祈・祷(読み)いのる

精選版 日本国語大辞典 「祈・祷」の意味・読み・例文・類語

い‐の・る【祈・祷】

〘他ラ五(四)〙 (「い」は神聖、斎の意。「のる」は宣るの意)
神仏に請い願う。
(イ) ことばを口に出して神に福を求める。
万葉(8C後)二〇・四三九二「天地(あめつし)のいづれの神を以乃良(イノラ)ばか愛(うつく)し母にまた言問はむ」
更級日記(1059頃)「この源氏の物語、一の巻よりして皆見せ給へと心のうちにいのる」
(ロ) ある人に危害が及ぶようにと神仏に祈願する。のろう。
※落葉集(1598)色葉字集「呪 いのる」
山伏僧侶怨霊(おんりょう)、悪魔を降伏(ごうぶく)するために定まった儀式を行なう。
※太平記(14C後)一「玉体に近き奉て、肝胆を砕てぞ祈(イノ)られける」
③ 心から希望する。願う。
友情(1919)〈武者小路実篤〉三四「僕は君の幸福を祈ってゐるよ」
[語誌](1)元来、神の名や呪言をとなえて幸福を求める意であったから、古くは「神をいのる」の形であったが、現在は「神にいのる」という。
(2)「のる」との派生関係についての確証はないが、①の挙例「万葉集」の「神を祈る」といった表現から、「神の名を口にする」ことが本来の意義であったと考えられる。その後、平安時代には、「神に」という形で用いられ、願い事の成就を神に「対して」要求する意味を表わすようになる。

い‐のり【祈・祷】

〘名〙
① 神仏に請い願うこと。また、そのことば。
※竹取(9C末‐10C初)「此人々家にかへりて物をおもひ、いのりをし、願をたつ」
② 怨霊(おんりょう)、悪魔の降伏(ごうぶく)延命息災などを山伏や僧侶によって神仏に祈ってもらうこと。加持祈祷。修法。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「今日はじむべきいのりども、さるべき人々うけ給はれる、今宵より」
③ 能で、山伏、僧侶などが怨霊、悪魔を降伏するさまの特殊な所作。また、その場合、謡い方の節をもいう。「道成寺」「葵の上」「安達原」などにみられる。
④ 歌舞伎で、祈祷の場面に用いる囃子(はやし)の称。楽器は太鼓、大鼓(おおつづみ)、小鼓、笛の四種(演劇鳴物合方名称集稿本)。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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