ムゥタジラ派(読み)むぅたじらは(英語表記)Mu‘tazila

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムゥタジラ派」の意味・わかりやすい解説

ムゥタジラ派
むぅたじらは
Mu‘tazila

イスラム神学一派。ワーシル・イブン・アターとアムル・イブン・ウバイドを創始者とする。彼らは初め、ハサン・バスリーのサークルに属していたが、のちにたもとを分かったので、「離脱者」(ムゥタジル)と名づけられたといわれている。彼ら自身はしばしば「神的正義と唯一性の徒」(アフル・アルアドル・ワ・タウヒード)と自称する。

 自由意志を強調するカダル派の発展である同派は、しだいに精緻(せいち)な思弁的神学の体系を築き上げていった。アッバース朝カリフ、マームーン、ムータシム、ワーシクのときに同派は、公式的教義として認められ最盛期を迎えた。しかし、同派の極端な理知主義は、のちにアシュアリー派の批判にあって勢力を失っていき、13世紀ころにはスンニー派世界から姿を消した。しかし、同派はシーア派神学、とくにザイド派の神学に受け継がれていった。近代において、人間理性と自由意志を強調する同派は、西洋イスラム学者の注目を集め、またムハンマド・アブドゥーなどのイスラム改革主義者によっても再評価されるようになった。

 同派によると、人間は理性を与えられており、それによって善悪を知ることができる。正義の神は善を命じ、悪を禁止しなければならない。人間は自由意志で、善あるいは悪の行為をなし、善行は神が天国でそれを賞し、悪行地獄で罰せられるという。また神の唯一性を強調し、本質とは異なる神的属性(力、知識、生など)の存在を否定した。また同様な考え方から、コーラン永遠性を否定し、神の被造物であると唱えた。

[竹下政孝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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