生体肝移植(読み)セイタイカンイショク

デジタル大辞泉 「生体肝移植」の意味・読み・例文・類語

せいたい‐かんいしょく【生体肝移植】

肝移植方法一つ。健康な人の肝臓一部を切り取り、末期肝不全患者に移植する。肝臓は再生能力が高く、健康な人の場合、肝臓の65パーセントを切除しても、約1年後にはほぼ同等の大きさまで再生するとされる。日本では家族間での生体肝移植が主流となっているが、欧米脳死肝移植が一般的。生体部分肝移植

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百科事典マイペディア 「生体肝移植」の意味・わかりやすい解説

生体肝移植【せいたいかんいしょく】

生きている人間から肝臓の一部を切り取って,肝移植を行うこと。先天性胆道閉塞症(肝臓から十二指腸にいたる胆道が欠損しているため,胆汁がうまく流れず,全身に胆汁がたまる病気)といった,先天的な肝臓の形態異常などで,移植以外に助かる道がない場合に行われる。これに対して,脳死状態のドナー臓器提供者)からの移植を〈脳死肝移植〉という。 日本初の生体肝移植は,1989年に島根医科大学で行われた。1998年までに,京都大学や信州大学など全国の大学病院で約600例が実施され,1998年4月から健康保険も適用された。5年生存率も80%と,日常の医療として定着しつつある。 臓器移植のなかでも,生体肝移植の症例数が多いのには,いくつかの理由がある。まず,移植にあたって,肝臓は組織融和性がさほど問題にはならない。さらに,肝臓はレシピエント(移植を受ける人)に移植されたほうも,ドナーに残されたほうも,再生能力が高い。また,親がドナーになる場合は拒絶反応が少ないため,先天異常の子どもに対して,親の肝臓を提供するケースが多い。最近では技術の向上によって子から親,兄弟間,夫婦間などに対象が広がっている。 しかし,健常者の体から臓器の一部を取り出すことに危険がないとは言いきれず,倫理的な問題もある。 1997年10月に臓器移植法が施行され,脳死肝移植への道が開けてきた。しかし,現状では,ドナーが現れないまま病気が進行し,やむを得ず生体肝移植に切り替えるケースも増えている。→肝不全
→関連項目生体小腸移植

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知恵蔵 「生体肝移植」の解説

生体肝移植

生きているヒト(ドナー)から肝臓の一部を切除・摘出し、重症の肝疾患を持つ患者(レシピエント)に移植する臓器移植術。この手術が必要になるのは、肝硬変で機能が衰えたり、肝臓から分泌される胆汁が適切に排出されなかったり、肝臓での代謝機能に異常があったりし、移植以外の治療法では治癒が期待できないケースである。胆道閉塞(へいそく)症や代謝性疾患の多くが先天性であることから、日本では乳幼児における術例が比較的多い。
肝臓はヒトの臓器の中でも最も再生力が強く、ドナーは最大で肝臓の70%を切除されるが、約1カ月後には元の容積の80~90%ぐらいに戻り、機能もほぼ回復する。
海外では脳死肝移植が先行し、移植臓器の不足を解消するため1980年代末から生体肝移植も試みられるようになった。日本での肝移植の第1例は、89年に島根医科大学で行われた、先天性胆道閉塞症の乳児に父親の肝臓の一部を移植した生体肝移植である。その後97年に臓器移植法が成立・施行されたものの、脳死ドナーは少なく、以後現在まで日本では一貫して生体肝移植の術例の方が脳死肝移植より多いという状況が続いている。
日本肝移植研究会の調査によれば、60年代に実験的に行われた術例も含めた日本国内での肝移植実施数は13年までに累積7474例に達しており、そのうち7255例が生体肝移植であった。生体肝移植7255例についてのレシピエントの累積生存率は、1年後83.8%、5年後77.1%である。なお13年1年間の生体肝移植実施数は369例、このうち116例が小児への移植であった。
98年から小児疾患で、2004年からは成人でも一部の疾患を除いて保険適応となっている。
15年4月、神戸国際フロンティアメディカルセンターで生体肝移植後1カ月以内の死亡が相次いだことが明るみに出た。これを受けて同年5月、日本移植学会は、生体肝移植の実施に際しても脳死肝移植が認められている施設と同等に、集中治療の専門医や麻酔医、日本肝臓学会の認定医、病理医など専門のスタッフが揃い、顕微鏡下で血管吻合のできる設備が整っていることなどを求める緊急の注意喚起を行った。

(石川れい子 ライター/2015年)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生体肝移植」の意味・わかりやすい解説

生体肝移植
せいたいかんいしょく

肝臓移植

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