神楽歌(読み)かぐらうた

精選版 日本国語大辞典 「神楽歌」の意味・読み・例文・類語

かぐら‐うた【神楽歌】

〘名〙 神楽①の中で歌う歌。特に清暑堂、内侍所(ないしどころ)御神楽に歌う歌。庭燎(にわび)、採物(とりもの)大前張(おおさいばり)小前張、星歌、雑歌の六部九〇首近く、約四〇曲ほどが伝えられている。《季・冬》
※枕(10C終)二八〇「かぐらうたもをかし」

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デジタル大辞泉 「神楽歌」の意味・読み・例文・類語

かぐら‐うた【神楽歌】

神楽の中でうたう神歌や民謡。特に、宮中の御神楽みかぐらのものは古く、庭燎にわび採物とりもの大前張おおさいばり小前張こさいばり・星歌・雑歌ぞうかなどからなる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神楽歌」の意味・わかりやすい解説

神楽歌
かぐらうた

神楽のおりに歌われる神楽と民謡。宮廷御神楽(みかぐら)の神楽歌と民間神楽の神楽歌がある。現存する神楽では宮廷の神楽歌が最古で、その歌本の古写本は、藤原道長筆と伝えられる『神楽和琴秘譜(かぐらわごんひふ)』のほか、信義本、鍋島(なべしま)家本、重種本など平安朝のものである。普通に神楽歌といえば、宮廷御神楽の神楽次第の歌をいう。内侍所(ないしどころ)の御神楽歌は、採物(とりもの)歌と民謡とに大別することができる。採物歌は、榊(さかき)、幣(みてぐら)、杖(つえ)、篠(ささ)、弓、剣、鉾(ほこ)、杓(ひさご)、葛(かずら)の9種30首で、採物をたたえる歌やその採物にちなむ歌。なお韓神(からかみ)の歌2首を加える。中入りのあと歌われる民謡は御神楽成立当時の民謡を取り入れたもので、大前張(おおさいばり)(宮人(みやびと)・難波潟(なにわがた)・木綿志天(ゆうしで)・前張・階香取(しながとり)・井奈野(いなの)・脇母古(わぎもこ))、小前張(薦枕(こもまくら)・閑野(しずや)・磯良前(いそらがさき)・篠波(さざなみ)・殖舂(うえつき)・総角(あげまき)・大宮・湊田(みなとだ)・蛬(きりぎりす))、雑歌(ぞうか)(千歳(せんざい)・早歌(そうか)・吉利吉利(きりきり)・得銭子(とくぜにこ)・木綿作(ゆうつくる)・朝倉(あさくら)・昼目歌(ひるめうた)・竈殿遊歌(かまどのあそびのうた)・酒殿歌(さかどのうた)・弓立(ゆだて)・其駒(そのこま)・神上(かみあげ))などがある。これらは、本方(もとかた)と末方(すえかた)とに分かれた楽人によって笛・篳篥(ひちりき)・和琴(わごん)の伴奏で歌われる。

 一方、民間の神楽歌は地方に数多く伝わっている。出雲(いずも)、伊勢(いせ)、獅子(しし)の各神楽に歌われる神楽歌は、神降(かみおろ)し歌、讃(ほ)め歌、清めの歌、祈祷(きとう)歌、遊び歌、神上げの歌などに分けられる。短歌形式の二句神歌(かみうた)のほかに『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』にみえる今様風四句神歌の類歌を伝えるところもある。とくに伊勢神楽の天文(てんぶん)11年(1542)奥書のある神楽歌本には、二句・四句の神歌200首余りが収載されている。神楽歌の多くは作者不明であるが、記紀の歌謡や『古今集』『新古今集』『千載(せんざい)和歌集』『金葉(きんよう)和歌集』など古歌を引用した歌も少なくない。神楽歌の歌い方はさまざまで、囃子方(はやしかた)、舞人、周囲の者などにより掛合いで、あるいは同音で歌われる。とくに太鼓打ちが大きな役割を担う点は各流の神楽に共通する。

[渡辺伸夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「神楽歌」の意味・わかりやすい解説

神楽歌 (かぐらうた)

国文学で狭義には平安時代に整えられた宮廷神楽歌をいい,広義には神事歌謡をひろくさして称する。《古今和歌集》巻二十に〈神遊(かみあそび)の歌〉(採物(とりもの)の歌6,日女(ひるめ)の歌1,返し物の歌1,大嘗祭の時の歌5)を収める。神遊の歌は神楽歌の古称と見られる。《拾遺和歌集》巻二十にも〈神楽歌〉11首を収める。神楽歌の平安時代書写本には源信義本,鍋島家本,伝藤原道長本《神楽和琴秘譜》,八俣部重種本がある。ほかに承徳3年(1099)書写《古謡集》に〈支多乃見加止(きたのみかど)乃御神楽〉〈介比(けひ)乃神楽〉が収められ,前者の所在は一定しないが,後者は越前一宮の気比神社のものであろう。宮廷御神楽(みかぐら)のほかに里神楽が存し,しかも豊かなものであったことが察せられる。

 鍋島家本《神楽歌》の構成は庭火(にわび)・阿知女法(あちめのわざ)・採物・韓神(からかみ)・大宜(おおむべ)・阿知女法・大前張(おおさいばり)・小前張(こさいばり)・千歳法(せんざいのほう)・早歌(そうか)・明星(あかぼし)・得銭子(とくぜにこ)・木綿作(ゆうつくる)・朝倉・昼目歌(ひるめうた)・竈殿遊歌(かまどのあそびのうた)・酒殿歌(さかどのうた)・湯立歌(ゆだてのうた)・其駒(そのこま)・神上(かみあげ)となっている。神を迎え,神をたのしませ,神を送る順序で進められる。神の来臨する憑代(よりしろ)を手に取り持つ採物の歌に古風な信仰が見られ,また神をたのしませる大前張・小前張の歌は数多く,民謡などを摂取し変化に富んでいる。地方の神楽歌でも,伊勢神楽歌,諏訪神楽歌などは豊富多彩である。
神歌 →御神楽
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百科事典マイペディア 「神楽歌」の意味・わかりやすい解説

神楽歌【かぐらうた】

宮中で行われる御神楽(みかぐら)の儀のための音楽。神楽の中心となる採物(とりもの)歌とやや娯楽的な前張(さいばり)歌および神あがりの歌に大別され,笏(しゃく)拍子,和琴(わごん),神楽笛,篳篥(ひちりき)によって伴奏される。短歌形のものを中心に当時の民謡の類などを採集して加えたあとがある。
→関連項目郢曲大歌琴歌譜田植歌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神楽歌」の意味・わかりやすい解説

神楽歌
かぐらうた

古代歌謡の一種。神前で奏する神楽 (御神楽) に伴って歌われる歌謡をさすが,狭くは宮中で奏される特定の神事歌謡をさす。宮中のものは起源は非常に古く,一部の原型は奈良時代以前にできたとみられるが,現在伝わるものは,平安時代中期頃に歌詞,譜ともに改修されたものである。大別すると,『採物 (とりもの) 』『前張 (さいばり) 』『星』以下の曲の3種に分けられる。『採物』は楽人の持つ榊,幣,杖などを詠み込んだ歌で,神おろしの意味を含む。反復部分を除くと短歌形式。『前張』は大前張と小前張に分れ,前者は反復句などを整理すると短歌形式になるが,後者はもともと不整形で,地方民謡を編曲したものとみられる。『前張』にはさらに千歳法と早歌 (そうか) などが付属される。『星』以下の曲は朝になってからのもので,神あがりの歌である。

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