EBM 正しい治療がわかる本 「風疹」の解説
風疹
●おもな症状と経過
風疹(ふうしん)ウイルスによって引きおこされる病気です。バラ色の比較的小さな発疹(ほっしん)(丘疹(きゅうしん))や、リンパ節の腫張(しゅちょう)(腫(は)れること)、微熱などがおもな症状となります。
発疹は顔面・耳後部から現れて全身に広がりますが、3日程度で治ります。症状がはしかに似ていて、かつ3日間で治ることから、俗に「3日ばしか」とも呼ばれます。ただし、病気の原因となるウイルスは、はしかとは別のものです。
潜伏期間は14~21日間ですが、潜伏期の後半から他人にうつす可能性があり、発疹が現われてから5~7日目までは本人が感染源となる危険性があります。
妊娠初期に感染すると、難聴(なんちょう)、白内障(はくないしょう)、心臓病などの先天異常の子どもが生まれる場合があり、この時期の感染には注意が必要です。風疹ワクチンによる感染予防を行うことが重要となります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
感染経路は鼻や咽喉(いんこう)の分泌液(ぶんぴつえき)の飛沫(ひまつ)感染、つまりくしゃみやせきによるものです。感染力は、はしかよりも弱いものですが、大人になってから感染することもあります。
●病気の特徴
およそ5年の周期で、1~6月までの冬から初夏にかけてしばしば流行します。感染しても25~50パーセントの人は症状が表に現れません(不顕性(ふけんせい)感染)。
風疹の抗体をもたない人が妊娠3カ月以内で風疹にかかった場合、先天性風疹症候群(白内障や難聴、先天性心疾患、小頭症(しょうとうしょう)、小眼球症(しょうがんきゅうしょう)などの奇形や、精神遅滞(せいしんちたい)を生じる)の子どもが、20~25パーセントの割合で生まれるとされています。なお、妊娠5カ月を過ぎると、風疹に感染しても先天性風疹症候群の子どもが生まれることはほとんどありません。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]風疹そのものに対する治療ではなく、対症療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] アメリカの医師向けデータベースや教科書では、風疹そのものに対しての治療法は見あたりません。ただし、風疹が原因でおこる、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症状に対して、それらの症状をやわらげる対症療法(たとえば解熱鎮痛薬などを用いる)が有効であるという臨床研究があります。(1)(2)
[治療とケア]予防として風疹ワクチンを接種する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ワクチンを接種することで、妊娠可能年齢の女性の風疹の発生率を減らせるほか、先天性風疹症候群を減らせるという、非常に信頼性の高い臨床研究があります。(3)
よく使われている薬をEBMでチェック
発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などに対して
[薬名]アセトアミノフェン/カロナール(アセトアミノフェン)(1)(2)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 直接、風疹を治す薬ではありませんが、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症状をやわらげる効果があるという臨床研究があります。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
症状を軽くする治療
風疹ウイルス自体を排除ないし抑制する薬は、現在のところ開発されていません。
したがって、治療としては発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などの不快な症状を軽減する目的で行われる対症療法を行うことになります。
たとえば、発熱時には安静にして水分を多く摂取し、必要に応じて解熱薬を使用するといった治療です。
これらは、臨床研究や医学の論理からいって、十分理にかなった治療法と考えられます。
先天性風疹症候群を予防するために
ワクチンの効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されていますから、ワクチン接種を徹底することで、風疹や先天性風疹症候群の発生をゼロにすることが理想的です。
現在、わが国では生後12~90カ月の乳児・幼児を対象に、風疹のワクチン接種が公費によって行われています。
一部の年齢層はワクチン接種率が極端に低い
ただし、これは1995年から始まったもので、それ以前については、ワクチン接種の制度に紆余曲折(うよきょくせつ)がありました。とくに1979年から1987年の間に生まれた人のワクチン接種率は約50パーセント程度と、きわめて低くなっているのが現状です。
抗体の有無は血液検査でわかる
ワクチンを接種した人や一度風疹にかかったことのある人には抗体ができます。抗体の有無は血液検査で調べることができるので、はっきりした記録や記憶のない人は、検査を受けるとよいでしょう。また、ワクチンの接種については、市区町村の予防接種担当課に問い合わせると、医療機関を紹介してくれるはずです。風疹ワクチン接種の副作用はとくに心配いりません。
妊婦はワクチン接種ができない
なお、妊婦にはワクチンの接種が認められていません。したがって、風疹の抗体をもたない人は、妊娠前にワクチンを接種しておくことが大切です。
また、妊娠してから風疹の抗体をもっていないことがわかった人は、出産後、次の妊娠までの間に風疹のワクチンを接種しておくとよいでしょう。
(1)Christine M Hay, MD. Rubella. UpToDate 10.3 https://www.uptodate.com
(2)Anne Gershon. RUBELLA (GERMAN MEASLES). Harrison's Principles of Internal Medicine 15th Ed. McGraw-Hill.
(3)Cheffins T, Chan A, Keane RJ, et al. The impact of rubella immunisation on the incidence of rubella, congenital rubella syndrome and rubella-related terminations of pregnancy in South Australia. Br J ObstetGynaecol. 1998;105:998-1004.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報