水密区画(読み)すいみつくかく(英語表記)watertight subdivision

精選版 日本国語大辞典 「水密区画」の意味・読み・例文・類語

すいみつ‐くかく ‥ククヮク【水密区画】

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改訂新版 世界大百科事典 「水密区画」の意味・わかりやすい解説

水密区画 (すいみつくかく)
watertight subdivision

船に損傷や浸水が生じた場合に備えて,船の内部は,水圧がかかっても水が漏れないようにした(これを水密という)仕切りで区切られている。この区画を水密区画という。タンカーでは各タンクが水密区画となっており,損傷の場合には流出する油の量が限定されるように水密区画の大きさを制限している。このように水密区画の考え方は,船体が損傷したとき,船が沈まず転覆しないようにという安全性が第1であり,次に海洋汚染防止の考え方がつけ加わったものである。しかし,船の損傷という不測の海難事故を理論的に考えることはむずかしいため,水密区画の設け方やその基準は多分に経験則に基づいている。

船内の水密の仕切壁を水密隔壁watertight bulkheadといい,その頂部に接する甲板を隔壁甲板という。図に示したように,水密隔壁は,ふつう横置隔壁と呼ばれて船の長さ方向にいくつかの水密区画をつくるように設けられるが,タンカーではさらに縦通隔壁によってタンクを2列,あるいは3列にすることが行われる。また,鉱石専用船やコンテナー船では,両玄側に沿ってバラストタンクを設けるが,これも水密の縦通隔壁である。船底は二重底の水密区画とし(ただしタンカーのタンク部には設けない),この内部もいくつかの水密区画に分割されている。横置隔壁の数は船の大きさにより異なるが,船首隔壁,船尾隔壁および機関室前後の隔壁は必ず設ける。船首隔壁は衝突隔壁ともいい,万一衝突したときの浸水を防ぐものであって,規則により原則として船首から船の長さの5%以上後方に設ける。船首隔壁より前方,船尾隔壁より後方の水密区画はふつう清水タンクに用い,ピークタンクと呼ぶ。同様にして二重底は座礁時の浸水を防ぐものであり,二重底内部の水密区画はバラスト(海水)タンク,燃料油タンクなどに用いられる。

水密隔壁にはなるべく開口を設けず,やむをえず設けるときは水密扉とし,また管や電線の貫通部に対しては水密性を損じないような工作を行う。隔壁甲板は必ずしも上甲板とは限らず,第2甲板が隔壁甲板となっていて,第2甲板と上甲板との間の隔壁には交通用の開口が開いている非水密の場合もある。とくに客船のように多層甲板船で内装が施されている場合には,外見だけでは水密隔壁や隔壁甲板の位置はわかりにくい。しかし船の建造時には水密区画ごとに水圧試験を行い,漏水のないことを確認し,また水圧による隔壁の変形量を計測することもある。現在の船はすべて溶接構造であるが,鋲接構造の時代には水密区画の鋲(リベット)のピッチはとくに細かくし,さらに継目を水密にするためにたたきつぶすコーキングという工作を施した。

水密隔壁の開口部に設けられる水密の扉を水密扉という。水密扉でもっともがんじょうなものは機関室から軸室へ通じる個所の扉である。これは機関室に浸水や火災などの事故が生じた場合に,軸室を経て船尾の脱出トランクから上甲板へ脱出する経路となっているために必ず設けることとなっている。場所がもっとも船底に近く,したがってこれにかかる水圧も大きいため,すべり戸式で金属どうしの表面の圧着(メタルタッチ)による水密機構となっている。これ以外の水密扉はヒンジ式であり,ガスケットと締めつけ金具で水密を保つ。カーフェリーや漁船,作業船などでは玄側に貨物の搬出入用のポートを設ける場合が多いが,この閉鎖装置も水密扉の一種である。ヒンジ式が多く,ガスケットで水密を保つが,大型のものは油圧による締めつけ装置を採用する。

