顎・腭・頤(読み)あご

精選版 日本国語大辞典 「顎・腭・頤」の意味・読み・例文・類語

あご【顎・腭・頤】

〘名〙
① 人をはじめとする脊椎(せきつい)動物の口を構成する顎骨(がっこつ)を中心とする部分。また、無脊椎動物の一部の群の口部にある特別の構造物をいう。
(イ) 上あごと下あご。あぎ。あぎと。
※三河物語(1626頃)一「彌三郎は、うはをびを、(をとがい)寄頂(かしら)ゑ懸け、からげてふせば、明ければ、アゴがするがると云」
(ロ) 下あご。特に、その外面をいう。おとがい。きぼね。
※和英語林集成(初版)(1867)「Ago(アゴ) ガ ハズレル」
(ハ) 魚のえら
※色葉字類抄(1177‐81)「鰓 蘇来反、魚頬 アゴ 又 アギト」
② (あごが食物をかみくだく役目を持つところから)
(イ) 食事。食料。のち、盗人仲間の隠語
※雑俳・柳多留‐一〇(1775)「あごの無い寄合不参だらけなり」
※人情本・貞操婦女八賢誌(1834‐48頃)五「酒価(さかて)位で取られちゃア、這方(こっち)の腮(アゴ)が養はれぬ」
(ロ) 飲食の費用。食費。また、食費その他の雑費。江戸深川の岡場所などで用いられた語。
※洒落本・古契三娼(1787)「地めへの子どもは、十二もんめのうちを、茶屋へ六もんめとられて、子ども屋へ腮(アゴ)を〈あごとはざう用の事なり〉三百二十四文とられやす」
(ハ) 食い扶持。または広く扶持。
※雑俳・柳多留‐二〇(1785)「五人のあごをおめかけはねだるなり」
(ニ) 宿泊費。芝居者の通言として用いられた語。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「アゴ、はたご
③ (物を言う時、あごを動かすところから) おしゃべり。物の言いぶり。いいぐさ。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)五「『たはごとぬかすとひっぱたくぞ』『ゑらいあごぢゃな』」
④ (そのあごを魚屋または客商売の家の料理場の軒に吊り下げてあるところから) 魚「あんこう(鮟鱇)」の異名
※雑俳・柳多留‐一二(1777)「あご斗(ばかり)軒に残ると人は散り」
⑤ =あぐ(鐖)〔改正増補和英語林集成(1886)〕
[語誌](1)人の顎をいうアゴは近世前期一七世紀ごろから文献に現われるが、それより少し前に成立した「かた言‐四」にはアゲが見える。古代から存在したアギからアゲが生じ、さらにこの時期にアゴに変化したものであろう。
(2)中世には、魚のえらを指すアゴ(本項①(ハ))があり、さらに中世末には鳥の蹴爪を表わすアゴエがアゴ(距)に変化していた。ことに後者は「あごをさす」(蹴爪を打ち込む、比喩的には他人の言うことに口をはさむの意)という顎を連想させる言い方が生まれていた。したがって、このようなアゴからの連想が顎のアゴを成立させる一因となった可能性が考えられる。→あぎ(腭)あご(距)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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