犯・侵・冒(読み)おかす

精選版 日本国語大辞典 「犯・侵・冒」の意味・読み・例文・類語

おか・す をかす【犯・侵・冒】

〘他サ五(四)〙 物理的・心理的に抵抗して、作用するものを排除する行ないをとる。
① じゃまになる物事を乗り越える。押し切って行なう。しのぐ。
書紀(720)神代下(水戸本訓)「其の女弟(いろと)玉依姫を将(ひき)ゐて直に風波を冒(ヲカシ)て、海辺(へた)に来到る」
坑夫(1908)〈夏目漱石〉「強(しひ)て殺して仕舞ふほどの無理を冒(ヲカ)さない以上は」
② 法律、規則、道徳などに背いたことをする。悪事を行なう。目的語をとる場合は、「定められた範囲(法律、道徳など)を侵す」の形と、「よくないこと(罪、悪、あやまちなど)を犯す」の形の両方が用いられる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)三「菩薩律儀の於に、極重の悪を犯(ヲカセ)る」
③ 他のものの権利や権限を自分のものにする。侵害する。
(イ) 他人や他国の領分や土地などに不法にはいり込む。侵犯する。侵略する。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「多く他方の怨賊有りて侵(ヲカシ)(かす)まむ」
(ロ) 他人の姓を名乗る。
※続日本紀‐神護景雲二年(768)五月丙午「取真人朝臣字、以氏作字。是近姓」
運命論者(1903)〈国木田独歩〉三「高橋の姓は養家のを冒(ヲカ)したので、僕の元の姓は大塚といふのです」
④ 神聖なもの、威厳のあるもの、信仰しているものなどをけがし、そこなう。冒涜(ぼうとく)する。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「阿師、既に天威を触(ヲカシ)つ」
⑤ 人や生物を襲って危害を加える。特に、肉体関係を女性に強制する。姦淫する。
※書紀(720)用明元年五月(図書寮本訓)「穴穂部皇子、炊屋姫皇后を姧(ヲカサム)と欲して」
風雨寒気などが物事を損ずる。侵食する。また、病気や眠け、ある感情などがとりつく。
※発心集(1216頃か)七「諸の悪事、をりにつけつつ皆身をおかす」
平家(13C前)五「甍(いらか)は雨露にをかされて、仏壇さらにあらはなり」
⑦ 他人に逆らう。反対する。
史記抄(1477)一一「あまり其上を干(ヲカ)して諫るによりて」
⑧ 下の人が上の人に願い求める。
源氏(1001‐14頃)賢木斎院をも猶きこえをかしつつ、しのびに御ふみかよはしなどして」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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