家庭医学館 「野兎病(大原病)」の解説
やとびょうおおはらびょう【野兎病(大原病) Tularemia】
野兎病菌という細菌の感染によっておこる人獣共通の感染症です。
元来は、ウサギやリスの間に流行する病気で、この病気にかかっているノウサギを捕らえて皮をはいだり、調理をしたときに、手の傷や目の粘膜(ねんまく)から菌が侵入すると、人に感染します。ダニに刺されたり、ダニをつぶしたりしても感染します。人から人へ直接に伝染はしません。
アメリカでは、致命率が3%といわれています。
日本では、東北、関東、甲信越のノウサギがこの病気をもっていることが多く、農業や猟をする人がかかることがありますが、死亡する人はほとんどありません。
[症状]
感染して2~5日後、寒けとともに、38~40℃に発熱し、頭痛、関節痛、嘔吐(おうと)などがおこります。これ以後の症状は、菌の侵入部位によってちがいます。
①この病気の約80%は、皮膚の傷から菌が侵入します。
菌の侵入部位(多くは指や手)に赤い発疹(ほっしん)ができて痛み、化膿(かのう)し、潰瘍(かいよう)になります。
肘(ひじ)やわきの下のリンパ節(せつ)が鶏卵大に腫(は)れ、夕方になると発熱する状態が2~3週間続き、衰弱(すいじゃく)します。腫れたリンパ節が破れて膿(うみ)が出ると、治りにくい孔(あな)が残ります。
②目の粘膜(ねんまく)から菌が入ると、目の組織や粘膜に炎症がおこり、痛み、むくみ、流涙(りゅうるい)などが生じ、頭部や頸部(けいぶ)のリンパ節が腫れて化膿します。
③菌を吸入すると、胸痛(きょうつう)、せき、たんなど、肺炎のような症状になります。他の病型から移行することもあります。
④主症状が熱だけのもの、消化管に病変を生じ、嘔吐(おうと)、下痢(げり)、腹痛などを生じるものも、まれにあります。
以上、どのケースも、最初の2~3日の高熱の後、中等度の熱が10~30日続き、抗生物質療法を受けないと長びきます。
[治療]
ストレプトマイシン、テトラサイクリンなどの抗生物質がよく効きます。早く治療を受ければリンパ節を切らずに治りますが、リンパ節の腫れがひかない場合は、切開による膿の排出(はいしゅつ)やリンパ節の手術が必要になります。
[予防]
流行地のノウサギ、ことに弱ったり、死んだりしたものには触れないようにします。触れたときは石けんなどで手をよく洗います。皮をはいだり調理した器具はよく煮沸(しゃふつ)消毒し、疑わしい肉は食べないか、よく煮て食べるようにします。