日本大百科全書(ニッポニカ) 「血液型」の意味・わかりやすい解説
血液型
けつえきがた
広義での血液型とは、血液にみられる遺伝形質の個体差によって、さまざまに区別される型(遺伝的多型)、ないしはその分類様式をいう。当初、血液型は赤血球を対象として発達した学問であったが、近年、各種血液成分についても多型性のあることが確認されるようになった。その結果、広義での血液型は現在、次のように区分される。(1)赤血球にみられる多型(赤血球型)、(2)白血球・血小板にみられる多型(白血球型・血小板型)、(3)血清にみられる多型(血清型)、(4)血球上あるいは血清中の酵素にみられる多型(酵素型)の4区分である。しかし、一般に血液型という場合には、(1)の赤血球型を意味するのが普通であり、これを狭義の血液型という。以下、4区分に沿い、それぞれの血液型について解説する。
[小谷淳一]
赤血球型
赤血球の多型を表現、規定しているのは抗原とよばれる物質である。したがって、赤血球抗原の多型が、狭義での血液型ということになる。抗原は、それに対応する抗体という物質と特異的に結合し、抗原抗体反応といわれる現象を引き起こす。赤血球型の抗原抗体反応では、血液型抗体(凝集素)の作用によって、対応する血液型抗原(凝集原)を有する赤血球が、抗体を仲立ちとして次々と結合し、肉眼で確認できる大きさの赤血球塊(凝集塊)を形成する。この塊をつくる現象を凝集反応という。また、ある特定の血液型に関して抗原抗体反応を示す性質を型特異性とよび、この型特異性を示す抗原物質を血液型物質または型物質という。血液型は、1900年ランドシュタイナーらのABO式血液型の発見に始まり、27年にMN式血液型とP式血液型が発見された。そして40年ランドシュタイナーとウィーナーによるRh式血液型因子の発見により、新生児溶血性疾患とよばれる病気の原因が、母―児間のRh式血液型因子の違いに起因することが実証され、臨床医学における血液型の重要性が認識された。すなわち、ヒトとヒトとの間に異なった血液型因子の交流が生じたとき(輸血、妊娠など)、他人より移入された血液型因子が抗原としての働きを示し、その結果、生体内の既存抗体との反応、ないしは新たなる血液型抗体の産生などによって、いろいろな臨床上のトラブルの発生がつきとめられたわけである。このように、血液型因子の違いによって臨床上のトラブルの生じる可能性がある血液型の組合せを血液型不適合という。Rh式血液型の発見以後、新生児溶血性疾患、輸血の副作用の症例などから、次々と新しい血液型抗原が発見され、現在では、少なくともその数は250種以上となっている。
血液型分類に用いる抗体(抗血清)には次のようなものがある。(1)生体内に自然状態で存在している自然発生抗体、たとえば正常なヒト血清中に規則的に常在する同種・規則抗体(ABO式)、まれに存在する同種・不規則抗体(ルイスLewis式)、ブタなどの動物血清中にまれに存在する異種・不規則抗体(P式)を利用する。(2)異型輸血・血液型不適合妊娠により後天的に産生された免疫抗体(Rh式以降のほとんどの血液型)を用いる。(3)抗体産生を目的として人工的に動物(MN式、ルイスLewis式)、ヒト(Rh式)を免疫して作製する。(4)レクチンLectinという主として植物の種子浸出液中に含有される植物性凝集素(ABO式、MN式)などを利用する。
[小谷淳一]
ABO式血液型
ヒト血清中の抗Aおよび抗B抗体に対する凝集の有無によって、A、B、AB、O型の4型に分類する血液型である。遺伝様式はA、B、Oの3複対立遺伝子の支配を受け、遺伝子間の優劣関係はA=B>Oで、メンデルの法則に従う。ABO式血液型の基本的抗原はA、BおよびH抗原(H型物質)である。H抗原はすべての型に認められる共通抗原で、H抗原を土台にしてAやB抗原が合成される。対応する抗H抗体はハリエニシダUlex europaeusの種子中にレクチンとして存在し、また、ウナギの血清中にも含まれる。なお、ボンベイ型Bombay type(Oh型)といってH物質をもたない特殊な赤血球も発見されている。ABH型物質は赤血球膜だけではなく、毛髪、骨はもとより、全身の細胞に存在する。また、分泌液(唾液(だえき)、精液、胃液など)では水溶性の型物質として存在し、その分泌量に基づいて分泌型と非分泌型に分類したのがSe式血液型である。分泌腺(せん)におけるABH型物質の分泌性とルイス式血液型との間には密接な関係がある。ルイス式血液型は、抗Leaと抗Leb抗体によって、Le(a+b+)型、Le(a+b-)型、Le(a-b+)型、Le(a-b-)型の4型に分類され、日本人(成人)の出現頻度は、順に0%、約22%、約68%、約10%で、Le(a+b-)型のヒトはすべて非分泌(se)型、Le(a-b+)型はすべて分泌(Se)型、Le(a-b-)型では大多数が分泌(Se)型である。赤血球膜存在性の型物質は糖脂質glycolipidで、唾液などの水溶性型物質は糖タンパク質glycoproteinである。そして糖部分(糖鎖)の末端に種類の異なった糖が位置することによって型特異性が発揮される。これらのABH型物質、ないし類似物質は種々の動物、微生物などにも認められる。
