けむ

精選版 日本国語大辞典 「けむ」の意味・読み・例文・類語

けむ

〘助動〙 (活用は「◯・◯・けむ・けむ・けめ・◯」。活用語の連用形に付く。平安時代に kemu → kem → ken のようになっている) 過去の推量を表わす助動詞
① 過去の事柄として推量、想像することを表わす。…ただろう。…だったろう。
古事記(712)中・歌謡「この御酒(みき)を 醸(か)み祁牟(ケム)人は その鼓 臼(うす)に立てて 歌ひつつ 醸みけれかも 舞ひつつ 醸みけれかも」
② 過去の事柄について、原因・理由や、時・所・人・手段・方法などの条件を設定して、こうした条件のもとだから、その事柄が成立したのだと推量する。疑問詞を含む場合には、どういう条件のもとで、その事柄が成立したかを推量する意味になる。それで…なのであろう。
万葉(8C後)五・八七二「山の名と言ひ継げとかも佐用姫(さよひめ)がこの山の上(へ)に領布(ひれ)を振り家無(ケム)
源氏(1001‐14頃)葵「御湯まゐれなどさへ扱ひ聞え給ふを、いつならひ給ひけんと人々あはれがり聞ゆ」
③ 過去の事柄を伝聞によって想像することを表わす。連体修飾または体言と同様の資格で用いる場合の用法。…とかいう。…たという。
※万葉(8C後)二・一〇八「吾(あ)を待つと君がぬれ計武(ケム)あしひきの山のしづくにならましものを」
※枕(10C終)六一「布留の滝は、法皇の御覧じにおはしましけんこそめでたけれ」
[語誌](1)語源については、(イ)過去の助動詞「き」の未然形として「け」を認め、それに推量の助動詞「む」の付いたものとする説、(ロ)「来経(きへ)」の融合したものに「む」がついたとする説、(ハ) 推量の助動詞の原形を「あむ」とし、それが過去の助動詞「き」の終止形について母音融合したとする説などがある。
(2)上代には、打消の助動詞「ず」に続く場合、「ずき」と同様に、「ず━けむ」の形で用いられた。「松反りしひにてあれかもさ山田の翁(をぢ)がその日に求めあは受家牟(ズケム)〔万葉‐四〇一四〕」
(3)事実そのものを推量するほか、原因・理由などの推量にも用いられる点は、現在の推量を表わす「らむ」の場合とほぼ同様である。「鷲の即ち噉(く)ひ失ふべきに、生乍ら樔(す)に落しけむ、希有の事也〔今昔‐二六〕」などの例について、「いかに(いかにして)落したのであろう」という推量が、「落とした(という)のは」という伝聞事実の叙述に重なっているとの指摘がある。

け‐む

連語形容詞および形容詞型活用の助動詞の上代における未然形語尾「け」に、推量の助動詞「む」の付いたもの。
※古事記(712)中・歌謡「命の また祁牟(ケム)人は 畳薦(たたみこも) 平群(へぐり)の山の 熊白檮(くまかし)が葉を うずに挿せ その子」

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デジタル大辞泉 「けむ」の意味・読み・例文・類語

けむ[助動]

[助動][(けま)|○|けむ(けん)|けむ(けん)|けめ|○]《過去の助動詞「き」の未然形の古形「け」+推量の助動詞「む」から》活用語の連用形に付く。
過去の事実についての推量を表す。…ただろう。…だったろう。
「この国に跡を垂るべき宿世こそありけめ」〈更級
過去に起こった事実の原因や理由について推量する意を表す。…たのだろう。…だったのだろう。
「時々の花は咲けども何すれそ母とふ花の咲き出来でこけむ」〈・四三二三〉
「み園生そのふ百木ももきの梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ」〈・三九〇六〉
多く下に体言を伴って、過去の事実を他から伝え聞いたこととして表す。…たとかいう。
「顕基の中納言の言ひけん配所の月、罪なくて見んこと、さもおぼえぬべし」〈徒然・五〉
[補説]過去の助動詞の終止形「き」に推量の助動詞の古形「あむ」が付いた「きあむ」の音変化ともいう。主として中世以後は「けん」とも表記。なお、未然形の「けま」は上代に「けまく」の形で用いられた。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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