軟骨魚類(読み)なんこつぎょるい(英語表記)cartilaginous fish

精選版 日本国語大辞典 「軟骨魚類」の意味・読み・例文・類語

なんこつ‐ぎょるい【軟骨魚類】

〘名〙 骨格が軟骨でできている原始的な魚類の総称。現生種ではサメ・エイ類ギンザメ類がふくまれる。〔動物小学(1881)〕

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デジタル大辞泉 「軟骨魚類」の意味・読み・例文・類語

なんこつ‐ぎょるい【軟骨魚類】

軟骨魚綱の脊椎動物円口類硬骨魚類とともに広義の魚類を構成する一群。骨格が軟骨からなる。海産種が多く、板鰓ばんさい類(サメエイ類)と全頭類ギンザメ類)に分けられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軟骨魚類」の意味・わかりやすい解説

軟骨魚類
なんこつぎょるい
cartilaginous fish
[学] Chondrichthyes

動物分類学上は脊索(せきさく)動物門Chordata、頭蓋(とうがい)(有頭動物)亜門Craniata、脊椎(せきつい)動物下門Vertebrata、顎口(がっこう)上綱Gnathostomataに属する軟骨魚綱Chondrichthyesを構成する魚類。現生種は真板鰓(しんばんさい)亜綱Euselachii、板鰓下綱Elasmobranchii(板鰓類、サメ・エイ類)と、全頭亜綱(全頭類、ギンザメ類)Holocephaliからなり、約1200種が含まれる。なお、真板鰓亜綱は化石種(化石群)を含んだ体系であるため、現生種のみからなる板鰓下綱を、全頭亜綱に対して板鰓亜綱Elasmobranchiiとする研究者もいる。形態上は古生代の魚類の特徴の多くを備えるため、硬骨魚類より原始的なグループと考えられたこともある。しかし、軟骨魚類にはいくつかの著しく特殊化した特徴があり、現在では両者は別個に独自の進化をしたものと考えられている。

 内部骨格が軟骨からなること、頭蓋骨が一続きの軟骨の箱で、多くの骨でできていないこと、歯が何層にも並び、一部の作用歯が損傷すると内層の歯がすべて作用歯になって入れ換わること、普通、鰓孔(さいこう)が数対(つい)あること、各鰭条(きじょう)が角質鰭条で、分節しないこと、うきぶくろまたは肺がないこと、鱗(うろこ)は退化したものを除くと歯と同じ構造の楯鱗(じゅんりん)であること、腸の内面に螺旋(らせん)弁があり、後端に直腸腺(せん)が発達すること、尾びれは異尾であること、雄には腹びれ内縁に大きな交尾器があり体内受精をすること、などが特徴である。板鰓類は各鰓裂が別々に体表に開き、脊索が椎体ごとにくびれるのに対して、全頭類では各鰓裂が共通の1鰓孔によって体表に開き、脊索が終生円筒状であることで異なる。

 軟骨魚類は普通は交尾をして体内受精をする。生殖方法は卵殻に包まれた卵を産む卵生と、胎仔(たいし)を産む胎生(従来、卵胎生といわれていたものを含む)がある。日本の魚類研究者の仲谷一宏(なかやかずひろ)(1945― )による2016年(平成28)の定義、および仲谷ほかによる2020年(令和2)の定義によると、卵生には3様式がある。

(1)短期型単卵生 左右の輸卵管に1個ずつ卵殻卵をもち、すぐに産卵する(トラザメやネコザメなど)。

(2)保持型単卵生 左右の輸卵管に1個ずつ卵殻卵をもち、胎仔が一定の大きさになるまで保持してから産卵する(ナヌカザメ属のサラワクナヌカザメCephaloscyllium sarawakensis)。

(3)複卵生 左右の輸卵管に数個の卵殻卵をもち、順次産卵する(ナガサキトラザメ属、ヤモリザメ属の一部など)。

 卵殻の形は、螺旋形(ネコザメ)のものや、長方形で四隅に巻きひげ(トラザメ、ナヌカザメ)や棘(とげ)(大部分のガンギエイ科)をもつものから何ももたないもの(トラフザメ)までさまざまである。卵殻の付属物は海藻や岩などに卵を固定するのに役だつ。

