運賃
うんちん
fare
freight
rate
tariff
交通サービスの提供者と利用者との運送契約に基づき、運送の対価として支払われるもの。一般的にサービスの対価は「価格」とよばれるが、それが交通サービスにおいては「運賃」とよばれるにすぎず、両者の間には本質的な違いはない。
しかし、「運賃」と「料金」には明確な違いがあるとされる。運賃は輸送に対する基本的な対価であり、運賃の支払いがなければ交通サービスは利用できない。一方、料金は基本的な交通サービスに付随するサービスへの対価と理解される。たとえば、列車の特急料金、座席指定料金、寝台料金などがこれに該当する。したがって、特急料金の支払いをしても、運賃を支払わないときは交通サービスを利用することはできない。以上の整理から、特急料金は特急運賃とはよばれないし、タクシー料金は厳密にはタクシー運賃とするのが正しい。
従来、旅客運賃は総括原価主義に基づいて決定されていた。これは適正な原価に適正な利潤を加えた総括原価に等しく運賃を設定する方式である。そして運賃水準決定のために、正味の資産価値に公正報酬率をかけ、それを適正な利潤として費用に加えるという公正報酬率規制が、多くの場合に適用されていた。しかし、この方法は企業の経営努力を刺激しないという問題点などがあり、その後運賃規制は緩和され、現在では総括原価主義の考え方は後退している。
運賃は、いわゆる公共料金の一つとされ、国民生活に直結するものとして、その値上げや値下げについては世間の注目が高い。また運賃体系や運賃水準の変更はマクロ経済的にも大きな影響を与えるために、その決定については政府からの介入を受けることがある。逆にいえば、その影響力の大きさから、以前の国鉄運賃改定における国会の紛糾(国鉄運賃の決定には当時国会の議決を必要とした)など、運賃が政争の具とされることも多い。
1990年代以降の交通サービスの規制緩和によって、運賃に関する規制も緩和された。たとえば、総括原価に厳密に基づいていた運賃は上限運賃制に移行し(鉄道、乗合バス)、幅運賃制が撤廃された(航空)。しかし、多くの場合、国土交通大臣が運賃を変更できるという留保条件がついているのが一般的である。
[竹内健蔵]
『斎藤峻彦著『交通市場政策の構造』(1991・中央経済社)』▽『山内弘隆・竹内健蔵著『交通経済学』(2002・有斐閣)』
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運賃
うんちん
fare; freight
運送の用役に対して荷主なり旅客が運送業者に対して支払う対価。旅客と貨物の相違,運送距離,運送対象の重量,容量,速度など交通サービスの生産費用に基づいて形成されるほか,顧客の運賃負担力によっても決定される。距離比例制運賃,遠距離逓減制運賃,均一運賃,地帯運賃,区間運賃などの種類がある。なお,日本の JRでは運賃は寝台料金,特急料金などの「料金」とは区別され,運送の対価を運賃,サービスの対価を料金としているが,グリーン料金が1等運賃と実質上同じであるように,両者の区別は明確ではない。運賃,料金は公共料金の一種として政府,公共団体などの規制を受ける。なお鉄道運賃などには営業割引制度があり,往復割引をはじめさまざまの割引切符が売出されている。 (→航空運賃 )
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うん‐ちん【運賃】
〘名〙 (古くは「うんぢん」) 運送料金。貨物や旅客などの運送に対して支払われる報酬。
※三代実録‐貞観一八年(876)三月九日「運賃并雑用

穀穎三万四千五十束」
※日葡辞書(1603‐04)「Vnginuo(ウンヂンヲ) ナス」
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デジタル大辞泉
「運賃」の意味・読み・例文・類語
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うんちん【運賃】
交通あるいは交通サービスとは,特定の輸送対象(貨物あるいは旅客)を特定の方向と距離に限って特定水準の速度でもって場所的に移動させる行為を意味し,今日,この意味における交通サービスの対価が運賃と称される。一般にある特定の交通機関が交通サービスを生産するとき,通路way,運搬具vehicleおよび動力motive powerの三つの要素(交通機関の3要素)を用いて生産する。しかしときにはなんらかの社会的ないし経済的理由により,これら3要素のうち通路のみのサービスを提供する場合,あるいは運搬具と動力のみを用いて,いわゆる狭義の交通サービスを提供する場合がみられる。
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世界大百科事典内の運賃の言及
【交通】より
…しかし市場が拡大し,輸送量が増加するにつれ,輸送を専門とする業者が現れるようになった。18世紀イギリスでは,輸送業者として営業を始める者に公共運送人(コモン・キャリアcommon carrier)としての責任を負わせ,運送を依頼されたなら理由なく断ってはならないこと,依頼者によって不当な差別をしないこと,合理的な運賃で運ぶこと,安全な輸送をすることなどを義務づけた。こうした規制によって,コモン・キャリアは公衆のために共同利用が可能な輸送機関となった。…
【交通政策】より
…(1)は市場の失敗であり,このような理由の場合,政府は(a)鉄道がその典型であるが,費用逓減の現象が存在し,自然的独占のケースであるから自由競争は資源の浪費をもたらすこと,(b)騒音,排気ガス,振動等の公害による外部不経済が存在すること,(c)交通施設に対する投資は完了までに長い年月を要するので将来についての不確実性が大きいこと――を考慮しながら,資源配分の適正化をはかるために直接市場を規制する必要がある。(2)の理由の場合,たとえば交通需要が著しく小さいために運賃収入で費用を償うことができないような地域では,公共交通機関は経営が成り立たないので交通サービスを提供しなくなる。したがって自家用車を利用できない住民の足を確保するために,政府が補助政策を行う必要がある。…
※「運賃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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