レプトスピラ症(読み)レプトスピラしょう

精選版 日本国語大辞典 「レプトスピラ症」の意味・読み・例文・類語

レプトスピラ‐しょう ‥シャウ【レプトスピラ症】

〘名〙 レプトスピラによる感染症。血中でレプトスピラが蔓延して、主として肝・腎・中枢神経系に寄生する。ワイル病、七日熱レプトスピラなどがある。

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内科学 第10版 「レプトスピラ症」の解説

レプトスピラ症(スピロヘータ感染症)

 レプトスピラ感染症はわが国ではまれであるが,沖縄では年に数例報告されている.世界的には罹患者の多い人畜共通感染症である.感染症法では四類感染症である.
原因・病因
 病原体であるレプトスピラ(Leptospira)は,スピロヘータ目に属する好気性のGram陰性細菌で,長径6~20 μm,横径0.1 μmのらせん状の細菌である.ギリシャ語でleptoは「細い」,ラテン語でspiraは「らせん状」を意味する.分類上,病原性レプトスピラL. interrogansと非病原性レプトスピラL. biflexa に大別される.
 レプトスピラは多くの哺乳類に感染し腎臓に定着し尿中に排泄される.特に齧歯類や家畜・イヌは感染しやすく,猫はまれである.齧歯類では生涯にわたり尿中に菌を排泄し環境を汚染する.菌は土壌や水中で数日から数カ月生存可能である.菌は皮膚の損傷部分や粘膜から感染すると考えられている.
疫学
 わが国では2009年から11年で年間16~31例が報告されている.開発途上国では毎年50万人以上が罹患し死亡率は5~10%と報告されている.ペルーで発熱患者633例を連続して調べた結果では,50.7%でレプトスピラ症の関与が推定された.ネズミなどの尿に暴露することがリスクであり,農林業,畜産業,食品加工業,下水処理,土木工事,洪水時では注意しなければならない.
臨床症状
 症状は無症状から致死例まで幅があり,約90%は自然回復する.軽症では感冒様症状のみ(秋やみ)である. 潜伏期間は中央値10日(5~14日)である.急性期では,突然の高熱と頭痛・悪寒・筋肉痛(75~100%),悪心・嘔吐・下痢(50%),乾性咳(25~35%),結膜充血,腹痛,痰,咽頭炎などの症状を合併する.特に結膜充血と腓腹筋痛(把握痛)が有名であるが頻度は高くない.急性期は5~7日間継続する.この時期菌は血液脳脊髄液から分離可能である.
 短期間の症状改善後の免疫期は4~30日間継続する.免疫期ではIgMが出現し,菌は尿から数週間分離される.発熱とともに種々の症状を発症し,無菌性髄膜炎は80%に合併する.Weil病はレプトスピラ症の最重症病型である.急性期後に40℃以上の高熱が持続し,急速に肝不全腎不全肺出血,不整脈,循環不全を合併する.致死率は5~40%である.severe pulmonary hemorrhage syndrome (SPHS)は呼吸器症状,肺出血が顕著な病型であり,肝不全や腎不全を伴わない場合もある.
診断
 診断は,菌体分離,抗体検出(顕微鏡下凝集試験法),遺伝子検出(PCR法)で行われる.菌は血液・脳脊髄液・尿から分離される.
治療
 治療は以下が選択されるが,重症例では支持療法が同時に非常に重要である. ①ドキシサイクリン 100mgを1日2回,5~7日間,②ペニシリン 150万単位を6時間ごと点滴,5~7日間.ペニシリン使用時には,ほかのスピロヘータ感染と同様に,Jarisch-Herxheimer 反応が起こるので注意が必要である.[立川夏夫]
■文献
McBride A, Athanazio DA, et al: Leptospirosis. Curr Opin Infect Dis, 18(5): 376-386, 2005.
Segura ER, Ganoza CA, et al: Clinical spectrum of pulmonary involvement in leptospirosis in a region of endemicity, with quantification of leptospiral burden. Clin Infect Dis, 40(3): 343, 2005.