 同様の定義によると、胎生には5様式がある。

(1)卵黄依存型 自身の卵黄だけで成長する(アブラツノザメなど)。

(2)粘液組織栄養型 子宮から分泌される粘液物質を吸収する(ホシザメなど)。

(3)子宮ミルク型 子宮壁から分泌される脂質栄養物(子宮ミルク)を吸収する(妊娠初期のホホジロザメアカエイ、トビエイ類など)。

(4)食卵型 子宮に補給される無精卵を食べて成長する(ネズミザメ目、チヒロザメなど)。

(5)胎盤型 臍(へそ)の緒(臍帯(さいたい))で胎盤とつながる(メジロザメ科、シュモクザメ科など)。

 軟骨魚類には、最大体長がもっとも小さい30センチメートル前後のツラナガコビトザメ属から、全長が18メートルにも達する大形のジンベエザメやそれに次いで大形のウバザメなどがいる。これらの大形種はプランクトンを主食にするが、多くの種が肉食性で、魚類、ウミガメ、海獣、軟体類、甲殻類などを、1週間に平均して体重の3~14%ほど食べる。

 いくつかのサメ類は人間を攻撃することがある。被害の多い順にホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメCarcharhinus leucas、オオセ類、シロワニ、カマストガリザメC. limbatus、アオザメ類、シュモクザメ類、ハナザメC. brevipinna、クロヘリメジロザメC. brachyurus、ヨシキリザメ、ツマグロC. melanopterus、ヨゴレ、コモリザメGinglymostoma cirratum、ニシレモンザメNegaprion brevirostrisなどである。とくに前3種のホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメは突出して多い。ギンザメ類の背びれの棘や輸卵管には毒があることが知られている。

[落合 明・尼岡邦夫 2021年7月16日]

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改訂新版 世界大百科事典 「軟骨魚類」の意味・わかりやすい解説

軟骨魚類 (なんこつぎょるい)
cartilaginous fish

脊椎動物門軟骨魚綱Chondrichthyesに属する魚類の総称。内部骨格が軟骨性なのでこの名がある。板鰓(ばんさい)亜綱(サメエイ類)と全頭(ぜんとう)亜綱(ギンザメ類)よりなる。板鰓亜綱に800~850種,全頭亜綱には約35種,合計850種ほどが世界の熱帯から寒帯にかけての広い範囲にわたり生息し,日本近海には160~170種ほどが分布する。大部分は海洋で一生を終えるが,一部は淡水で終生,あるいは生活史の一部を過ごす。水深数十cmの浅海から数千mの深海域まで生息水深もさまざまであるが,多くは沿岸域から大陸斜面にかけて生息する。また,ほとんど移動せずに底層域で生活するもの(ガンギエイ類)から外洋域を広く回遊するもの(ネズミザメ類など)生活圏もさまざまである。大きさも,全身約15cmで成熟する種類(ツラナガコビトザメ)から18mにもなり魚類中最大のジンベイザメまでいるが,ふつうはサメ類は全長3m以下,エイ類は1m以下である。

 軟骨魚類の一般的な特徴は以下のとおりである。口は一般に頭部下面にある。歯は両あごにあり予備の歯が口蓋の内側に数列から10列ほど並ぶ。使用する歯は1~2列だったり(多くのサメ類),数列が敷石状に並んだり(ホシザメ類やエイ類),歯が癒合して歯板(しばん)を形成(ギンザメ類)したりする。眼はよく発達し,眼を保護する瞬皺(しゆんしゆう)(トラザメ類)や瞬膜(メジロザメ類)をそなえるものもいる。鼻孔は1対で多くの種類では口の前方に開いており,ときには口と鼻をつなぐ鼻口溝(びこうこう)を有する(テンジクザメ類やアカエイ類)場合もある。えらは櫛(くし)状で,板鰓類では片鰓(へんさい),全頭類では全鰓となる。少なくとも胚期には噴水孔がある。また多くの種類では成体でも楯鱗(じゆんりん)があるが,ない場合(ギンザメ類)でも胚期にはある。雄には腹びれの一部が変化して生じた交尾器がある。内部骨格は軟骨性で頭蓋骨は縫目のない一つの箱のようになっている。多くは脊柱を有するが,これを欠く場合(ギンザメ類)は脊索は円筒状となる。胃や腸はよく発達し腸には吸収面積を大きくするらせん弁があり,直腸には塩類の排泄に関係する直腸腺がある。肝臓は大きく,ときには体重の25%を超えることがある。膵臓と脾臓はよく発達する。うきぶくろはない。心臓には一般によく発達した心臓球がある。多くは卵胎生であるが,卵生(ガンギエイ類,ギンザメ類,サメ類の一部)や胎生(メジロザメ類やシュモクザメ類)の場合もある。いずれも受精は体内で行われる。多くは食物連鎖の頂点に立つが,巨体になる種類は動物プランクトンや小魚などを食べる。一般に成長は遅く,性的成熟に達する年齢も高いが,寿命は長いものが多い。漁業の対象となる種類もあるが,多くはまだ利用に供されていない。
執筆者:

