化膿(読み)カノウ

デジタル大辞泉 「化膿」の意味・読み・例文・類語

か‐のう〔クワ‐〕【化×膿】

[名](スル)むこと。傷口などから化膿菌が侵入して炎症を起こした状態。「手術後の傷口が化膿する」「化膿止め」
[類語]膿む

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精選版 日本国語大辞典 「化膿」の意味・読み・例文・類語

か‐のう クヮ‥【化膿】

〘名〙 化膿菌が感染して多量の白血球滲出(しんしゅつ)を伴う炎症を起こし、局所に膿を生ずること。化膿症。
厚生新編(1811‐45頃)「腫瘍の於液を収斂して消散せしめず化膿を促して」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「化膿」の意味・わかりやすい解説

化膿
かのう

炎症の一種である化膿性炎のことをいう。炎症の場合、血管から血液の液体成分あるいは細胞成分が血管外へ移動する現象を滲出(しんしゅつ)といい、滲出現象が著明な炎症を滲出性炎症とよび、滲出物の性状や種類によって、漿液(しょうえき)性炎、線維素性炎、化膿性炎、出血性炎、壊疽(えそ)性炎などに分類されている。化膿性炎は、血液の細胞成分である白血球のうち、細胞質に顆粒(かりゅう)を有している顆粒球の一種である好中球の滲出が著明であることを特徴としている。

 血液に含まれている細胞成分、つまり血球の種類を検査するもっとも普遍的な方法は、耳たぶ、あるいは指先から採取した僅量(きんりょう)の血液をスライドグラスに塗抹(とまつ)し、ギムザGiemsa液で染色、鏡検する方法である。このギムザ液の酸性赤色色素エオジンにも、塩基性青色色素メチレンブルーにも染まりにくい顆粒をもつ白血球を中性好性白血球、すなわち好中球という。好中球は棍棒(こんぼう)状、あるいはそれが数個に分節、分葉した核をもっており、桿状(かんじょう)球と分核球(分葉球)とに分類される。好中球は遊走、貪食(どんしょく)、殺菌の機能が著明であり、炎症性反応および感染防御に重要な役割を果たしている。

 炎症の際の滲出現象とは、その局所の血管において、血液を透過させる性質が高まることであり、白血球は、血流の増加、緩徐につれて血管の辺縁を流れるようになり、血管内皮に付着し、アメーバ運動によって、血管内皮細胞間のすきまから血管外に遊出する。遊出した白血球は、細菌などの炎症起因因子に向かって遊走していく(この現象を走化性とよぶ)。一方、細菌は、遊走してきた白血球の細胞膜に接着し、白血球内、とくに好中球内に取り込まれ、すなわち貪食され、さらに貪食された細菌は殺され、消化される。なお、好中球の走化性には、補体、血清タンパクなどが関係し、遊走因子とよばれている。

 白血球が血管外に遊出、遊走する現象は浸潤ともよばれており、ブドウ球菌連鎖球菌肺炎球菌、淋(りん)菌、大腸菌などの感染による化膿性炎では、好中球の浸潤を特徴とし、滲出液を膿という。

 化膿性炎は好中球の浸潤状態により、蜂巣(ほうそう)織炎と膿瘍(のうよう)に分類される。つまり、化膿性炎の病巣臓器、組織内にびまん性に広がっているものを蜂巣織蜂窩(ほうか)織)炎といい、限局して中心に膿を充満しているものを膿瘍とよぶ。また副鼻腔(びくう)などの腔の内面に化膿性炎がおこり、膿が腔内に存する場合を蓄膿症という。蜂巣織炎は皮膚におこる(丹毒)ほか、虫垂(ちゅうすい)、胆嚢(たんのう)、筋肉などにみられ、膿瘍は肺、肝、脳、腎(じん)などにおこる。化膿をおこす細菌による感染症の場合、血液中の白血球数は増加し、白血球増多症とよばれる。反対に好中球が高度に減少する無顆粒球症という疾患では、しばしば重篤な感染症をおこしやすい。

[渡辺 裕]

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改訂新版 世界大百科事典 「化膿」の意味・わかりやすい解説

