火のない所に煙は立たない(読み)ひのないところにけむりはたたない

ことわざを知る辞典 の解説

火のない所に煙は立たない

火種がなければ煙は立たない。根拠となる事実がなければ噂は立たないはずだという逆説的なたとえ。

[使用例] 果して仙波が十万両の金で買占めをしたか、どうか、それはよく分らぬが、そういう噂がぱっとひろがった。もとより火のないところに煙はあがらぬ道理で、どこの倉庫にも一粒もないように見えた米が、金次第でいくらでも出て来る[白柳秀湖*維新革命前夜物語|1934]

[使用例] どうしてこんな噂が広まったのか、自分でもさっぱりわからなかった。新聞記者から、「火のないところに煙は立たない」と責められたが、鳩が豆鉄砲をくらったというのは、こんなことをいうように、わたしげんな顔をするばかりだった[神風正一*神風一代|1987]

[解説] 世間に流布されている噂は、無責任なものや意図的な中傷もあるので、そのまま信じるわけにはいきません。しかし、噂が出てくるのは、陰に何らかの事実や事情があるのではないか、と強く示唆する表現です。噂だからと一概に否定するのではなく、その裏にある真実を突きとめることにつながる表現です。
 このことわざには、幕末以前の用例が見当たりません。宇津保物語に「けぶり(煙)のたとひ(譬え)」が出てきますが、具体的な内容は不明で、無関係でしょう。その一方で、英語などに類似の表現があるので、西洋由来の表現と考えられます。近年研究で、幕府が安政四年(1857)にリプリントした英語入門書にNo smoke without fire.が収録されていることが判明し、おそらくそこから広まったものと思われます。明治後期には、ほぼ現在の形で定着していました。

〔英語〕There is no smoke without fire./No smoke without fire.

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