ひだる神(読み)ひだるがみ

改訂新版 世界大百科事典 「ひだる神」の意味・わかりやすい解説

ひだる神 (ひだるがみ)

西日本に多い憑物(つきもの)の一種で,とくに空腹時に憑かれることが多い。ダリ神ダリ仏ダニダラシ,ジキトリ,ヒモジイ様,イザリ神などともいい,餓鬼無縁仏に憑かれる例や,歩行中に出会う〈行逢神(いきあいがみ)〉も同系統のものといわれている。この神に憑かれると急に空腹を覚え,冷や汗がでたり,手足がしびれて足腰が立たずに一歩も進めなくなるという。ヒダル神の実体非業の死をとげたり,行倒れなどしてそのまままつられずに山野をさまよっている死霊だとされる。これに憑かれる場所はほぼ一定していて峠道などが多いが,このほか火葬場付近や海上で憑く例もある。こうした場所を通る際や神に憑かれたときには弁当や食物の食べ残しを一口食べたり近くのやぶに投げすてるとよいといわれ,何も食物がないときには米という字を手のひらに書いてなめるとよいともいう。ヒダル神は人だけでなく,牛にも憑くことがあり,このため岡山県ではあらかじめ牛の尾先を切り,血を出しておくとよいと伝えている。また愛知県北設楽郡の花丸峠には非人の行倒れをまつったというダリ仏の石像がまつられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ひだる神」の意味・わかりやすい解説

ひだる神
ひだるがみ

御霊(ごりょう)信仰系の妖怪(ようかい)。ただし特定の姿形をもたないので怪異現象とみることもできる。峠道などを歩いているとき、突然耐えがたい空腹に襲われるのを、悪霊(あくりょう)のしわざと考える俗信。飯粒(めしつぶ)の一つでも食べるとか、手のひらに指先で米の字を書いてなめるとかすると治るともいう。村境や峠のあたりには、非業(ひごう)の死を遂げ、行くべきところに行き着けない者の霊が、無縁の霊となって浮遊しており、通りがかりの人の霊を追い出して入りたがっている、という俗信に基づく。「ひだる」はひもじいの意。

[井之口章次]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ひだる神」の意味・わかりやすい解説

ひだる神
ひだるがみ

だり神ともいう。憑物 (つきもの) の一種。民間伝承上の一種の霊気で,人里離れた山路などに浮遊して旅人などを悩ますといわれている。空腹時に,これに憑かれると,たちまち身体に倦怠を覚え,歩行不能となって,ついには死ぬと信じられている。また,これにとり憑かれたときには,飯を一粒でも食べるとなおるといわれる。『雲萍雑誌』『本朝俗諺志』などには,この神に憑かれた旅人の話が記載されている。

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デジタル大辞泉プラス 「ひだる神」の解説

ひだる神(がみ)

日本の妖怪。山道などを歩く人に空腹感をもたらす憑き物。西日本に広く伝承があり、「ダラシ」「ダリ」「ダル」などとも呼ばれる。

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