生体小腸移植(読み)せいたいしょうちょういしょく

百科事典マイペディア 「生体小腸移植」の意味・わかりやすい解説

生体小腸移植【せいたいしょうちょういしょく】

生きている人間がドナー臓器提供者)となって,小腸の一部を移植すること。短小腸症候群(先天的に腸が短い病気)など,移植以外に治療方法がない症例が対象となる。日本では,1998年8月までに京都大学の田中紘一教授らのチームが行った2例しかない。 日本初の生体小腸移植は,1996年,2歳(手術当時)の男児血液型の同じ母親(33歳)からの移植が行われたが,1997年9月,手術後485日目に男児は3歳で死亡した。この男児は,生まれつき小腸の大部分壊死していたため,生後まもなく切除した。その後も腸炎を繰り返したため,再び小腸を切除し,残った小腸は30cmしかなかった。静脈からの栄養摂取による肝機能障害や,カテーテル感染などがあったため,小腸を移植するしか道は残されていなかった。ほかの臓器とくらべて,小腸には免疫細胞が数多く集まっているため,移植では拒絶反応を起こしやすい。男児は拒絶反応を繰り返し,免疫抑制剤が増量されたことから,日和見感染症が続き,カリニ肺炎ニューモシスチス・カリニ肺炎)を併発多臓器不全を起こして死亡した。 小腸移植の難しさは,拒絶反応だけではない。ドナーから摘出した小腸がレシピエント(臓器受容者)を攻撃する移植片対宿主反応病を起こすのが,リンパ組織の多い小腸特有の性質である。さらには,拒絶反応を診断するには,肝移植では血液検査が可能だが,小腸は内部をのぞいて判断するしか方法がない。このため,移植した小腸の一端人工肛門のように体外に出す必要がある。 海外では1985年からの11年間に170人が脳死者からの移植を受け,1年間の生存率は70%,4年生存率は40%。生体間では,1990年から4例が行われ,うち1年以上生存したのは1例のみ。免疫抑制剤の開発によって短期的な生存率は伸びたが,術後管理の難しさから,長期的な生存率はまだ低いのが現状である。 1998年8月,京大の同チームは2例目の生体小腸移植を行った。患者は短小腸症候群の女児(4歳)で,母親(31歳)がドナーとなった。小腸移植にはまだ課題が多く残されているが,全国の対象患者は約200人といわれ,今後の進展が期待される。→リンパ系生体肝移植ストーマケア

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