水密区画の定め方は,船の安全性に関しては海上人命安全条約で,またタンカーの油流出の抑制については海洋汚染防止条約で,それぞれ定められており,国際的に統一されている。船の安全性に対しては,ある区画に浸水しても隔壁甲板より下方76mmの線(これを限界線という)までしか船が沈まないように区画の長さを定めるものである。そのため,区画の種類(機関室,居室,貨物倉など)ごとに区画容積に対する浸水量の比(浸水率)を求め,その浸水状態の船の姿勢を計算して喫水線が限界線に達するような区画の長さを求める。これを可浸長と呼び,船の長さに沿って変化する曲線で示される。この可浸長にさらに区画係数を掛けたものを可許長と呼び,どの場所で測った区画の長さもこの可許長以下であればよいとする。区画係数は船の長さや船の用途に応じて定められており,旅客船は貨物船よりも低い値(すなわち安全側の値)となっている。

 オイルタンカーに対しては,船側と船底に分けて,それぞれについて長さ,横および垂直の各方向にわたる損傷の大きさを仮定し,その場合の仮想流出油量がある値以下になるようにする。さらに各タンクごとにその最大容積と長さを制限し,復原性についても計算を行う。仮定の損傷部の寸法やタンクの寸法制限は船の大きさやタンクの位置で異なり,例えば損傷のおそれの大きい玄側タンクは中心部のタンクよりも容積,長さともに小さくおさえられている。

 このような規則の根拠には経験則による部分が相当含まれているが,船体損傷という通常では予測しがたい事柄に対しては万全を期することは不可能である。したがってこのような規則とは別に,つねに船体の状態を監視できるような装置を開発し,たとえ損傷や浸水が生じても復原性の変化や沈没の危険度を予知できるような技術が研究されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水密区画」の意味・わかりやすい解説

水密区画
すいみつくかく

船内の一部が浸水しても船が浮力を失わないように、縦・横の仕切り壁や外板、甲板などで水密に仕切られた区画。水密とは、水圧がかかっても鋼材などの継ぎ目から水が漏れない性質である。水密な構造をもつ仕切り壁を水密隔壁または支水隔壁といい、これによって船内は機関室、貨物倉、二重底などの水密区画に仕切られている。水密隔壁には、船体を輪切りにする方向に配置される水密横隔壁と、船首尾方向に配置される水密縦隔壁とがある。これらは、万一の浸水をその水密区画だけに局限し、船体構造を強化するとともに、火災に対する防護壁、タンクをくぎる壁にもなっている。代表的な水密横隔壁には、船首と船尾を衝突や座礁などから防護する船首隔壁と船尾隔壁、および機関室の前後端を仕切る2枚の機関室隔壁がある。どの船も最小限この4枚の水密横隔壁をもたなければならず、大型船では長さに応じて水密横隔壁を増設することになっている。また、タンカーや鉱石運搬船などでは、水密縦隔壁で貨物倉を縦方向に2列、3列、……とくぎって使いやすくしている。

 昔の船は、手こぎのボートのように、縦にも横にもほとんど隔壁をもっていなかった。沈没防止を意識して水密横隔壁が設けられ始めたのは1850年ごろからで、19世紀の末にイギリスでこの隔壁に関する調査委員会が発足し、その構造と配置についての研究が始まった。ちょうどその復命書が完成するころ、タイタニック号の遭難事件が起き、この問題が世の注目を集めた。豪華客船タイタニック号は、1912年の処女航海で氷山と衝突し、船首部の五つの水密区画に浸水した。この部分の浸水だけでは沈没しなかったものが、船首の沈下によって後方の多くの水密区画にまで浸水が及んで、ついには沈没してしまった。この海難事件に刺激されて、1914年に調印された「海上における人命の安全のための国際条約」では、水密横隔壁を配置する間隔とその構造についての規定が盛り込まれた。それは、国際航海をする旅客船はどの水密区画に浸水しても浮いていられるような間隔で水密横隔壁を配置し、浸水後の喫水増加による水圧に耐えられるような構造とする、というものであった。この規定は、その後の技術の進歩に応じてたびたび改正され、日本では船舶安全法のなかの船舶区画規程でその詳細が定められている。

[森田知治]


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百科事典マイペディア 「水密区画」の意味・わかりやすい解説

水密区画【すいみつくかく】

船の内部を多くの区画に分け,浸水,損傷を生じてもその区画だけにとどめ,浮力を失わないようにするための構造。オイルタンカーでは原油流出を防ぐ目的がある。縦,横,水平ともに十分な強度の水密隔壁で囲まれ,開口部は非常の場合に水密に閉鎖できる水密扉とする。船殻(せんこく)工事後厳重な水密試験を行う。
→関連項目航空母艦船倉タイタニック号

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