耕うん機(読み)こううんき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「耕うん機」の意味・わかりやすい解説

耕うん機
こううんき / 耕耘機

耕うん部をエンジンからの動力で回転して耕うんと砕土を同時に行う歩行型二輪トラクターのことで、ロータリー型、スクリュー型、クランク型などがあるが、ロータリー型以外はほとんど用いられない。

 ロータリー型は1850年ごろイギリス人の考案があり、1896年以後に種々の考案試作があって実用化が図られた。わが国へは1918年(大正7)ごろ欧米から輸入されたのが始まりで、以来わが国の水田土質にあうような改良が加えられ今日に至った。1935年(昭和10)ごろアメリカからメリーテイラーが輸入され、安価、軽量小型、汎用(はんよう)性などのため普及しだし、牽引(けんいん)型テイラーの母体となった。すなわち、車輪のかわりに種々の作業機をつけて管理作業に用いたり、後部に犂(すき)、作業機、トレーラーなどをつけて牽引作業を行うようになった。1954年(昭和29)にはエンジン回転部と駆動作業部を直結したワンボディー型が現れ、58年ごろから中央駆動(センタードライブ)方式が一般化し、車輪はつけたまま左右の爪軸(つめじく)を外して各種の回転作業機が取り付けられるようになった。また、55年ごろから、ロータリー型は乗用トラクター用の作業機としても利用されるようになった。

 ロータリー型は多数の爪をつけた水平軸を毎分150~350回転(砕土のみの場合はさらに高回転)させ、地面から爪を打ち込んで下向き削りに耕うんする。プラウなどの直線状低速切削と異なり、高速回転しながら前進し、土を切削、圧縮剪断(せんだん)して耕起し、後方投擲(とうてき)しつつ反転混和する作用を一度に行う。

 ロータリー耕の特長をあげると、ほかの駆動方式よりも構造が簡単で故障が少なく、能率が高く作業適期の短い裏作や寒冷地に適し、砕土性がよく、重粘地や播種(はしゅ)床作りに適し、代掻(しろか)き、中耕除草などの管理作業にも利用できる。また、前進力(機体を前へ押す力)と上向き力(耕うん部を上へ跳ね上げる力)が生じるので、わが国のような粘湿地でも滑りや沈下が少なく作業が軽快で、水田用として有利な点が多く、わが国の農業形態に適している。四輪トラクター普及前までのわが国の農業機械化のシンボルであり最大の貢献者であった。

 一方、欠点としては、細かく砕土しすぎて乾土効果が悪く、土壌が単粒構造(ぱさぱさの微粒状)になりやすいので、イネの初期生育はよいが、根腐れや秋落ちしやすく、西南日本の温暖地や有機質湿田では減収しやすい。また反転が悪いので雑草が多く、所要動力が大きく、浅耕になりやすい。したがって深耕、抵抗減、反転性、有機質施用などの点からプラウ耕との対比において見直しや改良の機運がみられる。

 これまでの技術開発をあげれば、エンジンの軽量高出力化、防水完備、旋回やバック時の耕うん部自動停止、中央部の残耕処理、畔際(あぜぎわ)耕うん、各種作業機のワンタッチ着脱による汎用化、爪改良による抵抗や摩耗の軽減、トラクター直装化、電子油圧式一定耕深保持と水平保持装置、レーキ付きアップカット耕うん(普通の下向き削りに対し逆回転して作業すると下層が粗く表層が細かくなる)、長爪の低回転による深耕、プラウやサブソイラ(心土破砕機)などとの組合せ・複合化など、多くの改良進歩がみられる。わが国の技術は世界的にも高く評価され、輸出も多い。

 爪軸への動力伝達は、初め側方駆動式であったが、現在はほとんど汎用性のある中央駆動式である。爪には普通爪(つの字型で先から打ち込むが、藁(わら)などの絡みが多く、ほとんど用いない)、鉈(なた)爪(鉈状に切り込み、絡みがみられず、もっともよく用いる)、L型爪(大形で外国に多い)などがある。一般に歩行型では耕深10~15センチメートル、耕うん幅30~60センチメートルくらいで、最大馬力数は3~8馬力程度が多く、それ以上は乗用トラクター用が多い。

 ロータリー部を装着した歩行用小型トラクターは、狭小地、不整形地、ビニルハウス内、小規模農家などで用いられるが、その他の大部分は乗用トラクターの後部装着式(ほかの作業機類との互換が可能)として広く利用されている。

[松尾昌樹]


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