笑・咲(読み)わらい

精選版 日本国語大辞典 「笑・咲」の意味・読み・例文・類語

わらい わらひ【笑・咲】

〘名〙 (動詞「わらう(笑)」の連用形の名詞化)
① 笑うこと。えみ。また、その表情やその声。
源氏(1001‐14頃)帚木「さすがに、忍びてわらひなどするけはひ、ことさらびたり」
咄本醒睡笑(1628)五「なに事ぞ、今つきもない時のわらひや」
② あざけり笑うこと。ものわらい。嘲笑
太平記(14C後)一一「恥を忍で苟も生る者は、立(たちどこ)ろに衰窮の身と成て、笑(ワラヒ)を万人の前に得たる事を」
日葡辞書(1603‐04)「バンミンノ varaito(ワライト) ナル〈訳〉民衆、あるいは皆の軽侮の対象となる」
③ 性に関係あるもの、春画、春本、淫具などの総称
※雑俳・末摘花(1776‐1801)四「笑ひとはそら言よがる道具なり」
④ 和解すること。仲直りすること。
※歌舞伎・金看板侠客本店(1883)四幕「お浜の衆と汐留の若い衆との喧嘩の時、〈略〉組元顔役が、仲へはひって笑(ワラ)ひになり」
⑤ 石を積むのに、目地が少しあくように積んで、そこにモルタルを詰めないでおくこと。また、そのところ。
⑥ 取引市場が景気づくこと。相場が上騰すること。〔新時代用語辞典(1930)〕

えみ ゑみ【笑・咲】

〘名〙 (動詞「えむ(笑)」の連用形の名詞化)
① にっこりとすること。微笑。ほほえみ。
万葉(8C後)一九・四一六〇「ぬばたまの 黒髪変り 朝の咲(ゑみ)(ゆふへ)変らひ」
今昔(1120頃か)五「咲(ゑみ)の内にも悪(あ)しき思ひ有り」
② 花の咲くこと。また、果実が熟して外皮が割れること。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立「難儀難波(なには)の梅の笑(ヱミ)
③ 鐙(あぶみ)の部分の名。正面に張り出した鳩胸(はとむね)の脇のくぼんだ所。両脇にあるのを「もろえみ」、片方にあるのを「かたえみ」という。〔随筆貞丈雑記(1784頃)〕
④ 「ひ(樋)」の異称

え・む ゑむ【笑・咲】

〘自マ四〙
① にこにこする。笑顔になる。笑う。
※万葉(8C後)一八・四一〇六「はしきよし その妻の子と 朝よひに 恵美(ヱミ)み恵末(ヱマ)ずも うち嘆き」
② (つぼみがほころんで花が)咲く。
曾丹集(11C初か)「花のゑめるを見れば」
③ (果実が熟して)裂け開く。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※右京大夫集(13C前)「栗もゑみをかしかるらんと思ふにもいでやゆかしや秋の山里
[補注]類義語の「わらふ」は、声を伴うことが多く、「ゑむ」は、声を伴うことがまれである。それは、外発的な力による結果が「わらふ」で、内発的な力による結果が「ゑむ」という意味の相違として説明される。

えまい ゑまひ【笑・咲】

〘名〙 (「えまう(笑)」の名詞化)
① ほほえむこと。笑顔。
※書紀(720)雄略二年一〇月(図書寮本訓)「朕、豈汝(いまし)が妍(よ)き咲(ヱマヒ)を欲覩(みまく)にせじやとのたまふ」
② 花の咲くこと。
※永久百首(1116)春「春くれど野べの霞につつまれて花のゑまひのくちびるも見ず〈藤原仲実〉」

えま‐・う ゑまふ【笑・咲】

〘連語〙 (動詞「えむ(笑)」に継続を表わす助動詞「ふ」の付いたもの)
① にっこりとほほえむ。笑顔をする。
※万葉(8C後)一七・四〇一一「さならへる 鷹は無けむと 心には 思ひ誇りて 恵麻比(ヱマヒ)つつ」
② 花が咲く。
※続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月庚辰「梅柳常より殊に敷栄、咲万比(ゑマヒ)開て」

えま‐・す ゑます【笑・咲】

[1] 〘連語〙 (動詞「えむ(笑)」に尊敬の助動詞「す」の付いたもの) にっこりほほえまれる。笑顔をなさる。
※万葉(8C後)七・一二五七「道の辺の草深百合の花咲(ゑみ)に咲之(ゑましし)からに妻といふべしや」
[2] 〘他サ四〙 (麦などを)水や湯などにつけたり、煮たりしてふくらませる。ふやかす。〔俚言集覧(1797頃)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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