日本大百科全書(ニッポニカ) 「骨格」の意味・わかりやすい解説
骨格
こっかく
体を支え、体形をつくっている器官。ヒトの体内には200余個の骨がいろいろの形式で結合して、体の堅固な基本形となる骨格系をつくっている。骨格系は骨が主体となってこれに軟骨組織が加わり、組み立てられている。本来、骨格はこれに付着した筋(骨格筋)によって動かされる運動作用が主体となるが、そのほか、体の支持、保護、造血作用などがある。すなわち、骨格の動きに伴ってつくられる体の姿勢を維持し支える働きとともに、頭蓋(とうがい)にあっては脳髄、胸郭では肺臓、心臓、骨盤では骨盤内臓というように、それぞれを保護している。造血作用とは、新生児、小児では全身の骨格、成人では胸骨、肋骨(ろっこつ)、大腿骨(だいたいこつ)、腸骨などの骨髄で血液細胞産生が行われていることをいう。
骨格を構成する骨の連結は、その働きのうえからみて可動結合と不動結合とに分かれる。骨の連結一般を広義の関節という場合には、可動結合は狭義の関節、不動結合は縫合と線維性軟骨結合とを含むことになる。可動結合(狭義の関節)では関節をつくる二つの骨面の間に関節腔(くう)という小腔をもっている。縫合は頭蓋骨にみられる鋸歯(きょし)状の骨結合であり、線維性軟骨結合は骨盤の恥骨結合、脊椎(せきつい)骨間の結合にみられ、線維性軟骨が骨間に介在する。
全身の骨格は体幹骨(体軸骨格)と体肢骨(上肢骨と下肢骨)に大別される。体幹骨には体の垂直軸を形成する頭蓋骨、脊柱、胸郭に参加する胸骨、肋骨が含まれる。頭蓋骨は23個の骨からなり、下顎(かがく)骨だけは側頭骨と可動関節をつくり、他はすべて縫合により強固に結合している。舌骨のみは下顎骨の下方で遊離して存在する。頭蓋骨は脳を収容する脳頭蓋(前頭骨1、頭頂骨2、側頭骨2、後頭骨1、蝶形骨(ちょうけいこつ)1、篩骨(しこつ)1)および顔面頭蓋(鼻骨2、上顎骨2、頬骨(きょうこつ)2、下顎骨1、涙骨2、口蓋骨2、下鼻甲介2、鋤骨(じょこつ)1)、ほかに舌骨(1)からなる。脳頭蓋は脳を固定、保護し、顔面頭蓋は顔面形成の基盤となっている。脊柱は躯幹(くかん)の中心軸となるもので、頭蓋を支え、胸腔内臓を保護する肋骨の支点となっている。脊柱は脊椎骨(頸椎(けいつい)7、胸椎12、腰椎5、仙椎5、尾椎3~5)が上下に連結し、正中前額面(一般でいう正面)では垂直、正中矢状(しじょう)面(一般でいう側面)では緩いS状の彎曲(わんきょく)を示す。仙椎と尾椎とはそれぞれ融合して1個の仙骨、尾骨となっている。躯幹の運動は脊柱の屈伸(前後左右)運動と回旋運動によって行われる。胸郭は胸椎、肋骨、肋軟骨、胸骨が連結して籠状(ろうじょう)構造をつくり、肺臓、心臓を中心とする胸腔臓器を収容して、それらの支持、保護の働きをしている。この部位の内・外肋間筋の収縮運動によって胸椎を支点とする肋骨の上下運動がおこり、胸郭の容積が増減して肺の呼吸運動となっていく。肋骨と胸骨とを結合する肋軟骨は硝子(ガラス)軟骨で、上位7対は胸骨と肋骨とを連結するが、これに続く下位3対は上位の肋軟骨と結合することによって胸骨と結合している。第11、12肋骨は胸骨まで届かず、先端は遊離していて、いわゆる浮肋となっている。
上肢骨は上肢帯骨(肩甲骨と鎖骨)と自由上肢骨(上腕骨、前腕骨、手根骨(しゅこんこつ)、中手骨、指骨)からなり、下肢骨は下肢帯骨(寛骨(かんこつ))と自由下肢骨(大腿骨、下腿骨、足根骨(そっこんこつ)、中足骨、指骨)からなる。骨盤は寛骨、仙骨、尾骨で構成され、脊柱を支え、骨盤内臓を収容し、保護、安定させている。
骨格の性差を全体的にみると、男性骨格は女性のそれよりも大きくて重い。男女差のもっとも著明な点は骨盤形成の骨と骨盤全体の形である。年齢的な変化から骨格をみると、新生児の頭は身長の約4分の1であるが、成人では身長の8分の1程度となる。また、新生児の脊柱は全体にわたって後方に弓状となる凸彎であるが、生後3か月ころには頸部前彎、生後1年ころには腰部前彎も生じ、緩やかなS状彎曲となる。胸郭は幼児、小児では丸い樽(たる)状で左右径、前後径がほぼ等しいが、成人ではやや圧平された形状となる。
[嶋井和世]
動物の骨格
動物の体の大きさと形の枠組みを決め、筋肉の付着点となる構造体をいう。表皮や真皮からでき、体の外側を覆うものを外骨格といい、無脊椎動物では、節足動物のキチン質の外層、甲殻類や棘皮(きょくひ)動物のカルシウムに富んだ外層、軟体動物二枚貝類の貝殻などであり、脊椎動物の体表の鱗(うろこ)(ヘビ、トカゲ)や甲(カメ、ワニ、センザンコウ)も一種の外骨格である。これに対し、脊椎動物がもつような、体内にある骨や軟骨でできた骨格を内骨格という。脊椎動物の内骨格は、頭骨‐脊椎骨からなる中軸骨格に四肢の骨が付随したものであるが、その形態は、生活環境との適応を示す変異に富んでいる。一般に内骨格は運動性や成長の面で外骨格よりもはるかに有利である。
無脊椎動物に含まれる有孔虫の殻や海綿の骨片も、体を支持する構造であるから内骨格とよばれることがあるが、筋肉が付着するのではないから定義にはあわない。
[川島誠一郎]