日本大百科全書(ニッポニカ) 「紅葉」の意味・わかりやすい解説
紅葉
こうよう
一般的には、植物の葉が秋に、落葉に先だって赤に変わることをいう。また、葉が黄色や黄褐色になることを黄葉(こうよう)というが、これらをあわせて「もみじ」という。この現象はかならずしも秋の落葉の時期にのみみられるものではなく、幼葉が一時的に赤色になり、葉の成長とともに消失する場合、葉の全成長期を通して赤色になる場合、秋の落葉直前にだけ紅色を呈する場合の3通りがある。いずれの場合も、葉の中にアントシアン色素が形成されることによっておこる現象で、色素の組成は単純で、植物の種類に関係なく大部分はシアニジンであり、しかもそのほとんどのものが3位にグルコースがついたクリサンテミンで、他のアントシアニンはごくまれにみいだされる程度である。早春に若葉が美しく紅葉する植物はイタドリ、ヤマザクラ、ナンテン、カナメモチなどであるが、葉の成長とともに紅色は消失する。これは、まだクロロフィルの生成が十分でない若葉の中で、茎から転流してきた糖からアントシアンがつくられるためで、伸び出してきたばかりの若葉を紫外線から保護する役割をしているといわれる。事実、アントシアンを含む組織は表皮に限られており、葉の成熟とともにアントシアンは分解消失して緑化してくる。
葉の成長の全期間を通じて紅色を呈する植物は少なく、アカキャベツ、ベゴニア、アカジソなどがある。これらの植物は正常の緑色種からの変種が多く、赤色であるからといって光合成が行われないわけではなく、共存するクロロフィルによって正常の光合成を営んでいる。アカザやケイトウの葉の赤い色素はアントシアンではなく、ベタレイン色素によるものである。
秋に紅葉する植物にはイロハモミジ、ハゼ、コマユミなどのムクロジ科(カエデ科)、ツツジ科、ウルシ科、ニシキギ科、バラ科、ブドウ科などに属する植物が多く、鮮やかな紅葉になる。とくに日本では気候や地形の関係から紅葉が美しい。紅葉が鮮やかに発現するには、温度、水分、光などの環境が密接に関係し、昼夜の寒暖の差が大きいこと、適度の湿度があること、紫外線が強いことなどが必要である。日本でも日光、奥入瀬(おいらせ)、箱根など山間部の渓流の近くで紅葉が美しいのは、そのためである。しかし、これらの条件のほかにも、葉柄の基部に離層が形成されて、転流が妨げられることやクロロフィルの分解速度、葉の中の糖含量などが影響するので、美しい紅葉になる条件は単純ではない。紅葉は、初めは葉の中肋(ちゅうろく)からもっとも離れた部分から始まり、やがて葉身全面に及ぶ。また、ニシキギやツリバナではアントシアンは表皮細胞にだけ形成されるが、このような例はまれで、多くの場合は葉肉組織だけに含まれることが多く、木本植物の60%以上が葉肉組織にみいだされ、草本植物では葉肉細胞と表皮細胞の両方に含まれることが多い。紅葉が枯死するときに褐色になるのは、混在する色素フロバフェンのためである。ヒノキやスギなどの裸子植物の紅葉の色素はカロチノイドで、ルテインやビオラキサンチンの黄色色素に加えて、桃紅色色素のロドキサンチンが新たにつくられてくるためである。
秋の落葉前に黄葉する植物にはイチョウ、ハルニレ、ポプラ、シナノキ、スズカケノキなどがある。これはカロチノイドによる発色で、葉が老化して葉の中に含まれるクロロフィルが分解するにつれて、共存するカロチノイドの色が現れてくるためで、新しい色素の合成がおこるわけではない。黄葉に含まれるカロチノイドは、ルテインやビオラキサンチンなどのキサントフィル類が主体で、カロチン類はほとんど存在しない。常緑樹では春の終わりに新しい葉が出ると古い葉が黄葉して落葉することがみられるが、この場合も秋の黄葉と同じ過程をとるものと考えられる。秋に葉が褐色となる植物にケヤキ、クヌギ、ブナ、コナラ、クリなどがあるが、これは葉の中に含まれる無色のカテキン類が葉の老化に伴って酸化重合して褐色のフロバフェンに変わったためである。褐葉の初期には黄色のカロチノイドが共存しているために、変化に富んだ美しい色彩になる。
[吉田精一 2020年9月17日]