その他フラビウイルスによる感染症

内科学 第10版 の解説

その他フラビウイルスによる感染症(フラビウイルス)

5)その他のフラビウイルスによる感染症:
a)ダニ媒介性脳炎:中央ヨーロッパ脳炎ウイルスとロシア春夏脳炎ウイルスによって起こる中央ヨーロッパ脳炎とロシア春夏脳炎が主たるものである.発熱,頭痛,全身倦怠感,筋肉痛により発症し,その後中枢神経症状が出現する.致死率は中央ヨーロッパ脳炎1~2%,ロシア春夏脳炎はより重篤で約20%である.日本では北海道にダニ媒介性脳炎ウイルスが侵淫している.
b)セントルイス脳炎:セントルイス脳炎ウイルスによって起こる脳炎である.ウイルスは自然界では鳥-蚊-鳥の感染環で維持されている.アメリカ大陸においてみられる脳炎であり,米国においては年平均数十人の患者がおもに夏期発生する.高齢者での発生が多く,致死率約20%である.
c)マレーバレー脳炎:マレーバレー脳炎ウイルスによって起こる脳炎である.オーストラリアとパプアニューギニアにおいて発生するが,特にオーストラリア南東部において夏期に流行する.患者は小児と高齢者に多く致死率30
~40%である.
診断
1)臨床診断:
臨床所見からこれらのウイルス感染を疑うことが重要である.現在日本には日本脳炎ウイルスとダニ媒介性脳炎ウイルスのみが存在する.発症前にそれぞれの感染症が流行している地域へ渡航した旅行歴が非常に重要な情報となる.渡航地での蚊やダニによる吸血も重要な情報となる.
2)病原体・血清診断:
確定診断には病原体・血清診断が必須である.患者血清(脳炎においては血清あるいは脳脊髄液)において,①ウイルスが分離される,②ウイルス遺伝子がRT-PCR法などによって検出される,③特異的IgM抗体がIgM捕捉ELISA法などによって検出される,④特異的IgG抗体が中和法,IgG-ELISA法,赤血球凝集阻止反応(HI法)などによって検出され急性期と回復期で4倍以上の上昇が認められる,のいずれかで確定診断しうる.デング熱デング出血熱に関しては血中NS1の測定も近年使用されている.
3)鑑別診断:
デング熱,ウエストナイル熱発疹を有する急性ウイルス性疾患(麻疹風疹,エンテロウイルス感染症など)との鑑別が必要である.チクングニア熱チフスマラリア,A型肝炎,レプトスピラ症,その他のウイルス,リケッチア,細菌感染症との鑑別も必要となる.デング出血熱,黄熱の鑑別診断としてはほかのウイルス性出血熱,マラリア,レプトスピラ症などがあげられる.また,フラビウイルス脳炎はほかの急性ウイルス性脳炎との鑑別が必要である.
治療
 フラビウイルス脳炎に対して特異的な治療法はない.対症療法が中心であり,高熱と痙攣の管理,脳浮腫のコントロール,呼吸障害に対する対処と合併症の予防が重要である.デング熱,ウエストナイル熱,黄熱は対症療法が主体である.デング熱においては解熱薬としてアセトアミノフェンがすすめられる.アスピリンは出血傾向の増悪やReye症候群(Reye’s syndrome)発症の可能性があるので禁忌である.デング出血熱は補液が治療の主体である.
予防
 日本脳炎と黄熱に対してはワクチン接種で予防する.ダニ媒介性脳炎ワクチンは実用化されているが,日本では認可されていない.ほかのフラビウイルスに対するワクチンはない.ワクチンを接種していない場合には渡航地において蚊やダニとの接触を極力防ぐことが必要である.[倉根一郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報