[小谷淳一]
MNSs式血液型
抗M・抗N血清によってM、N、MN型に分類されるMN式血液型は、優劣のないM、N遺伝子に支配され、遺伝子型はMM、NN、MNである。MやN抗原は赤血球のみに存在する。M、N型物質は、シアル酸という物質を含んだ糖タンパク質と推定されている。1947年に発見されたSs式血液型は、抗S・抗s血清によって、S(SS)、s(ss)、Ss(Ss)型に分類される。MN式とSs式との間には遺伝的関連性が認められ、現在ではMNSs式とよばれている。この結果、MS、Ms、NS、Nsという優劣のない4種の対立遺伝子が設定され、この組合せによって赤血球上にM、N、S、s抗原が発揮される。M・N因子は臨床上のトラブルの生じにくい因子とされているが、S・s因子はまれに免疫抗体産生などがみられるので、輸血の副作用、新生児溶血性疾患の原因として考慮する必要がある。
[小谷淳一]
P式血液型
現在は表現型として、P1、P2、P、P
、p型の五つに区分される。日本人の出現頻度はP1型約35%、P2型約65%である。ごくまれに輸血副作用などの原因となる。日本で発見されたQ式血液型は、旧P式(P型とp型に区分)と同一のものとされている。
[小谷淳一]
Rh式血液型
1940年、ランドシュタイナーとウィーナーは、アカゲザルの血球で、ウサギ、モルモットを免疫して得た抗体によって、ヒト赤血球が2群に区別できることを発見し、凝集される血球をRh(+(プラス))型、凝集されない血球をRh(-(マイナス))型と名づけた。Rh式血液型は、基本的には優劣のない8種類の遺伝子群、cDe(R0),CDe(R1),cDE(R2),CDE(Rz),cde(r),Cde(r′),cdE(r″),CdE(ry)に支配され、このなかの2種が組み合わさって個体のRh式血液型(因子型)が決定される。各遺伝子は同名の抗原を支配するため、Rh式血液型の基本抗原はC(rh′)、c(hr′)、D(Rh0)、d(hr)、E(rh″)、e(hr″)の6種となるが、d抗原の存在は、抗d抗体の確実なものが発見されていないために未確認のままである。したがって、現在検査に用いられる基本抗体は、抗C、抗c、抗D、抗E、抗eの5種である。抗D抗体に対する反応によって、D抗原をもつD型〈Rh(+)〉と、もたないdd型〈Rh(-)〉に分類される。D抗原は他のRh抗原と比較すると、その抗原性はきわめて強く、D抗原をもたないdd型のヒトにD型血液を輸血した場合、抗D抗体が産生される可能性がきわめて高くなる。D‐d因子型不適合による新生児溶血性疾患も多く、そのため、Rh因子のなかでも、D‐d因子が臨床的にもっとも重要視されている。
[小谷淳一]
その他の血液型
ルゼランLutheran式のLua抗原、ケルKell式のK抗原などは日本人には認めにくい形質である。ダフィーDuffy式の抗原のうち、Fya陰性の形質も日本人に少なく、Fy(a+b-)型約81%、Fy(a+b+)型約18%、Fy(a-b+)型約1%となる。キッドKidd式では、日本人の場合、Jk(a+b-)型約22%、Jk(a+b+)型約51%、Jk(a-b+)型約27%と頻度に極端な偏りがないので、親子鑑定などにしばしば用いられる。ディエゴーDiego式のDia抗原は白人にはなく、モンゴル人種に特異的な抗原で、Di(a+)型の日本人は2~10%くらいである。Xg式はX染色体上にXga遺伝子の座があり、Xg(a+)型の頻度は、日本人の場合、男性で約70%、女性で約90%となり、性差がみられる。
[小谷淳一]
白血球型・血小板型
組織・臓器などの移植に際し、拒絶反応をコントロールするような働きを示す抗原を組織適合性抗原という。その最たるものが前述したABH抗原であり、HLA(Human Leucocyte Antigen)といわれる白血球抗原である。HLA抗原は、リンパ球、顆粒(かりゅう)白血球、血小板に共通して存在する。現在、HLA抗原は、A、B、C、D、DR群に分類され、さらにA群は20種以上、B群は40種以上の多型性を示す。そのほか、HLA抗原系以外の白血球抗原も報告されている。一方、血小板(栓球)型においてはかならずしも分類法が確立しているとはいいにくいが、血小板独自の抗原系として、現在、少なくとも3系統の抗原が確認されている。