化膿 (かのう)
suppuration

炎症の過程に伴う現象の一つ。組織の損傷部に多量の好中球が集まり,組織の融解が起こり,局所に濃厚な液を貯留することをいう。この濃厚な滲出液を膿(うみ)といい,その内容は,多量の白血球,生菌や死菌,繊維素,液性成分,細菌,組織や白血球の崩壊産物,それに由来するコレステロール,レシチンなどの脂質,多量のDNAから成る。化膿の原因は細菌感染が最も多いが,白血球の走化をひき起こすような化学物質によっても無菌的な化膿が起こる。一般に,細菌が組織に定着し増殖を始めて,局所に炎症が起こると,毛細血管が充血,拡張し,血管の透過性が増す。同時に,組織から放出される白血球走化因子や,細菌の酵素によってできる強力な走化性をもつ補体分解産物の作用によって,多量の白血球が血管から遊出する。白血球は,食菌作用を示して細菌を貪食し,膿球と呼ばれる脂質に富んだ細胞となる。細菌や白血球の出すタンパク質分解酵素によって壊死に陥った組織のタンパク質融解が起こって液化が進み,化膿という状態になる。化膿は種々の細菌によって起こるが,代表的な菌は黄色ブドウ球菌と化膿性連鎖球菌である。おのおのの菌の出す酵素の違いによって,前者は局所に限局して膿瘍をつくりやすいのに比べて,後者は周りにひろがって蜂巣(ほうそう)炎をつくる傾向がある。細菌の種類によって,膿の性状も異なる。ブドウ球菌によるものは黄色粘稠で臭気は少ない。連鎖球菌では色薄く,ときに溶血を起こして血色調をおびる。肺炎球菌では,淡黄緑色で粘稠性が強い。緑膿菌では,青臭い臭気があり,空気にふれた部分は緑色を呈する。チフス菌では汚い黄褐色である。一般に,化膿巣は,一つの細菌による単独感染ではなく,嫌気性菌,好気性菌による混合感染であることが多い。化膿を起こす化学物質には,テレビン油のような刺激性物質,フォルミルメチオニルペプチドのような起炎性ペプチドがある。化膿巣はしだいに肉芽組織によって被包され繊維化される。菌力が弱ければ細菌の増殖は止まり,やがて吸収されるが,強い菌力をもつ細菌により繊維化被包された膿瘍では,抗生物質の有効濃度が十分に上がらないために,中の細菌は治療に抵抗し,切開排膿を必要とすることがある。
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百科事典マイペディア 「化膿」の意味・わかりやすい解説

化膿【かのう】

浸出性炎症の中で,組織の損傷部に多数の白血球が混じた,黄色不透明な浸出液,(うみ)を生じる過程。この場合,白血球はほとんど好中球(中性好性白血球)である。化膿はブドウ球菌,連鎖球菌などの感染によることが最も多いが,白血球の走化を引き起こす起炎性ペプチドやテレビン油などの化学物質によることもある。好中球には食菌作用があり,完全に食菌すれば化膿は起こらない。しかし菌の毒力が強くて十分食菌できないか,食菌しても消化できないと,好中球は破壊,融解してしまう。化膿はしだいに肉芽組織によって包みこまれ,繊維化する。菌力が弱ければ細菌の増殖は止まり,やがて吸収されるが,菌力が強い場合は切開排膿が必要となる。化膿が比較的限局されているものを膿瘍,皮下や粘膜下に広がる場合を蜂窩織(ほうかしき)炎という。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「化膿」の意味・わかりやすい解説

化膿
かのう
suppuration

炎症の際,血液中から好中性白血球が滲出し,これが変性して,黄色の滲出液 (膿) となるものを化膿という。化膿は,ブドウ球菌やレンサ球菌などの細菌によって起ることが多いが,毒物や薬物によることもある (無菌的化膿) 。膿が体腔にたまる蓄膿症,組織を融解した腔内にたまる膿瘍,組織内にびまん性に広がる蜂窩織炎,粘膜にみられる膿性カタルなどは,いずれも化膿に属する病変である。

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栄養・生化学辞典 「化膿」の解説

化膿

 膿ができること.炎症を起こした部位に血漿の浸出液や細胞の消化物等が集積してできる.

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