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六訂版 家庭医学大全科 「レプトスピラ症」の解説

レプトスピラ症(ワイル病)
レプトスピラしょう(ワイルびょう)
Leptospirosis (Weil disease)
(感染症)

どんな感染症か

 ワイル病秋疫(あきやみ)などに代表されるレプトスピラ症は、病原性レプトスピラ感染に起因する動物由来の細菌(スピロヘータ)感染症です。レプトスピラ症は全世界的に流行しており、保菌動物の排尿によって病原体に汚染された環境から経皮的、経口的に感染します。

 重症型であるワイル病の死亡率は5~40%であり、治療開始時期が遅れるほど死亡率は高くなる傾向にあります。軽症型レプトスピラ症の予後は一般に良好です。

症状の現れ方

 レプトスピラ症は急性の発熱性疾患です。臨床症状は軽症のものから、黄疸(おうだん)腎不全などを主な症状とする重症型レプトスピラ症(ワイル病)まで多様です。黄疸、出血、眼結膜の充血、腎障害などの症状を示した場合では、ほかの細菌感染による多臓器不全、ウイルス肝炎などとともにワイル病にも注意が必要です。

 非重症型レプトスピラ症では、あらゆる発熱性の疾患が鑑別対象となりますが、海外の流行地域(東南アジア中南米、インド、中国など)への渡航歴、病原体に汚染された水などとの接触機会があった場合は、レプトスピラ症も疑う必要があります。通常、ヒトからヒトへの感染はありません。

治療の方法

 軽、中度のレプトスピラ症の場合には、ドキシサイクリン(ビブラマイシン)を7日間服用することがすすめられています。ワイル病(重症例)の場合は、ペニシリン系抗生剤(ペニシリンG、サワシリン)による治療が一般的です。

 回帰熱の場合と同様に、レプトスピラ感染症の治療にペニシリン系抗生剤が用いられた場合は、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(抗生剤投与後に起こる、発熱、低血圧を主症状とするショック)がみられることがあります。

最近の流行地域

 近年、東南アジア、中国、インド、オーストラリア、中南米でレプトスピラ症の大流行がありました。またマレーシア、米国で行われたトライアスロン大会でも河川での競技が原因で患者さんが発生しています。海外での流行情報などは国立感染症研究所のホームページで見ることができます。

 2003年にレプトスピラ感染症が感染症法4類に指定され、日本での発生状況が少しずつ明らかになってきました。沖縄県などでは河川でのレジャー、労働により患者さんが発生しています。これら地域の淡水域でのレジャーなどには注意が必要です。

 このほかの推定感染源として、農作業、ネズミとの直接・間接的接触が考えられています。

川端 寛樹

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家庭医学館 「レプトスピラ症」の解説

れぷとすぴらしょう【レプトスピラ症】

 ワイル病(「ワイル病」)以外にもレプトスピラによる感染症(かんせんしょう)があり、総称してレプトスピラ症と呼ばれます。
 レプトスピラという微生物(びせいぶつ)はスピロヘータ(梅毒(ばいどく)をおこす原虫(げんちゅう))の仲間で、たくさんの種類があります。ネズミ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマなどの動物がこの微生物を保有し、尿中に菌を排出(はいしゅつ)しています。
 人への感染は感染動物の尿に直接触れるか、汚染された水や土に接触しておこります。人から人への感染はありません。したがって、動物の尿に直接手で触れたり、水泳の際に、汚染された河川の河口などの水域には近づかないよう注意する必要があります。
 レプトスピラ症のなかでも、ワイル病はもっとも重症の病状をもたらすものですが、ほかのレプトスピラ症は軽症~中等症です。
 レプトスピラ症は世界中に分布し、日本国内でも風土病(ふうどびょう)としてその地方独自の呼び名で呼ばれています。
 治療はいずれも抗生物質が有効です。また、死菌ワクチンの接種(せっしゅ)で予防できます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レプトスピラ症」の意味・わかりやすい解説

レプトスピラ症
レプトスピラしょう
leptospirosis

レプトスピラ (スピロヘータの一種) による流行病。経皮または経口感染で体内に侵入する。黄疸,出血,蛋白尿などをおもな症状とする。ワイル病 (黄疸出血性レプトスピラ病 ) など重症のものから,発熱程度にとどまる軽いものまで,さまざまな臨床病型がある。ノネズミ,野犬が媒体になる。日本で風土病的に発生したものに,(1) 七日熱 (なぬかやみ。福岡県) ,(2) 秋疫 (あきやみ。静岡県) ,(3) 作州熱 (岡山県) ,(4) 波佐見熱 (長崎県) ,(5) アツケ病 (大分県) などがあり (→風土病 ) ,これらを総称して秋季レプトスピラ症という。治療にはストレプトマイシンなどの抗生物質を用いる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「レプトスピラ症」の意味・わかりやすい解説

レプトスピラ症
れぷとすぴらしょう

レプトスピラ病

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