稲莚(読み)いなむしろ

精選版 日本国語大辞典 「稲莚」の意味・読み・例文・類語

いな‐むしろ【稲莚】

[1] 〘名〙
① 稲わらで編んだむしろ。
万葉(8C後)一一・二六四三「玉桙(たまほこ)の道行き疲れ伊奈武思侶(イナムシロ)しきても君を見むよしもがも」
② 稲が田の全面に植わっている状態、または、穂の重みなどで倒れ伏した状態をむしろに見立てていう。また、転じて、柳などの枝葉の波打つさまにいう。《季・秋》
山家集(12C後)上「夕露の玉しく小田のいなむしろかぶす穂末に月ぞすみける」
[2] 「かわ(川)」にかかる。かかり方未詳。いなうしろ。
書紀(720)顕宗即位前・歌謡「伊儺武斯盧(イナムシロ) 川副楊(かはそひやなぎ) 水行けば 摩(なび)き起き立ち その根は失せず」
[補注](1)(一)①の万葉の例は「敷く」の序詞の一部として用いられている。
(2)(二)のかかり方については諸説ある。(イ)風に吹かれて波打つ稲田のさまを川に見立てて。(ロ)川面の青やかであるのを(一)①を敷いたのにたとえて。(ハ)「いなむしろ」は「いねむしろ(寝莚)」の変化した語で、「いなむしろ」に使う皮の意から「皮」と同音の「川」にかかる。(ニ)稲の莚は、コモスゲなどの莚にくらべて編み目が強(こわ)ばっているところから「こわ」と類音の「川」にかかる、など。

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