水底トンネル(読み)すいていトンネル(英語表記)subaqueous tunnel

改訂新版 世界大百科事典 「水底トンネル」の意味・わかりやすい解説

水底トンネル (すいていトンネル)
subaqueous tunnel

河川運河港湾海峡などの水底に作られるトンネル。とくに海底に作られる場合は海底トンネルと呼ばれる。いずれにしても上部には無限ともいえる水があるので,工事中に大湧水があると,トンネルが水没したり土砂崩壊を誘発したりして工事が難航するおそれがある。したがって,工事中の湧水を防ぐことがもっともたいせつで,地質が軟弱な場合にはとくに留意することが必要となる。水底トンネルは青函トンネルのような海底トンネルを除けば,大多数は河口近くの大都市に作られており,地質も軟弱な場所が多い。

水底トンネルの施工法には山岳トンネルを掘削するのと同様な普通工法と,開削埋戻し工法,空気ケーソン工法,圧気シールド工法沈埋工法などの軟弱地盤にも適する特殊な工法とがある。普通工法は湧水を止めるために地山の裂け目をふさぐ防水剤の注入を併用することが多く,地質が軟弱でなく,岩質な地山に適用される。開削埋戻し工法は水深の浅い場所で用いられ,水面の一部を矢板などで締め切り,その中で排水,掘削,トンネル築造,埋戻しの作業を行ってから矢板などを撤去する工法で,この作業の繰返しによりトンネルを完成する。空気ケーソン工法は圧気ケーソン工法とも呼ばれる。水面に島を築いてその上に適当な長さに分割したトンネル本体を作り,本体下の作業室に圧縮空気を送り水の浸入を防ぎながら掘削し,トンネルを所定の位置に沈降させる方法で,これを繰り返し本体を順次接続し完成させる。圧気シールド工法は,水底からトンネル上端までの最小の土かぶりをトンネル直径の1.5倍程度確保して,シールド(大きさがトンネル外径大で長さが4~7m程度の鋼製の円筒状の掘削機械装置)を用い,この中で水の浸入を防ぐため圧気を併用しながら掘削,ジャッキによるシールドの推進,覆工の過程を繰り返しながらトンネルを築造する。沈埋工法はドックなどの他の場所で作られ適当な長さに分割されたトンネル本体を船で沈埋地点まで曳航し,あらかじめ浚渫(しゆんせつ)しておいた溝の中に沈設した後,浮上りを防止するためコンクリートなどで上部を押さえ,隣の本体と接続して順次完成させる工法である。沈埋工法によるトンネルを沈埋トンネルと呼ぶこともある。

水面で隔てられた2地点を橋梁で連絡する場合,その構造形式は水路などの幅や水深,地質,大型船舶の通行の有無などに支配される。例えば大型船舶が通る場合は橋脚も高く,支間も長くせねばならず,取付部も長くなり土地利用や町の発展を阻害するおそれがでたり,航空機の空域制限に抵触する可能性もでてくる。トンネルと橋梁のどちらが有利であるかは一概にはいえず,どちらにするかは施工のしやすさ,工期,工事費,維持管理,機能性などを考慮して総合的に判断し決定される。

水底トンネルの歴史は古く,すでに前17世紀ころに,バビロン第1王朝の首都バビロンで,南北に貫流しているユーフラテス川河底に,宮殿と神殿を結ぶトンネルが作られたという記録がある。このトンネルは延長925m(一説では1500m),水底部190m,幅3.7m,高さ4.5mといわれ,乾季に水路を切りかえ,河底を露出して溝を掘り,天然のアスファルトピッチを用いて煉瓦を積んで作ったものらしい。現代の開削埋戻し工法である。近代になってからはロンドンのテムズ川が発祥の地で,M.I.ブルネルの開発した原始的なシールド(高さ6.5m,幅10.8mの長方形,無圧気)を用い,20年余りの歳月をかけて,1843年に水底部延長460mの河底トンネルが完成した。次いで70年には同じくテムズ川の河底に最初の圧気シールドによる地下道〈Tower Subway〉が作られている。普通工法によるものは,86年完成のセバーン川(ブリストル~ニューポート)とマージー川(リバプール~バーケンヘッド)の複線型鉄道トンネルがある。アメリカにおいては,シールド工法による最初の鉄道トンネルとしてハドソン河底トンネル(1905完成),道路では同じ河底のホランド・トンネル(1927完成)がある。沈埋トンネルとしては,94年ボストン港での下水道用トンネルが最初で,次いで1910年には複線鉄道のデトロイト河底トンネル,28年にはオークランド~アラメダ間に道路用としては最初のポジイ・トンネルが作られた。その後トンネル断面も大型化し,69年に完成したサンフランシスコ~オークランド間のバート・トンネル(複線鉄道,水底部延長5820m)は沈埋式による最長のものである。

 日本の水底トンネルは1942年完成の関門海峡の関門トンネル(鉄道トンネル,水底部延長1140m)が最初であり,現在ではこの海峡には,このほか道路と山陽新幹線の二つのトンネルも作られている。大都市の地下鉄は60年以降建設が盛んとなり,河川,運河の横断も多く,圧気シールドやその他の工法で施工されている。沈埋工法では1944年の大阪市安治川河底道路トンネルが最初であるが,本格的なものは72年完成の全延長が5980mの国鉄(現JR)京葉線の羽田トンネルであり,多摩川(480m)と京浜運河(328m)の下は沈埋式で,森ヶ崎運河(866m)は泥水加圧式シールドで施工している。このほか東京港トンネル(1325m),川崎港海底トンネル(1160m),東京第2航路海底トンネル(1084m)の各道路トンネルや京葉線の台場トンネル(4756m)などがあり,また大規模な海底トンネルとしては青函トンネル(延長53.85km,海底部23.3km)が薬液注入を併用した普通工法で施され88年開通した。
トンネル
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水底トンネル」の意味・わかりやすい解説

水底トンネル
すいていとんねる

運河、河川、港湾、海峡などを横断して水底につくられるトンネル。建設工法としては一般に沈埋(ちんまい)工法またはシールドshield工法が多く採用され、地質が良好な場合は注入工法を大幅に併用した山岳トンネル工法も採用される。河底を横断する地下鉄トンネルなどではニューマチックケーソンpneumatic caisson工法も利用されている。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

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