死神(人を死に誘う神)(読み)しにがみ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「死神(人を死に誘う神)」の意味・わかりやすい解説

死神(人を死に誘う神)
しにがみ

人を死に誘う神、または人に死ぬ気をおこさせる神をいう。死神ということは近世になって歌舞伎(かぶき)芝居や花街の巷(ちまた)などで多く口にされるようになった。近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『心中天網島(てんのあみじま)』に「死神憑(つ)いた耳へは、意見も道理も入るまじ」とあり、同じく『心中刃(やいば)は氷の朔日(ついたち)』に「同じくは今こゝでちっとも早うと、死神の誘ふ命のはかなさよ」とある。また三好想山(みよししょうざん)の『想山著聞奇集』に「死に神の付たると云(い)ふは嘘(うそ)とも云難き事」という一節があり、ある女郎に死神が取り憑き客の男と心中を遂げたことが記してある。

 現代においても死神ということは各地でいわれている。彼岸墓参りは普通、入りの日か中日にするが、岡山県下ではアケの日をサメともいって、この日に参ると死神に取り憑かれるという。また入りの日に参ればアケの日にも参らねばいけない、片参(かたまい)りをすると死神が取り憑くという。静岡県浜松地方では、山や海、または鉄道で人が死んだあとへ行くと死神が取り憑くという。そういう所で死んだ人には死番(しにばん)というものがあり、次の死者が出ない限り、いくら供養されても浮かばれないので、あとからくる人を招くのだという。死神の背景には、祀(まつ)り手のない死者の亡霊仲間を求めて人を誘うという考え方があったと思われる。

[大藤時彦]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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