[小谷淳一]
血清型・酵素型
血液のタンパクにみられる多型は、赤血球抗原の遺伝標識による血液型とは異なり、血液中の一定の血清タンパクや酵素、血球酵素の組成の差による遺伝的多型現象である。型判定は、主として支持体電気泳動法(血漿(けっしょう)タンパク質などの分子の水溶液に正負の電極を入れ、タンパク質を分別する方法)や免疫学的判定で行われるが、なかには、疾病との関係において特異性がみられるものもある。これらの血清型、酵素型は、法医学の分野では親子鑑定や個人識別に応用されており、また人類遺伝学、免疫血清学においても活用されている。
[小谷淳一]
血清型
ヒト血清中の遺伝的多型性を示す形質は、1955年スミッシーSmithiesがデンプンゲル電気泳動法を開発し、ハプトグロビンhaptoglobinという血清タンパクの多型を報告して以来、数多くの発見がなされている。現在、物理的、化学的、その他の技術によって明確に決定されているものは約14種類である。
[小谷淳一]
酵素型
デンプンゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などによって酵素成分を泳動すると、同一活性度の酵素でも、遺伝的に決定される異なった種類の酵素系(アイソザイム)に分類される。このように遺伝的多型を示す酵素型は約20種以上みられる。そのうち、日本人についてよく検査されているものには、PGM、PGD、AcP、ADA、GPTなどの型である。
[小谷淳一]
家畜の血液型
20世紀初頭ヒトのABO式血液型が発見されたころ、家畜の血液型についても研究されていたが、本格的な研究が始められたのは1940年以降である。血液型は赤血球の細胞膜の抗原性の違いにより分類される。特定の赤血球抗原に対する抗体を含む抗血清に赤血球浮遊液を加え、もし赤血球がその抗原をもっていれば、赤血球が固まる凝集反応がおこる。また、この混合液に補体としてウサギまたはモルモットの新鮮血清を加えると、赤血球が溶解する溶血反応がおこる。反応が陰性であれば凝集も溶血もおこらない。一般に、ウシ、ヒツジおよびヤギの赤血球は凝集しにくいので溶血反応が用いられ、ウマ、ブタおよびニワトリでは凝集反応が用いられる。
血液型抗原は通常優性形質として遺伝し、家畜の血液型ではいくつかの血液型抗原が一つの遺伝子によって支配されている。たとえば、ウシの赤血球抗原のうちB、G、Kの三つの抗原は同一遺伝子によって支配され、単独で検出される場合もあるが、多くはBGKとしていっしょに検出される。このような複合抗原をフェノグループphenogroupまたは単に抗原とよび、同一の遺伝子座に属する対立遺伝子によって決定される血液型はシステムsystemとよばれる。血液型遺伝子の記号は、遺伝子座すなわちシステムを表す記号の右肩にフェノグループを記すのが一般的である。ウシのBGK因子はBシステムに属する遺伝子によって決定されるのでBBGKと書く。
家畜の血液型は大部分のシステムが複対立遺伝子よりなっているのみならず、遺伝子数が非常に多く、もっとも極端な例はウシのBシステムで、現在までに300以上の遺伝子が知られている。またヒツジのRおよびブタのAシステムのように、Rに対してRとI、Aに対してAとSの二つの遺伝子座の相互作用によって生ずる血液型もある。
血液型は通常、同種免疫によって検出されるが、ニワトリのHiおよびThシステムのように、前者はマメ科植物の種子に含まれる凝集素、後者は培養動物細胞をトリプシンで処理して得られた凝集素によって分類されたものもある。
血液型をもっともよく利用するものの一つに親子鑑別がある。家畜では人工授精する場合が多く、誤って別の精液を授精したり、連続した2発情時において別々の雄の精液を授精した場合に、親と子の血液型を調べることによって、高い確率で判定することができる。
[西田恂子]
『松本秀雄著『血液型の知識』(1976・金原出版)』▽『石山昱夫著『血液型の話』(1979・サイエンス社)』▽『松田薫著『「血液型と性格」の社会史』改訂第2版(1994・河出書房新社)』▽『横山三男著『血液型物語』(1997・日本医学館)』▽『R. R. Race & Ruth SangerBLOOD GROUPS IN MAN(1950, Blackwell Scientific Publications, London)』