郢曲(読み)えいきょく

精選版 日本国語大辞典 「郢曲」の意味・読み・例文・類語

えい‐きょく【郢曲】

〘名〙
① (「郢」は中国春秋時代の楚(そ)の都。みだらな土地柄であったところから) いやしい音楽。はやり歌俗曲
懐風藻(751)秋日於長王宅宴新羅客〈山田三方〉「歌台落塵、郢曲与巴音響」 〔鮑照‐翫月城西門廨中詩〕
② 平安、鎌倉期の謡い物の総称狭義には早歌(そうか)宴曲)または朗詠広義には平安初期には、神楽、催馬楽、風俗歌、朗詠をさし、中期には今様(いまよう)も加わり、後期には多くの雑芸も加えられ、鎌倉時代には早歌も加えられた。
吾妻鏡‐治承四年(1180)八月四日「酒宴郢曲之際、兼隆入興」

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デジタル大辞泉 「郢曲」の意味・読み・例文・類語

えい‐きょく【×郢曲】

中国の春秋時代、の都、郢で歌われた卑俗な歌曲。転じて、はやり歌。俗曲。
平安から鎌倉初期の歌謡の総称。平安初期には神楽歌催馬楽さいばら風俗歌朗詠をさし、中期に今様、後期に雑芸ぞうげい、鎌倉期に宴曲が加えられた。狭義には、朗詠または宴曲をさす。

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改訂新版 世界大百科事典 「郢曲」の意味・わかりやすい解説

郢曲 (えいきょく)

平安,鎌倉,室町期の歌い物の総称。詠曲とも書く。平安初期には神楽歌,催馬楽(さいばら),風俗(ふぞく)歌,朗詠の雅楽系歌曲を指し,中期以降は,今様,雑芸(ぞうげい)の類も加えられ,鎌倉時代にはさらに早歌(そうが)も加えられた。狭義には朗詠または早歌を指す。〈歌〉本位の,いわゆる旋律的に歌われる声曲を,多少謙譲の意味をこめて,ひらたく言うときに使う用語と思われる。上記の時代に成立,発展した声曲であっても,久米歌,東遊など祭祀用歌舞や仏教儀式における声明(しようみよう),語り物の平曲,猿楽などのように,歌以外のものと深くかかわった声曲は,含まれない。雅楽系歌曲,今様,雑芸の意味における用例は,《郢曲相承次第》《五節間郢曲事》《梁塵秘抄口伝集》などに見え,早歌の意味における用例は《撰要目録》《応仁略記》などに見える。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「郢曲」の意味・わかりやすい解説

郢曲
えいきょく

平安時代から鎌倉時代にかけて行われた歌謡の種目、またはその総称。語源は、中国の春秋時代に楚(そ)の国の都、郢(えい)ではやった卑俗な歌謡の意。平安初期には朗詠、催馬楽(さいばら)、神楽歌(かぐらうた)、風俗歌(ふぞくうた)など宮廷歌謡の総称であったが、平安中期には今様歌(いまよううた)、末期からは神歌(かみうた)、足柄(あしがら)、片下(かたおろし)、古柳(こやなぎ)、沙羅林(さらのはやし)などの雑芸(ぞうげい)も包括し広義に及んだ。狭義には朗詠のみをさし、また別に鎌倉時代の早歌(そうが)(別名宴曲(えんきょく))を示すこともある。『徒然草(つれづれぐさ)』に「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)の郢曲の詞」とあるのは当時の雑芸をさす。これは後白河(ごしらかわ)法皇の撰(せん)と思われる『郢曲抄』が別名『梁塵秘抄巻十一』とも称されるためである。五節(ごせち)の殿上淵酔(てんじょうえんずい)で歌われた朗詠、今様、雑芸などをとくに『五節間郢曲』と称し、鎌倉時代の早歌と結んで貴族の宴席で愛好された。郢曲を伝承する家には敦実(あつざね)親王・源雅信(まさのぶ)を祖とする源家(げんけ)、藤原師長(もろなが)・源博雅を祖とする藤家(とうけ)の2家があったが、室町中期に藤家は絶え、いまは源家の流れの綾小路(あやのこうじ)家が命脈を保つ。

[橋本曜子]

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百科事典マイペディア 「郢曲」の意味・わかりやすい解説

郢曲【えいきょく】

本来は中国の楚の都,郢で行われた俗曲の意。日本では平安・鎌倉時代の歌謡の一種。神楽歌催馬楽(さいばら),風俗歌,朗詠雑芸今様宴曲などの宮廷歌謡の総称として用いられた。狭義には朗詠また早歌(そうが)のみをさす。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「郢曲」の意味・わかりやすい解説

郢曲
えいきょく

日本音楽の種目名。平安時代後期から鎌倉時代にかけて行われた歌謡の歌曲の総称。郢とは中国春秋時代の楚の都で歌われた卑俗な歌曲の意。日本では,神楽歌 (かぐらうた) ,催馬楽 (さいばら) ,風俗歌,朗詠をいったが,のちには今様 (いまよう) および雑芸 (ぞうげい) などをまとめていう場合に用いられ,狭義には,朗詠または雑芸中で宴曲ともいわれる早歌 (そうが) だけをいうこともあり,また,五節の淵酔に歌われたものを「五節間郢曲」という。

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