流石・遉・有繋(読み)さすが

精選版 日本国語大辞典 「流石・遉・有繋」の意味・読み・例文・類語

さすが【流石・遉・有繋】

[1] 〘形動〙 (副詞「さ」、動詞「す」、助詞「がに」が連なって一語化し、その「に」を活用語尾としたもの)
[一] ある状況をいちおう認めはするが、事柄本質から、または心理的な素地があって、それとは違う状況を認めるさま。
① 「さすがに」の形で、下の実質的意味の語にかかる。そうはいうものの。そういってもやはり。
(イ) それとは逆のことを認めるさま。「ど」「ながら」などを伴う逆接の句を受けるものも多い。
※竹取(9C末‐10C初)「是やわが求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて」
※高野本平家(13C前)一「祇王もとよりおもひまふけたる道なれども、さすかに昨日けふとは思よらず」
(ロ) 評判や自信や表面上の主張があっても、また表面では気付かないでいても、本心の動きや大勢には抗しきれないさま。
伊勢物語(10C前)一四「歌さへぞひなびたりける。さすがにあはれとや思ひけん」
高野聖(1900)〈泉鏡花二三「有繋(サスガ)に、疲が酷いから、心(しん)は少し茫乎(ぼんやり)して来た」
(ハ) 文脈上の期待に反する、または予想以上の情況が起こったことについて、本質的には納得すべき理由があることを認めるさま。なんといってもやはり。
大和(947‐957頃)一四八「ただ二人すみわたるほどに、さすがに下種にしあらねば、人に雇はれ使はれもせず」
徒然草(1331頃)一一「閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがにすむ人のあればなるべし」
② 「さすがに何々だ」のように、実質的な意味をも含む。抵抗する心理的素地があってつきつめられない、また、本性や大勢を抑えきれないさま。そうはいってもやはり何々だ。やはりそうもいかない。そうしてもいられない。
※伊勢物語(10C前)二五「あはじともいはざりける女の、さすがなりけるがもとにいひやりける」
※高野本平家(13C前)九「通盛の卿の文にてぞ有ける。車に置くべきやうもなし、大路にすてんもさすかにて、はかまの腰にはさみつつ」
[二] しかるべき原因が当然の帰結を生んだこと、本性が発揮されたこと、実力や評判に背かないことについて、改めて感嘆するさま。
① 「さすがに」の形で、下の実質的意味の語にかかる。なんといっても。いかにもやはり。
※俳諧・五元集(1747)拾遺「日の春をさすがに鶴の歩み哉」
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉三「流石(さすが)に図書館丈あって静かなものである」
② 「さすがに何々だ」のように、実質的な意味をも含む。なんといっても何々だけのことはある。やはりみごとだ。
謡曲鞍馬天狗(1480頃)「さすがにわ上臈は、常磐腹に三男毘沙門の沙の字をかたどり、おん名をも沙那王殿と付け申す」
③ 語幹を感動詞のように用いる。やっぱり。
[三] 実力や評判のあるものが、その評価どおりにならなくなったことについていい、嘆息したり感嘆するさま。「さすがにしかじかなる何々も」の形でいう。→(二)(三)。
※夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第二部「さすがに賢い継母も一切を父吉左衛門には隠さうと言ふほど狼狽してゐた」
[2] 〘副〙 (「さすがに」の「に」を切り捨てた形)
[一] (一)(一)と同じ気持を表わす。そうはいうものの。そういってもやはり。
(イ) (一)(一)①
(イ) に同じ。
※枕(10C終)一三五「さすがにくしと思ひたるにはあらずと知りたるを」
(ロ) (一)(一)①
(ロ) に同じ。
※落窪(10C後)四「北の方、喜ぶ事、さすが限りなし」
(ハ) (一)(一)①
(ハ) に同じ。
※平家(13C前)八「中納言めさでもさすがあしかるべければ、箸とってめすよししけり」
[二] (一)(二)と同じ気持を表わす。
① なんといっても。いかにもやはり。
※平家(13C前)五「福原は山へだたり江かさなって、程もさすが遠ければ」
② 「さすがは」の形で。なんといってもまあ。やっぱりまあ。
※虎寛本狂言・縄綯(室町末‐近世初)「遉(さす)がは稚い子で御座る。私を見ますると、にこりにこりと笑ひまする」
[三] (一)(三)と同じ気持を表わす。いくら。
(イ) 下に逆接の句を伴う。
※平家(13C前)二「さすが我朝は粟散辺地の境、濁世末代といひながら、澄憲これを附属して、法衣の袂をしぼりつつ、都へ帰のぼられける心のうちこそたっとけれ」
(ロ) 「さすがの何々(も)」の形で。
※虎明本狂言・武悪(室町末‐近世初)「さすがの侍なれど、めいどのみちとて、扇にさへ事をかかせらるるよな」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初「唐紙扇面の攻道具でとりまかれてはさすがの僕もがっかりだ」
(ハ) 「さすがしかじかなる何々も」の形で。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇「さすが青春の気に満ちて、大に同情を寄すべき雪江さんも」
[語誌](1)中古における「しか」と「さ」の副詞の交替によって「しかすがに」からまず副詞「さすがに」へ転じ、次に語尾を活用させて形容動詞となり、さらに「に」が付属語のように解された結果「さすが」が独立して副詞化したもの。
(2)和歌では用例が少ない上に掛詞として用いられる特別なものであるところから、物語や日記で専ら用いられる口頭語的性格が強い語であるとの指摘もある。

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