かた‐し・く【片敷】
[1] 〘他カ四〙
① 寝るために自分ひとりの着物を敷く。
独り寝をする。古く、男女が共寝するとき、
互いの着物の袖を敷きかわして寝たところからいう。
※
万葉(8C後)九・一六九二「吾が恋ふる妹はあはさず玉の浦に衣片敷
(かたしき)ひとりかも寝む」
※
古今(905‐914)恋四・六八九「さむしろに衣かたしきこよひもや我をまつ覧
宇治の橋姫〈よみ人しらず〉」
② (「かた」が接頭語的に用いられて) 敷く。寝るために着物などを敷く。
※万葉(8C後)八・一五二〇「天飛ぶや
領巾(ひれ)可多思吉
(カタシキ) ま
玉手の 玉手さしかへ あまた夜も いも寝てしかも」
③ 腕や肘(ひじ)を枕にして独り寝する。
※
平家(13C前)一一「よるになれども
装束もくつろげ給はず、袖をかたしゐてふし給ひたりけるが」
[2] 〘自カ四〙
① 傾く。かたよる。
※寂蓮集(1182‐1202頃)「ふる雪に軒ばかたしくみ山木のおくる梢にあらしふくなり」
② 一方にのびひろがる。
※
源平盛衰記(14C前)四八「庭には葎
(むぐら)片敷
(カタシキ)て、心の儘に荒たる籬
(まがき)は、しげき野辺よりも猶乱」
[語誌]「
万葉集」に詠まれ、平安時代には「古今‐恋四」以来、歌語として盛んに用いられた。袖・衣を片敷くと詠む例が多いが、「新古今集」の頃から、旅寝の歌などで、
伊勢の浜荻・草葉・露・
真菅・
岩根・
紅葉などをかたしくという表現が目立ちはじめ、さらに「新古今‐秋上」の「さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫〈藤原定家〉」をはじめとして、①の独り寝をする意で、涙・夢・嵐・波・雲・風・梅の匂などをかたしくといった感覚的な表現が出現する。
かた‐しき【片敷】
〘名〙 衣の袖の
片一方だけを敷いて寝ること。独り寝をいう。→
片敷く。
※
源氏(1001‐14頃)
玉鬘「かへさむといふにつけてもかたしきの夜の衣を思ひこそやれ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報