板鰓類はデボン紀に現れ現在に至っている。もっとも原始的なものにクラドセラケCladoselache,クラドーダスCladodus,クセナカンタスXenacanthusなどがあるが,ごく一部を除き,これらは古生代の終りまでに絶滅した。全頭類は石炭紀に現れて繁栄した一群で,現在に至っている。北アメリカの石炭系から報告されているイニオプテリクスIniopterycusは板鰓類と類似の歯をもっており,板鰓類と全頭類の中間的なものと考えられている。板鰓類と全頭類は古生代ですでに別々なグループに分化し,現代では類縁関係も遠いと考えられている。
魚類 →全頭類 →板鰓類
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軟骨魚類」の意味・わかりやすい解説

軟骨魚類
なんこつぎょるい
cartilaginous fishes

軟骨魚綱 Chondrichthyesに属する魚の総称。サメ類エイ類などに代表される。現生のものは板鰓亜綱 Elsmobranchii(→板鰓類)と全頭亜綱 Holocephaliに分けられる。骨格は軟骨で,体表には楯鱗をもつ。魚類中ではやや原始性を残しているものと考えられている。

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百科事典マイペディア 「軟骨魚類」の意味・わかりやすい解説

軟骨魚類【なんこつぎょるい】

軟骨性の骨格をもつ魚類の総称。サメ,エイ,ギンザメの仲間を含む。世界に800種ほどが生息し,日本近海には160〜170種分布する。
→関連項目硬骨魚類

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栄養・生化学辞典 「軟骨魚類」の解説

軟骨魚類

 軟骨魚綱をいう.サメ,エイなど,骨格が通常軟骨性の魚の一分類.

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世界大百科事典(旧版)内の軟骨魚類の言及

【骨格】より

…すなわち脊索はすべての種類において,発生の初期に現れ,ホヤとナメクジウオとではこれが終生骨格としてとどまるが,魚類以上の動物ではあとから軟骨性の柔軟な骨格が発生して脊索に代わる。サメやエイのような軟骨魚類ではこの軟骨性の骨格は終生存続するが,硬骨魚類以上の脊椎動物では発生が進むとともに軟骨の大部分が骨性の組織で置き換えられる。それにさらに結合組織の一部も骨化して骨格が充実し,複雑化する。…

【脊椎動物】より

…残りのものはすべてあごと対鰭(または四肢)を獲得した顎口類Gnathostomataに属し,オルドビス紀中期に無顎類から分かれたと推定されている。この類で最古のものはシルル紀後期に現れ二畳紀まで栄えた板皮類(綱)Placodermiで,これから最初に分かれた(オルドビス紀後期)のが軟骨魚類Chondrichthyesと推定されているが,これの化石は,やはり板皮綱から分かれデボン紀前期に現れた硬骨魚類Osteichthyesよりも後のデボン紀中期にならないと姿を見せない。硬骨を獲得した硬骨魚綱の中の総鰭類(亜綱)Crossopterygiiから分かれ,四肢と肺を獲得した両生類Amphibiaはデボン紀から石炭紀への移行期,両生綱から分かれ羊膜を獲得した爬虫類Reptiliaは石炭紀後期,爬虫類の祖竜亜綱Archosauriaから分かれ羽毛を獲得した鳥類Avesはジュラ紀前期,同じく爬虫綱の単弓亜綱Synapsidaから分かれ毛と乳腺および3個の中耳小骨を獲得した哺乳類Mammaliaは三畳紀後期に現れている。…

※「軟骨魚類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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