魚貝毒(読み)ギョカイドク(英語表記)fish and shellfish toxins

デジタル大辞泉 「魚貝毒」の意味・読み・例文・類語

ぎょかい‐どく〔ギヨかひ‐〕【魚貝毒】

魚毒貝毒

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改訂新版 世界大百科事典 「魚貝毒」の意味・わかりやすい解説

魚貝毒 (ぎょかいどく)
fish and shellfish toxins

生鮮魚貝類に含まれる毒成分。魚貝類の自然毒ともいう。有毒種とされる魚貝類でも毒性には個体差が大きく,また,普通は無毒であるが生息水域や季節により有毒化するものがある。最近の研究により,これらの魚貝毒の多くは,プランクトンなどの微小生物が産生した有毒成分を食物連鎖を通じて体内に蓄積したものとの見方が強まっている。食中毒に関連してこれまで研究された主な魚貝毒を次に示す。

日本の動物性自然毒中毒の大半を占め,死亡率も約50%と高い。毒の本体はテトロドトキシンで,15μg/kgの皮下注射でマウスを殺す猛毒である。アルカリ性では不安定であるが,中性ないし弱酸性では加熱してもかなり安定である。フグの種類によって卵巣,肝臓,皮,腸,肉に毒があり,同一種類でも毒性には個体差が認められ,季節によっても変動する。フグ料理は冬のもので,中毒も冬に多発するが,ほとんど家庭でのしろうと料理による事故である。中毒症状は末梢神経の麻痺で,重症の場合は呼吸中枢がおかされ,発病後数分間で死亡することがある。最近,巻貝のバイ,ボウシュウボラのなかにはフグ毒テトロドトキシンをもつものが見いだされている。
フグ

イシナギの肝臓には多量のビタミンAが含まれ,中毒の原因物質と考えられている。食後10時間以内に発症し,強い頭痛,発熱,嘔吐などの症状があり,2日目ころから皮膚がはげ落ちるようになる。マグロ,サメ,サワラなどの肝臓でも同様な中毒が起こることがある。

ハタに近い深海魚で,肉は美味であるが,非常に脂肪含量が高く腹部肉では48%にも達する。食べると肛門から油が染み出るといわれ,下痢が起こるのは異常に多い脂肪(グリセリド)のためと考えられている。

バラムツ,アブラソコムツは深海性の魚で,マグロとともに陸揚げされ,魚市場でもよく見かける。肉はかなり美味で,多量に食べると激しい下痢を起こす。両種の肉には多量のワックス(蠟)が含まれ,これが原因物質と考えられている。アフリカ沖のトロールで漁獲されるクロオオマトウダイの肉にもワックスがあるので,多食しないよう注意する必要がある。

シガテラとは,熱帯および亜熱帯海域の,主としてサンゴ礁の周辺に生息する毒魚によって起こる死亡率の低い食中毒の総称である。シガテラ毒魚としては,バラフエダイ,イッテンフエダイ,ドクウツボ,サザナミハギ,ドクカマス,マダラハタギンガメアジ,ヒラマサ,イトヒキフエダイ,ナンヨウブダイなどが知られている。原因物質には脂溶性のシガトキシンなど数種の毒が存在することがわかってきた。このためその症状は複雑で,嘔吐,下痢などの胃腸障害から,関節痛,頭痛,倦怠感などのほか,フグ中毒に似た口や手足のしびれなどの神経症状まで含まれる。餌となる下等生物がつくった毒を,これらの魚が食べて毒化するらしい。

ウモレオウギガニヒラアシオウギガニスベスベマンジュウガニなどによる中毒で,原因物質はサキシトキシンなどの麻痺性の猛毒である。筋肉と甲殻に毒がある。症状は激しい嘔吐,口や手足のしびれなどで,死亡率も高い。

この肉食性の巻貝の唾液腺にあるテトラミンが原因物質で,中毒症状は頭痛,悪寒,眠気などである。近縁種のエゾボラモドキの唾液腺にもテトラミンがある。

ホタテガイ,アカザラガイ,カキなどが時に有毒化する。これは,餌のプランクトンに有毒物質をつくる種類があり,その毒を中腸腺に蓄積するためである。毒の本体は,サキシトキシンや数種のゴニオトキシンなど麻痺性貝毒と呼ばれる猛毒である。食後30分間から3時間ほどで口や手足に麻痺が起こり,重症の場合は呼吸中枢がおかされ死亡する。

プランクトン起源の毒をムラサキイガイなどが中腸腺に蓄積したものである。最近,この毒の化学構造が明らかにされた。中毒症状は下痢で,嘔吐,腹痛などを伴うこともある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「魚貝毒」の意味・わかりやすい解説

魚貝毒
ぎょかいどく

魚類や貝類など水生動物に存在し、人間や他の動物に有害な物質をいう。魚貝毒には、これを食すると食中毒をおこさせるものと、刺されて体内に入ると激痛、けいれん、麻痺(まひ)を生じさせるものとがある。食中毒をおこす魚貝毒は、魚類からテトロドトキシン、シガトキシン、マイトトキシン、スカリトキシンが知られており、貝類からサキシトキシン、ゴニオトキシン、麻痺性貝毒、下痢性貝毒、スルガトキシン、ネオスルガトキシンが知られている。また、軟体サンゴのイワスナギンチャクの強力な毒素であるパリトキシンも知られている。

 フグ毒はフグ類のみでなく、カリフォルニアイモリ、ドクガエル、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、マキガイ、ヒトデ、カブトガニなどにも含まれるテトロドトキシン(C11H17N3O8)によるもので、マウス腹腔内注射のLD50(半数致死量)は8マイクログラム/キログラムである。水溶性、耐熱性の神経毒で、中毒すると30分以内に口唇(こうしん)、舌端(ぜったん)が麻痺し、ついで中枢神経が冒されて死に至る。熱帯、亜熱帯のサンゴ礁にすむフエダイ、ハタ、ウツボなどのシガテラ毒は、シガトキシン、マイトトキシンなどによるもので、海藻表面に付着した鞭毛(べんもう)藻の一種がこれらの毒をつくり、鞭毛藻を食したマキガイや草食魚、ついで肉食魚と順次毒化していく。中毒すると、低温の物体に触れると痛みを感じ、運動失調や下痢をおこす。この毒による死亡率は低いが、回復は遅い。刺されて体内に入ると障害をおこす刺毒をもつ魚類も多く、背びれ、胸びれまたは尾部の刺棘(しきょく)で毒を注入する。アカエイなどのエイ類、ミノカサゴなどのカサゴ科の魚、オニオコゼ科の魚、ナマズ目のゴンズイなどの毒が被害を与える。刺された場合の一般的な症状は、激しい痛みとはれであるが、重症の場合には吐き気、けいれん、呼吸困難、昏睡(こんすい)などがおこる。これらの毒は、タンパク質の毒だといわれる。その他の魚貝毒には、タコによるチラミンやヒスタミン、イモガイ類の棘(とげ)毒、クラゲ類の刺胞毒などがある。

[望月 篤]

『山崎幹夫・中嶋暉躬・伏谷伸宏著『天然の毒』(1985・講談社)』『橋本周久編『フグ毒研究の最近の進歩』(1988・恒星社厚生閣)』『清水潮著『フグ毒のなぞを追って』(1994・裳華房)』『野口玉雄・村上りつ子著『貝毒の謎――食の安全と安心』(2004・成山堂書店)』『塩見一雄・長島裕二著『海洋動物の毒――フグからイソギンチャクまで』新訂版(2006・成山堂書店)』『野口玉雄著『フグはフグ毒をつくらない』(2010・成山堂書店)』

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