相補性(読み)ソウホセイ

デジタル大辞泉 「相補性」の意味・読み・例文・類語

そうほ‐せい〔サウホ‐〕【相補性】

量子力学現象記述するために、ボーアが提唱した概念電子位置と速さ、光の粒子性波動性のように、不確定性原理から二つの量が同時に測定できない関係にある現象を互いに相補的であるといい、このような性質をいう。

遺伝で、突然変異を起こした染色体が一つの細胞内に2種あるとき、突然変異体の個々の作用以上の機能や形質が発現する現象。
核酸塩基配列において、アデニンチミンまたはウラシルグアニンシトシンが特異的に対合する現象。

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精選版 日本国語大辞典 「相補性」の意味・読み・例文・類語

そうほ‐せい サウホ‥【相補性】

〘名〙 電子などの微小粒子は、位置を確定すると運動量不確定になり、運動量を確定すると位置が不確定になるという二量の不確定性関係を表わすことば。物質の粒子性と波動性との二重性格によるもので、この二つの性格を相補的であるということもある。N=ボーアが量子力学の解釈を強調するために導入した概念。→不確定性原理

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改訂新版 世界大百科事典 「相補性」の意味・わかりやすい解説

相補性 (そうほせい)
complementarity

量子力学の解釈に関してN.ボーアが用いた考え方。古典力学では例えば電子はその位置と運動量によって状態が決まる。しかし,量子力学では不確定性原理により両者が同時に正確な値をとることができない。一方の正確な知識は他方がまったく不確定という結果となる。このようにある物事が互いに干渉し合う二つの量によって記述されるとき,これらの量は互いに相補的であるという。粒子の位置座標と,それに共役な運動量とは互いに相補的である。また時間とエネルギーとは互いに相補的であるといえる。測定時間が短ければ,それに反比例してエネルギーの不確定が大きくなるからである。電子あるいは光の粒子性と波動性も互いに相補的な概念といえよう。相補性とは互いに相反する二つの立場から物事を見るということであるが,その物理的な内容は不確定性原理で尽くされており,したがって現在では物理学においては相補性という言葉を用いることは少ない。
不確定性原理
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百科事典マイペディア 「相補性」の意味・わかりやすい解説

相補性【そうほせい】

量子力学の解釈に関してN.ボーアが導入した考え方。電子など微粒子の運動を記述するためにはその位置と運動量を知らなければならないが,両者を測定する実験は互いに排他的な関係にあって両者を同時に正確に測定することはできない(不確定性原理)。このように同一対象に対する排他的な実験によって得られる二つの知識が相補ってはじめて対象の完全な記述が得られる場合,この二つの知識は互いに相補的であるという。位置と運動量のほかに時間とエネルギーも相補的な関係にあり,これは作用量の次元(つまり長さと運動量,または時間とエネルギーの積の次元)をもつプランク定数の存在と密接に関連する。さらに広くは,電子や光の粒子性と波動性,また自然現象の時間・空間的記述と因果性が相補的な関係にあるといえる。
→関連項目量子力学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「相補性」の意味・わかりやすい解説

相補性
そうほせい
complementarity

N.ボーアが提案した量子力学の基礎的概念の1つ。 W.ハイゼンベルクの不確定性原理によると,位置の不確定と運動量の不確定の積は h/2π ( h はプランク定数) より小さくできないが,ボーアはこの考えを拡張して,一方を定めると他方が不確定になってしまうような2つの量は相対立するものではなく,相補うものと考えた。たとえば,電子や光は粒子か波動のどちらか一方にきめつけられるものではなく,観測の手段や状況に応じて粒子のようにも波動のようにもふるまう。つまり粒子性と波動性とは相補的な関係にあり,両方が相補って電子や光の全体像を説明するのである。

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化学辞典 第2版 「相補性」の解説

相補性
ソウホセイ
complementarity

(1)2本のDNA鎖が互いに塩基対を形成し,2本鎖となりえる関係.
(2)二つの分子が非共有結合で結びつくときの接触面の凹凸が,互いにピッタリと適合すること.

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世界大百科事典(旧版)内の相補性の言及

【ボーア】より

…この間,1918年ボーアは量子論と古典論とは極限において一致し,両者には形式上の対応があるとする対応原理を提起したが,W.K.ハイゼンベルクはこの原理をもとに,マトリックス力学という形式の量子力学を完成した。ついで27年ボーアは,ミクロな世界では粒子性と波動性とが相補って正しい自然の姿を与えるという相補性の考え方を発表し,新しい時空記述の基本的なアイデアを示した。今日〈コペンハーゲン解釈〉として広く承認されているものである。…

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