒトでは正中線で合着し,一つの骨になっている。中央部を下顎体,後上方にのびている部分を下顎枝という。〈体〉の上面には歯槽があり,歯を入れる。
舌骨 hyoid bone(os hyoideum[ラテン])
喉頭の甲状軟骨のすぐ上にあるU字形の小さな骨。前頸部の皮下の浅いところにあるので,指で触れることができる。下顎骨とよく似た形をし,舌骨体から後方に向かって〈大角〉〈小角〉という二つの突起が出る。舌を動かす筋肉をはじめ,たくさんの筋肉がつく。
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骨格 →髑髏(どくろ)
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百科事典マイペディア 「頭骨」の意味・わかりやすい解説

頭骨【とうこつ】

頭蓋(とうがい)/(ずがい)とも。脊椎動物の頭部の骨格。多数の骨からなり,広義には下顎(がく)骨,舌骨,えらの骨などを含み,狭義にはそれらを含まない。広義のヒトの頭骨は15種23個で,側頭骨,頭頂骨,涙骨,鼻骨,下鼻甲介,上顎骨,口蓋骨,頬(きょう)骨(以上左右1対),前頭骨,後頭骨,蝶(ちょう)形骨,篩(し)骨,鋤(じょ)骨,下顎骨,舌骨である。下顎骨以外は,骨がかみあった縫合で不動性に連結する。上部の半球形の部を脳頭蓋(神経頭蓋)といい,内部に脳を入れる頭蓋腔をもつ。前下部の凹凸に富む部分を顔面頭蓋(内臓頭蓋)といい,消化・呼吸器の起始部を収める。下面は頭蓋底で,神経や血管の通る多くの孔をもつ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「頭骨」の意味・わかりやすい解説

頭骨
とうこつ

頭蓋

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世界大百科事典(旧版)内の頭骨の言及

【骨格】より

…これが動物にくらべてヒトの分娩を困難にしている理由のひとつである。【藤田 恒夫】
【ヒトの骨格を構成するおもな骨】
頭蓋skull一般には頭骨ともいわれる。脳を収容する脳頭蓋と顔面をつくる顔面頭蓋に区別される。…

【頭】より

…腔腸動物・海綿動物では頭部形成は認められないので,頭部・尾部などの体域区分はされない。【原田 英司】
[脊椎動物の頭]
 脊椎動物では,頭骨(頭蓋と下顎骨格)を骨格とする部分が頭である。〈さらし首〉〈首を斬る〉などの表現にみられるように,首から上の部分という意味で,頭のことを〈首〉ということもある。…

【骨格】より

…脊椎動物の進化の歴史では,脊索が最初に現れたことはほぼ確かであるが,軟骨と骨とはともに起源がきわめて古く,どちらが先に現れたのかは明らかでない。 脊椎動物の骨格は一般的に,頭骨,脊柱,前肢の骨,後肢の骨,前肢を胴につなぐ前肢帯(鎖骨など),後肢を胴または脊椎につなぐ後肢体(骨盤)からなり,そのほかに多少の付属的な骨格がある。 脊柱は脊索に代わって体の中軸をなす骨格で,これは脊椎(椎骨)という骨(または軟骨)が1列に連結されてできている。…

※「頭骨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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