航空運賃(読み)こうくううんちん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「航空運賃」の意味・わかりやすい解説

航空運賃
こうくううんちん

旅客貨物航空輸送サービスに対して利用者が運送人に支払う対価をいう。1990年代に国際的な規制緩和が進んだ結果、2000年(平成12)4月以降日本の航空運賃・料金は完全に自由化されているが、かつては国際線、国内線とも、定期旅客・貨物運賃は政府認可を受けなければならなかった。また、国際運賃は、国際線を運航する会社で組織する国際航空運送協会IATAイアタ)の運送会議で、座席利用率や重量利用率、需給、コストなどが計算されたうえ利潤がプラスされて決められていた。当時は、世界を3地区に分け(第1地区=南北アメリカ、第2地区=ヨーロッパ・中近東アフリカ、第3地区=アジア・オセアニア)、その地域内の加盟航空会社の満場一致で決められ、各国の独占禁止法の適用除外になっていた。その結果、これに拘束されないNON‐IATA航空会社、チャーター航空会社と定期航空会社との間に運賃競争が生じた。一方、国内運賃は、航空法(昭和27年法律231号)第105条により運輸大臣(当時)の認可を受ける必要があったが、2000年の航空法改正により、事前届出制となった。

 運賃の種類は旅客・貨物とも普通運賃と特別運賃(割引運賃)がある。国際旅客普通運賃は、サービス条件によりファースト・クラス、ビジネス・クラス、エコノミー・クラスの3種類があり、予約や搭乗に関する制限はない。特別運賃には一定の利用が困難な路線に対する販売促進特別割引と政策特別割引がある。前者は季節、旅行形態、予約条件などを考慮した需要開拓、空席活用のため回遊運賃やIT(inclusive tour包括旅行。ホテル代などの経費が含まれたツアー)運賃などの割引運賃を設定し販売している。とくにジャンボ機の就航時(1970)に導入したバルク運賃bulk fare(団体運賃)により、団体客に対する大幅割引がなされたため海外旅行需要が急増した。後者には小児運賃、学生割引運賃、船員割引運賃など身分条件によるものや、社会的な要請による身体障害者割引運賃などがある。また、運賃以外の料金として、国際線では通貨の調整割増料金、超過手荷物料金、燃油サーチャージが付加されている。路線会社四半期ごとに金額が変わる。

 自由化後の国内線旅客運賃は、多くの割引運賃が設定されており、利用目的、年齢、時期、時間帯、予約方法などにより多彩な割引運賃を選択できる。

[松下正弘]

『日本航空協会編・刊『改訂版 航空輸送概論』(1980)』

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改訂新版 世界大百科事典 「航空運賃」の意味・わかりやすい解説

航空運賃 (こうくううんちん)

航空機による人や貨物の運送の対価として,旅客や荷主が運送人(航空会社)に支払う金銭。航空旅客運賃と航空貨物運賃とに分かれる。航空運賃の水準決定には,原則として市場での需給関係が影響を与える。とくに航空輸送の場合はジェット化,大型化といった技術革新が運賃の動向を左右する。

 国際線定期の航空旅客運賃はIATA(イアタ)運送会議の同意を得て決定されるが,最近はIATAを脱退して独自の運賃を定める会社も多い。決定された運賃は加盟航空会社の属する国家(政府)の承認を必要とする。なお,IATAでの運賃決定は各航空会社提出の路線別輸送原価,運賃負担力,路線需要,不定期航空企業等の競争機関の動向を考慮して決定される。国内線の場合,日本では最終的には運輸大臣の認可が必要となる。現行の運賃制度を国際線についてみると,ファースト・クラス,エコノミー・クラス,特別エコノミー・クラスの普通運賃と各種の特別運賃に分けられる。後者のなかでも回遊運賃,バルク運賃(航空会社が旅行業者に一定数の座席をまとめて安く販売する運賃),GIT運賃(航空運賃のほか,バス,汽車,ホテルなどの料金を含んだ運賃),アペックス運賃(前売往復予約運賃)等,団体,個人を問わず観光旅行市場の開発を目的とした大型割引運賃の設定は,全世界的な観光需要の増大に役立った。

 航空貨物運賃は空港間の貨物の輸送に対し運送人に支払われる対価で,国際定期航空貨物の運賃はIATAの運送会議で一般貨物,特定大口割引貨物,および特殊貨物等に大別され,賃率が決められる。賃率は1kg当りドル建てで,旅客運賃の場合と同様,運送原価,貨物の種類,容積,重量,輸送距離等を考慮してシティ・ペアで定められる。大口割引については適用品目,仕向地,経由路線最低重量などが特定される。国内航空貨物についても重量段階別にkg単位で国際航空貨物と同じ要素を考慮して決定される。日本では,実際の賃率決定にあたっては運輸大臣の認可を受けなければならない(航空法第105条)。なお,ワイド・ボディの貨物専用機の登場,パレット形式からコンテナへの移行による大量輸送時代の到来は,今後の航空運賃体系に影響を与えるものとみられる。
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百科事典マイペディア 「航空運賃」の意味・わかりやすい解説

航空運賃【こうくううんちん】

航空機の運賃のこと。従来は正規運賃のほか,国際航空運賃に関して特別割引の制度が存在してきた。パッケージ旅行向けのGIT(Group Inclusive Tour)や個人向けの往復割引であるPEX(Special Excursion Fare)などがそれである。運輸省は1994年,GITを廃止し,新たにIIT(Indivisual Inclusive Tour)といわれる個人包括旅行(1人でもパッケージ旅行が組める)運賃制度を導入するとともに,PEXの条件を緩和した新PEX運賃を認可した。これらによる格安航空券の発売によって海外旅行者は増加したが,運賃自体には底入れ感が広がっている。なお国内線に関しては1995年から各航空会社が事前購入割引(2ヵ月〜2週間前の前売割引)を導入し,1996年には航空会社が一定範囲内で運賃を自由に設定できる幅運賃の制度が導入されるとともに,従来の往復割引は廃止された。また1998年には新航空会社スカイマークエアラインズが開業,東京−福岡間を他社正規料金の半額で運航し,注目をあびた。
→関連項目航空運送事業

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航空運賃」の意味・わかりやすい解説

航空運賃
こうくううんちん
air fare, air freight

航空運送サービスの対価。旅客運賃,貨物料金,航空郵便逓送料,旅客超過手荷物料金に分けられる。国際線と国内線によって制度が異なるが,他の交通サービスの場合と同様,運送原価,旅客や荷主の負担能力,市場の競争関係などを考慮して設定され,従来は政府の認可を必要とするのが一般的であった。しかし 1978年にアメリカ合衆国で成立した航空事業規制緩和法によって運賃の設定が自由化されると,その影響が世界中に波及して競争の原理が働き,航空機自体の大型化と長航続性能の向上によって大量長距離輸送が可能となり,運賃も著しく下がった。日本の航空事業も 1952年制定の航空法 (昭和 27年法律 231号) では事業の免許制と運賃の認可制が温存されていたが,1990年代後半から規制緩和が進んでさまざまな割引運賃が導入されるようになり,2002年の航空法改正によってさらに割引競争が進展している。

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世界大百科事典(旧版)内の航空運賃の言及

【IATA】より

…業務は技術,法務等の協会活動と,運賃水準の決定等の運賃調整活動に大別される。とくに,世界を3地区に分けての航空運賃,料金に関する運送会議の活動は重要である。運賃等は最終的には各国政府の認可事項であるが,合意の権限をIATAに委任している点で準公共機関の役割を果たしているともいえる。…

※「航空運賃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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